最後に交わした口づけ(完)

「何か騒がしいね。喧嘩かな?」
「多分な」

離れた位置で傍観している人の視線を追うと、広場の中心には二人の男が争っているのが見えた。
両方とも刀や銃を持っていた。

長い事争っているのだろうが、疲弊している様子も見られ、勝負はもうすぐ着くだろうと思われた。
ユリアを危険な目に合わせないように、これ以上は近寄らないように通り過ぎようとした。

だが、出来事は一瞬だった。
銃を打つ音がした刹那、撃たれた筈の男が間一髪で避けたせいで、弾がユリアに命中してしまった。
弾が命中してしまったユリアは、スローモーションのようにゆっくり倒れ込んだ。

俺は慌ててユリアを抱き抱えたが、ユリアの身体からは大量の血が流れていた。

「ユリア!!」
「ユリア・・・どうして・・・こんな事に・・・」

気がつけば、涙が溢れていた。
ユリアが一番気に入っていて、よく着ていた白のAラインのワンピースが、大量の血に染まっている・・・

辺りは、桜が散っていた。

「どうして・・・ユリア・・・ユリア!!」
「・・・ 、 ・・・」
§

たまたま通りかかったヤソップやベン達が俺達を見つけて、すぐドクターの所に運んでくれた。
ドクターは「最悪の事態を覚悟しておいてくれ」と言い残して処置室に入ってユリアの手当をし始めたが、傷が深い為か長い事時間がかかった。
いつのまにか船上にはクルー達が戻ってきていた。
俺は俯いて、ただひたすら処置が終わるのを待っていた。
どれだけ経ったのか処置室の扉が開く音がした。
顔を上げるとドクターが出てきた。

「・・・ユリアは?」
「最善を尽くしたが・・・」

尋ねると、ドクターはそう言って静かに首を横に振った。

「・・・嘘だろ?・・・なぁ、」
「嘘じゃない・・・」

ーー弾が胃を貫通して、それが致命傷になって大量出血を起こしたんだ。ユリアを助けてやれなかった、すまないーー

処置台に横たわるユリアは、まるで眠っているかのように綺麗な姿で横たわっていた。
触れたユリアの身体は、まだうっすら体温が残っていて温もりを感じ取れた。
唇もまだ温もりがあり、そっと唇を重ねた。

ユリアとの、最後のキス。

翌日、荼毘に付したユリアは小さく姿を変えた。
クルー達も皆、泣いていた。
ユリアを守ってやれなかった後悔から俺は暫くの間、塞ぎ込んでしまった。

この春島で見た桜の木。
クルーがここから桜を少し頂戴してきて、ユリアの遺骨の隣に飾ってくれた。
春島を出航したのは最初の予定よりかなり延びてしまったが、クルー達のお陰で少しずつではあるが立ち直りつつある。

春島に上陸したあの日、ユリアと買い物に行く前に一人で寄った店で、二人の指輪を買った。
それを持ってユリアにプロポーズするタイミングを考えていた矢先の出来事だった。

これからもずっとユリアの事を忘れる事はない。
俺は生涯、ユリアだけを愛し続ける。
最後にユリアが俺に言ってくれた言葉を忘れない。

ーーシャンクス、愛してるーー
〜 END 〜

* あとがき *
切ない話となってしまいました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
(2019.03.08)