剥がれ落ちていく言葉

あたしは大きな木に寄りかかって海を眺めながら、煙草に火をつける。
あの時も、此処に来ては海を眺めていた。


何であんな事言っちゃったんだろうーー


そりゃあ確かに少しは思っていたけど、思っていてもあの場所で言うべき事じゃなかった。
それなのに口から出た言葉は、半分本音で最後は嘘だった。
シャンクスを傷つけ、マキノさんや楽しくお酒を飲んでいた皆には嫌な思いをさせてしまった。

この二年間・・・・・・最初の頃は船に戻りたいとかシャンクスに会いたいとか思っていなかった。
そんな事を思う暇もないくらい生きるのに必死で、がむしゃらに働いて、周りの人に助けてもらいながら生きてきた。
生活が落ち着いてきた頃、ふと赤髪海賊団を思い出した。シャンクスに会って謝りたいとか、もう一度シャンクスに会いたいと思うようになった。
だけど今更そんな勇気もなくて、マコトとの連絡もバレないようにしていた。
シャンクスへの思いが残っているから、さっきシャンクスに誘われた時、心が揺れた。
それなのにあんな事を言って、全てを滅茶苦茶にしてしまった。

本当に素直じゃない性格ーー


「泣いてんのか」


突然、背後から声が聞こえた。

「マコト・・・・・・ベン・・・・・・」

涙を拭って後ろを振り返ると、マコトとベンが立っていた。
マコトは「よいしょっと」と言いながら、ユリアの隣に座る。
ベンは立ったまま、木に背を向けて寄りかかる。

「・・・・・・シャンクスに酷い事言っちゃった」
「後できちんと謝ればいいんじゃねぇか。でもまぁ・・・・・・言い過ぎだとは思うが、ありゃ半分以上はお頭が悪いからなぁ」
「でも言っちゃいけなかった。あの場で言うべき事じゃなかった。皆にも嫌な思いをさせちゃったし・・・・・・」
「・・・・・・そうだな。たとえ半分嘘でも良くなかったな」

マコトはいつもハッキリ言ってくれる。
しかも一部は嘘だと気がついてる。

「お前に派手に振られたもんだから、お頭すげー落ち込んでるぜ。お前が飛び出した直後、ルゥ達に派手にからかわれてたけどよ」
「振られたって・・・・・・!」
「・・・・・・分かってる。それと船に戻るか戻らねぇかはお前の自由だ」

お頭と船員達は、ユリアが船に戻るのは大歓迎だ。勿論、副船長もな。
お頭はこの二年間、お前の事をずっと心配していた。お前の名前をよく口にしていた。
一度だけお頭とサシで飲んだ時、こんな事を話してくれたんだ。

§


俺はユリアの事を今でもずっと愛している。
一度だけならず何度か娼館で働く一人の女と関係を持っちまったのは本当に悪いと思ってる。その女は俺の腕の中で、ハッキリと拒絶したからな。
不思議なもんだ・・・・・・様々な理由で働く人達がいるから差別するつもりもそんな気持ちも全くないんだが、ああいう仕事をしていた割に其処はいつも拒んでいたからな。
過去に何か辛い事があったから、ああいう台詞が出たんだろうが・・・・・・


ーー私は嫌です!こんな事したら、本当の彼女が傷つきますよ!彼女を裏切る事になるんですよ!私は絶対に嫌です!離してください!!ーー

それなのに口説いて無理矢理抱いちまった。子どもができたとは聞いてねぇし、翌日からあそこには行ってねぇから、その後の事は分からねぇが・・・・・・
その女はユリアを飲みに誘って教えたらしいな。彼女にも悪い事をしてしまったが、ユリアには一番やっちゃいけねぇ事をしてしまった・・・・・・
何をどう言ったって嘘や言い訳にしか聞こえねぇが・・・・・・あれは単なる口説き文句であり、本気で言った事じゃない。
俺は今でもユリアの事を愛してるし、俺にとっては他のどんな女よりもユリアが一番の女だ。ユリアを手放したくない。

§


そんな事、言ってたんだ・・・・・・

「お前が飛び出した後な、本当の事を知ったマキノさんが初めてお頭に怒ってよ」
「マキノさんが?」
「そりゃあ凄かったぜ。お頭は土下座する勢いで怒鳴られてたんだぜ」

いつも温和なマキノさんが、珍しい・・・・・・


§


あんな事されたら女性は誰だって傷つくし、そりゃあ怒りますよ!!それを知ったユリアちゃんがどれだけ傷つき、どれ程苦しんだか・・・・・・!!
ユリアちゃんが船長さんの元を離れて連絡も取らなかったのは当然ですよ!私だって、そんな事されたらユリアちゃんと同じ事するかもしれません!
ユリアちゃんときちんと話をして、謝ってください。
落ち着いたら、ユリアちゃんを迎えに行ってあげてください。ユリアちゃんはきっと、船長さんが迎えに来てくれるのを待ってますよ。
今度こそ、ユリアちゃんを大事にしてあげてください。ユリアちゃんの事をまた傷つけるような事したら、私・・・・・・船長さんの事、軽蔑します!

§


マキノさん・・・・・・そんな事言ってくれたんだ・・・・・・

あたしは涙ぐむ。

「・・・・・・マキノさんにお礼言わなきゃ」
「その前にお頭と話だな。此処に来るように言っとくから」
「うん・・・・・・」
「さて、俺はそろそろ店に戻るわ」

マコトはあたしの肩をポンッと軽く叩き、立ち上がって歩き始めた。