ふと、それは沸点を迎えた湯水が激しく唸る瞬間のように突然の事。
私は気付いた。こんなに悩む事なんてないんじゃないか。だって私が好きなのは山本君、それは変わらない。告白されたと言ってもツナだって私の気持ちは十分に知っている。それにあの時一応“ごめん”って言ったよね?
ねぇ、その言葉が色んな意味を持てる事くらい、ツナだって気付いているでしょう?

協力を頼まれた京子ちゃんだってツナが好きな訳だから、私自身が山本君と両想いであれば、全ては丸く収まるんじゃない?
近頃で起きた全部をバネにして、今までどうしても口にする事を臆病としていた言葉を振り絞る。

私は、山本君が好きです。


「ごめん」

放課後の教室。まだまだ太陽が天高くにある、先程ようやく人気がなくなったばかりの時間。私のずるい考えは、脆くも山本君が申し訳なさそうに言った一言に全て崩れ去ったのだ。もう一度謝った山本君は、その声で京子ちゃんが好きだと言った。
そんな、何で?だって京子ちゃんは……―

「でも笹川はツナの事が好きなんだってな」

ああ、そうだよ。知っていたの?どうやら昼休み、京子ちゃんとの会話を聞かれていたらしい。じゃあ多分、私の気持ちも聞かれてたんだろうなぁ。

「だからってオレは諦めてないけど」
「……え?」

呆然と山本君の声を聞いていると、思いもしない台詞が次々と出てくる。だからさ、といつもみたいに笑った山本君に、嫌な予感がするのは何で?

「頼む!雨澪にオレと笹川の仲を取り持って欲しいんだ!」

肩の荷は一時足りとも下りる事なく、こうしてまた増えていく。それも今回は今までよりずっと重い荷物じゃないかとすら思う。失恋に上積みされたショックは計り知れない。
山本君。ねぇ山本君。どうしてそんな事、私に頼むの?貴方を好きだと言った私に、どうして?
私を試すように見つめる山本君の視線に射抜かれる。やっぱり嫌か?なんて分かってるならどうして言うの!

「良い……よ」
「本当か!?やった。雨澪は優しいな!」

山本君の頼みだから。嬉しそうに笑う山本君に私も笑い返す。京子ちゃんの時と同じだ。また心とは裏腹の偽られた笑顔だった。


泥濘+泥濘=底無し

出来る事なら最初からやり直してしまいたい。この悪夢が起こるより前に、私が山本君に恋するより前に、ツナが私を想うより、ずっと前に。

もしかすると、私の心は既に滅茶苦茶なのかもしれない。私はもう少しで荷物に押し潰されそうだよ。


執筆2007.11.11.sun
加筆2009.05.22.fri

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