追憶

「よう!ユリア!」
「あら、ルフィ。いらっしゃい」

酒場に、いつものようにルフィがやってきた。

生まれた町を出て、あちこちの国を訪れたり、色んな村や町を旅をしながら転々として、10ヶ月前にフーシャ村に訪れた時のどかな感じや村人達の温かさが心に染みて、此処が気に入った。


2週間程フーシャ村に滞在してみて、居心地の良さに益々フーシャ村が気に入り、しばらくの間住んでみようと思った。
滞在中に住む家を探しながら合間に買い物したり、マキノさんの酒場にちょくちょく行ってた為、自然とマキノさんやルフィと仲良くなった。

話の流れで、「此処にしばらく住もうと思ってる為、住む家を探している」事を話したら、「それならウチに住む?あたしは構わないわよ。働く場所も探してるなら、ウチで働かない?」ってマキノさんが言ってくれた。
住まいに関しては最初は遠慮して断ったけど、マキノさんが「気にしなくていいのよ。是非そうしなさいよ」って言ってくれたので、マキノさんの家に下宿みたいな感じで住まわせてもらいながら、マキノさんの酒場で働かせてもらう事になった。


「それでなユリア!シャンクスってスゲーんだぜ!!」

ルフィが目を輝かせながら、またシャンクスって人の話をしている。
酒場に来る度、いつもシャンクスという人の話をするもんだから、マキノさんにどういう人なのか聞いてみた。

「ねぇ、マキノさん。シャンクスって人は一体どういう人なの?」
「あ、そっか。ユリアちゃんは船長さん達が出発した翌日に、此処に来たんだものね」

それからマキノさんは色々話してくれた。

あたしがフーシャ村に来る前日、フーシャ村を出発した赤髪海賊団の船長さんで、ルフィが憧れている人なんだ、と。
もう一回航海したらフーシャ村にまた来るみたいだけど、次に来る時が最後だと船長さんが言ってたから、今の航海が終わって此処に来て、次の航海に出発したらもう此処には来ないと思う、と言ってた。


そんなに凄い人なのかなーー

「ねぇ、ルフィ。そのシャンクスって人は、そんなに凄いの?」
「勿論!シャンクスは一番強いんだ!!」
「ふ〜ん・・・」
「ふ〜んて、ユリア!」
「だって、あたし会った事ないから分かんないんだもん」
「あ、そっか」
「船長さん達はそのうち此処にまた来るから、ユリアちゃんも会えば分かるわ」
「そうだね」

それから、しばらく3人で話をしていた。


ーーーーーーーー


その頃の赤髪海賊団ではーー

甲板ではシャンクスとベンが話をしていた。

「あと2ヶ月くらいか?フーシャ村まで」
「このまま何もなければ、あと2ヶ月でフーシャ村に着くだろう」
「そっか。ルフィは少しは強くなってんのかな」

そう言って、シャンクスはカラカラ笑う。

「・・・どうだろうな」

ベンは新しいタバコに火をつける。

今日も赤髪海賊団では甲板で宴会を催している。

雲ひとつない真っ青な晴天の下、コバルトブルーの青い海の上を、赤髪海賊団の船はフーシャ村に向けて順調に航路を進んでいる。

ーーーーーーーー

更に2ヶ月の月日が流れた、今日も晴天に恵まれたフーシャ村。

「よし、終了!」

洗濯物を干して、あたしは海を見る。

コバルトブルーの青い海。

いつか、会えるだろうかーー

海に出て、何処かで海賊として生きているであろう父親と・・・

あたしが旅に出た理由は、海賊になった父親を探す事。

お父さんはあたしが10歳の時に、お母さんとあたしと妹を残して海賊になって出ていった。
それから5年後、あたし達姉妹を育てる為に苦労したお母さんは、無理がたたって病に倒れ、半年後に亡くなった。
お父さんは家を出たっきり、一度も帰ってこなかった。
だから、お母さんが亡くなった事も苦労した事も知らないだろう。
お母さんが亡くなって数年後に、2歳下の妹は優しい男性に巡り会い、2年の交際を経て20歳になった今年、結婚した。


ーーこの人なら大丈夫。妹を幸せにしてくれるーー


それを見届けて、あたしはお父さんを探して旅に出た。
航海術や海図とかを必死で勉強し、船は知り合いから調達してもらった。
自分の身を守るくらいの力も身につけた。

旅に出る日、妹は凄く心配して泣きながら見送ってくれた。
「たまには必ず連絡するから」と言って、町を出た。
姿が見えなくなるまで手を振ってくれた妹。

いつか町に帰るつもりではいるけど、果たしてどうなる事やら。
お父さんに会ったら積年の恨みでもぶつけてやろうか。
今更、父親を連れて町に帰るつもりなど更々ない。
今更、海賊から抜けられないだろうし、やめられないだろう。
その気なら海賊にならなかっただろうし。


「ユリアちゃん、お昼にしましょ?」

ふいに後ろから声をかけられて、振り返るとマキノさんがいた。

「あ、はい」

随分と昔を思い出していた。

酒場に戻って、あたし達はお昼にした。

「ユリアちゃん、聞いてもいい?」
「ん?どうぞ」
「どうして旅をしてるの?」
「あぁ・・・そういえば話をしてなかったね」

あたしはマキノさんに全てを話した。



「そっか・・・今まで大変だったのね」
「まぁ、ね・・・でも妹は良い人と結婚したし、」


ーー彼なら妹を幸せにしてくれるだろうから・・・ーーー


「ゴメンね、辛い事を思い出させちゃったね」

マキノさんは慌てて謝ってくる。

「いいの、気にしないで。さっき海見てた時に既に思い出してたから」
「あ、そうなの・・・」


それから話題を変えて色んな話をした。

「もしかしたら赤髪海賊団の船長さん、ユリアちゃんのタイプかもね」
「えぇ〜!どうして!?」
「フフ・・・そんな気がするだけ」

マキノさんは可笑しそうに笑っている。
気になるな、そのシャンクスとかいう人・・・



「マキノ!ユリア!帰ってきた!!」

突然、酒場の扉が開いてルフィが叫びながら入ってきた。

「ルフィ、びっくりするじゃない」
「ゴメン、マキノさん!でも帰ってきたんだよ!」
「帰ってきたって、誰がよ」

慌てて言うルフィに問う。


「シャンクスだよ!シャンクス達が帰ってきたんだよ!」
「え?船長さん達が?」


あたし達はご飯もそこそこに、ルフィに着いて停泊場まで向かった。


今まで、話で聞いてただけの人にやっと会える。