「するんでしょ?イノセンスかどうかの確認」
「…………あー、それなんですけど」
唐突に現実に引き戻されたような感覚を覚える。そうだった。困ったな、再会に驚いたり喜んだりしている場合じゃなかった。
教団に知れたら彼女はきっとイノセンスと切り離される。まだ本当にそれとは限らないけど、他に思い当たるものもない。彼女はイノセンスを介してようやく声をこの世に伝えられるような存在なのに、それを失っては意思を伝える術も無くなって、下手したら僕の左眼でも探してあげられなくなるかもしれない。
彼女が既に亡くなっているのなら、その魂は一生彷徨う事になるかもしれない。彼女が生きているとしても無理に引き離したりすれば、そのショックでもしかしたら本当に、死んでしまったり――――
「なに、黙っちゃって。顔暗いよ?ただの検査なんでしょ。人体実験みたく死ぬほど辛い思いでもするんじゃあるまいし」
「…………」
「……まさか死んじゃう?」
頭の中に過ぎっていた言葉がミーアの口から飛び出して来た事にどきりと心臓が跳ねる。さっきから言葉に詰まってばかりの僕の表情は多分どんどんマズい事になっていて、それを見た彼女が途端顔色を変えた。
「え、なにそれこわい。私帰る」
「待って!」
窓の外を見るようにそっぽを向いた動作に焦って伸ばした手は勿論ミーアに触れる事はない。バランスを崩して惨めにベッドから転がり落ちると、何故だか未だにそこにいたらしいティムの丸いボディがあって、気が付けば幽霊の代わりにゴーレムをむんずと掴み取っていた。
「えーと、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
受け身も取れずに顔から落ちたから鼻と額が痛いけど。そんな事は今どうでも良い、ちゃんと彼女に説明しなければ。けれど起き上がり話し始めた内容はどんどんミーアの表情を険しくさせていく事になる。
「そうですね。検査自体はちょっとしんどいかもしれないです。身体中探られる感覚っていうか。でもその時だけですし、検査する人も見た目はこわくてびっくりするかもしれませんが」
「実家に帰らせて頂きます」
「いやいや待って下さい!怖いのは見た目だけ!とっても優しいんですよ。ただ……イノセンスだと判明した場合、君の中に宿るイノセンスは、闘いの為に取り出されてしまうかもしれない。…………そうしたら、君は」
落ちていく視線を意識的にちらりと彼女に向ければ、ちょうどミーアがフッと鼻で笑った。今まで見た中で一番冷たい表情をしていた事に心臓の辺りが冷えていく気がした。
「ああ、声が聴こえなくなって、アレンにも視えなくなるかもって話?」
「…………そういう事です」
予想通りであろう返答を聞いた彼女から隠す様子もない怒りの滲んだ表情で数瞬睨みつけられる。
海のようだと思っていたはずの瞳が、まるで今は絶対零度の氷のようだ。
冷えていくなんてものじゃない。例えば氷の刃が少しでも動こうものなら全身に突き刺さるような、そんな緊張感だ。
「なにそれ、その上で連れて来ようとするなんて、アレン結構ひどい人だね。ああでも、知り合いでもない幽霊がどうなったって関係ないか。ましてや貴方は世界の為に闘ってるんだもんね。生きてる人ならともかく、死んだ人の事まで――」
「違うんですっ!だから、見つからないようにしましょう!」
「…………えっ?」
「僕も黙っています!君も気付かれる事のないよう僕以外がいる場所では決して話さないで下さい。こんな眼を持っているのは僕だけだから、きっと君の事が視えるのも僕だけだ。なら、声さえ聞かなければ君の存在に気が付くのは不可能だと思うんです。だから、」
「待って!アレンちょっと待って」
僕の言葉を遮ってミーアが繰り返す。彼女は大きくなった声を意識的に落とす為か勢いのまま言葉を吐き出さないようにする為なのかゆっくりと深呼吸をした。
同じように僕も溜め息に近い呼吸でどくどくと早まる心臓を落ち着かせようと試みる。彼女から止め処なく繰り出される言葉を止めるのに必死で言葉を重ねてしまったけど、悲しい事実がさらりと判明してしまった。
W死んだ人W
やっぱり彼女は亡くなっているんだ。
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