「シゲル君」
「はい?」
「シゲルはどんなポケモンもらったんだ?」
言われた通りきちんと「君」をつけて下手に出たサトシは珍しい。そうまでして聞きたいのは、やっぱりポケモンの話だったよう。
けれどシゲルはさっきの笑顔から少しばかり眉を吊り上げて、振い上げた手に持っているモンスターボールをサトシから何気なく遠ざけた。
「君に言う義理はないね。ま、僕はポケモン研究家オーキド博士の孫だからね!おじいさまの名にかけて、それなりのポケモンはもらったぜ」
「えっシゲルの最初のポケモンなら……むぐ!」
さらっと会話に入りこもうとしたら、素早く反応したシゲルに口元を塞がれた。
「ダメだよシイナ。僕が秘密にするなら君が言う事じゃあない」
「隠す事でもないじゃない?」
「そうかもね。でもダメなものはダメなんだよ。シイナの頼みは聞いてやったんだから、シイナもこれ位の事には従うべきだ」
確かに寝坊も遅刻もしなかったシゲルにとって、サトシを待っている時間は退屈以外の何物でもなかっただろう。それは私も同じだけど、頼み込んだのは私で、頼んだ理由はサトシの為でもあるけれど、ほとんどが自分の為だった。
「うーん……じゃあ、分かった。言わないどく」
「なんだよ俺だけ仲間外れかよ……」
「それは寝坊のサトシが悪いよ」
じとっと恨めしそうに言われても、私は今シゲルの頼みを断れる立場にないのだからどうしようもない。そもそもそれだって寝坊のサトシが悪いのだから。そういう意味を込めて視線を彷徨わせれば、サトシは気にする事をやめたようで、どうせ後になれば分かる事だと開き直った。
「それで、シイナは見送りか?あれ、でもその荷物……」
「そうそう!本題なんだけど……の前に、はいポーズ!」
カシャと軽い音をつけて、私は手持ちのカメラのシャッターを切った。現像してみない事には100%のことは言い切れないけど、シゲルは意外にちゃんと撮られる顔をしていて、サトシは半分反応しきれずな微妙な顔だと思う。
「え?パジャマで記念撮影?」
「シゲルが行っちゃう前に撮っとこうかと。それで本題なんだけどね、サトシ!」
なに?と言いつつサトシが微妙に一歩下がる。それは私がかなり真面目な顔をして会話の距離から若干サトシに詰め寄ったからであり、そうしたのは、私が今から言う事は真剣そのものであるときちんと認識してもらう為。
「今日これからはじまるサトシの旅に、私を同行させてください!」
「……はい?」
「だから、2人旅しようって!」
分かりやすくクエスチョンマークを飛ばすサトシに、更に詰め寄った私。
物分かりが悪いサトシに対してかそれとも私に対してなのか、やれやれとまた嘆息するシゲル。
「そして写真を撮らせて!私が将来写真家になるのが夢なの知ってるよね?コンクールに出す題材が欲しいの!ポケモントレーナーの歩みをルポ写真みたく構成できたら面白そうだなって思ってるんだよね、で、サトシ被写体になってくれないかな」
一気に捲し立てるような説明をした後、しばらくぼやっとした顔でいたと思ったらどうやら考えていたらしく、サトシはシゲルと私を見回して一言言った。
「やだよ俺、幼馴染みと旅なんて」
「私の夢はサトシにかかってるの!」
今ここで断られれば、私の夢も出ばなを挫かれる事になる。シゲルのスタートが遅れたのだってほとんど無意味になってしまう。
カントー地方最大級の芸術コンクールは、優勝すればプロへの道に直結すると言っても良い。その分参加者は多く、レベルも高い。中途半端な写真ではダメなのは、目指す私がよく分かっている。だから、そう簡単に折れる訳にはいかない。
「重いよ!嫌だってば」
「重くない!この鞄には夢と希望と」
言いながら地面に置いていた鞄を取り、サトシにぐっと押し付ける。
「商売道具が詰まってるんだから!」
「おわわっ!重っ!」
危うく鞄を落としてしまいそうだったサトシだけど、予想はついていたので持ち手は放さなかったので問題ない。
大きな鞄の中身は大半がカメラ関連の物で、メンテナンス道具や撮影に必要な三脚まで入っているのだから、重量的に重いのは当たり前だった。
「夢を重いと感じるようじゃ、サトシも当面ポケモンマスターにはなれそうにないね」
「なにをー?まずはバッジ8個集めてからだろ」
下手な挑発でも始めようかとしたけれど、サトシの微妙に方向の逸れた返事に毒気を抜かれそうになる。ポケモンマスターはあくまで彼らの最終目標であって、長旅じゃなきゃ私が困る。
「シイナ、その辺にした方が良いんじゃないか?」
「……シゲルも私の夢を応援してくれないんだ?」
良い返事をもらうには難航していた会話に、さっきまで黙って聞いていたシゲルが痺れを切らしたのか割り込んできた。けれどそれは私への制止の言葉だった為、思わず恨めしい顔でシゲルを見つめた。
「応援はしてやっても良いよ。けどどうやらサートシ君の方はポケモンリーグに進出する自信がなさそうだからね。キミに着いてこられちゃ困るのさ」
「なにぃ……!?」
サトシが心外とでも言いたげに眉を寄せるも、シゲルは素知らぬ顔で私の方を向いて話を続けた。
「バクチ打ちのサトシに着いて行くんじゃキミの人生もバクチと一緒だよ。どうだい、被写体にするならここは将来有望、ポケモンリーグ進出間違いなし!おじいさまの孫である僕の方が適任に思うけどね!」
「あ、えーとシゲル?気持ちは嬉しいけど……」
正直な話、私としてはその“かの有名な博士の孫ポジション”が媚びてるみたいで一番シゲルを選ばなかった理由であったりする。なんて事は全部言う気もなかったけれど、少しも口から出る事無く、もう我慢ならないとでも言うように声を上げたサトシによって途中で遮られてしまった。
「あーもー!さっきっから黙って聞いてれば!いいか、俺はポケモンマスターになる男だ!ポケモンリーグには勿論出る!そしてシゲル、お前を倒して絶対に優勝してやる!シイナ!」
「はい?」
「そういう訳だからシゲルにするくらいなら被写体は俺で決まりだ!」
「えっ……良いの!?」
さっきまで散々渋っていたのが嘘のように、乗せられたサトシは聞きたかった返事をようやく口にした。
でも、ムキになっただけの勢い発言じゃないよね!?覚悟までちゃんとついてきてるんだよね?二言なんて認めないよ?
「俺がポケモンマスターになるまでをちゃんと撮っといてくれよ!」
「うんっ!やったーありがとうサトシ!」
私の不安もなんのその。しっかり得意気な笑顔でそう言ったサトシに、私の夢の道に光が射した。寝起きのパジャマじゃなければもうちょっとカッコがついたのに、なんて事は言わないでおく。
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