『坂田 銀時』と夏休み!
「銀ちゃん、お化け屋敷に行こう!」
暑さにダラけていた万事屋銀ちゃん、正しく言えばその店のオーナーに雷の如く衝撃が走った。
夕方と思えぬ夏の気温にイライラしながらも、愛読書である週刊誌を堪能していた銀時に、恋人依泉がそう言ったのは今から10分程前の事だ。
彼女曰くここ最近巷で噂の移動式お化け屋敷が、ちょうどこの町に来ているらしい。せっかくだから恋人同士行ってみたいと思う依泉は1mm違わずごくごく普通の乙女心を持っている。欠点をあげるとすれば、恋人を選び間違えた事だろうか。それを現すように銀時は今から仕事だのなんだのと目を泳がせながら言う。とんだ口からでまかせだ。
そう、彼はお化け屋敷が大の苦手である。
「残念だなー面白そうなのになー。まぁそこまで行きたいなら神楽とでも……」
自分から対象を反らせようとする銀時の目論みは失敗に終わった。ガシ、と背後から従業員……もとい子供二人に、銀時は情けなくも羽交い締めにされる形となる。
「嘘アル!さっき銀ちゃん仕事ない仕事ないって言ってたヨ」
1分程の短い言い争いが続き、新八が連れていけと言う事でその口論は終止符を打ったのだった。自分らで店番をしておくなんて、なんて頼もしい事か。一先ず回想を終える事を此処に報せておく。
「……ねぇ銀ちゃん」
「んー?」
目的地への道半ばで、銀時は先程ようやく諦めたところだった。すると今度は段々と依泉が萎れていき、温かい夕日の下で包み込まれるように二人の歩調はゆっくりとその速度を落としていく。
「神楽ちゃんと新八君、良いコだね」
「そうか?」
「そうだよ」
もしかすると2人だってお化け屋敷行きたかったのかもしれない。なのに普段2人きりになれないからって私達に気を使ってくれてたりしたら……?もしそうなら、よっぽど私の方が子供じゃないか。それに……さ、
「ねぇ、銀ちゃん」
「んー?」
2人が先程と同じ台詞を繰り返した時、ちょうど肝試し会場である神社の前へ到着した。
意外と人は少なく、今すぐにでも入場できそうだ。けれど、2人は一度そこで足を止めた。
「もしかして……幽霊とかダメだったりする?」
「な……っ、」
もしそうなら、困る。留守番してくれてる2人の分も楽しむくらいじゃないと申し訳が立たない。
「もしそうなら……やっぱり、」
言い出した手前「帰ろう」と言う事もできず依泉は視界を閉ざしきゅ、と唇を噛みしめた。
その時頭にふわりと大きくて心地好い掌の感触がする。
「なーに言ってんだ。天下の銀さんが幽霊なんか恐い訳ねェだろ?余計な心配すんなよ」
「……」
そのまま振り返りもせず歩きだした銀ちゃんに、依泉は安堵する。
そうだよね。これが私の知ってる銀ちゃんなんだ。と微笑みながら。
「銀ちゃんの、ばーか」
頭に置かれた手が震えっぱなしだったって、それ位気付いてるよ。無理してまで行こうとなんて思わなかったのに。それでも口には出さないんだよね。
とにかく今は目の前の事を楽しもう。だって、ほら。蒸し暑い夏の夜に恋人と2人肝試しだなんて、楽しそうだと思わない?……まぁ、後は銀ちゃんさえ恐怖に打ち勝ってくれれば文句なし、なんだけど。
3人の優しさにありがとうと呟いて、私は銀ちゃんの隣まで走っていった。
お化けなんてウソさ
案の定、甘い雰囲気どころか恋人の情けない姿を見る事になってしまったけれど。
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題名参考→♪おばけなんてないさ
執筆2008.08.11.mon
加筆2009.07.24.fri
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