時は流れて5年後……

イタリアに位置する屋敷─ボンゴレ10代目邸。陽射しの柔らかな窓辺は玄関に近い南向きで、居ればそれだけで眠気が瞼を下ろさせる為やってきそうだ。
そこに若い男が2人陽の光をその身に受けていた。一人は何故か窓枠に身を乗り出しているが。

「そういう事だから」
「じゅ、10代目ぇえ!?」

一方が情けなく叫んだ直後、長い廊下の角から「うるせーぞ」と声変わり前の声色が決して上機嫌とは言えぬトーンで届く。それに危機を察知したのか、窓枠上の青年の顔に焦りの色が浮かんだ。
頼んだよ!と修羅場間近の空間に銀髪の部下をひとり置き去りにして、屋敷の主はとても軽やかとは言えない動きでそこを脱出したのだった。途方に暮れる部下の後ろには、いつの間にやら黒に身を包んだ少年が立っていた。

「何の騒ぎだ?」
「リリリボーンさんっ!」

明らかに見た目と上下関係のギャップが激しいが、やけにどもる彼は辺りを見回し他に誰かいなかったかと疑問にした少年に対して更にどもった。ようやく紡いだ言葉は「10代目は散歩に出掛けられました!」。これでは墓穴を掘ったに等しいのだが。
理解した少年がまた逃げたかと呟くと共に青年の心中では土下座の勢いで激しく上司への謝罪の言葉が生み出されていった。少年のボルサリーノの下から、隠すでもなく溜め息が吐かれた。

「……最近何かにつけて、仕事放っぽって抜け出しやがる」

一体どこで何をしているのやら。2人は蜂蜜色の髪が去っていった方向を見つめて、困り者な上司の行方を思う。信頼はしているのだが。

「あぁ……それより獄寺」

思いに耽っていたはずの少年が突然思い出したように己の名を呼ぶものだから、男は何か嫌な予感が過るのを必死に頭の隅に追いやるハメとなった。それは全くの無駄に終わるのだが。

「ボスがサボった分の仕事だが、右腕のお前に任せるぞ」

ほら、予感は的中だ。
大きくリアクションした青年は自分にもまだ残されている仕事の数々を思い反論を試みた。試みたのだが。

「ガタガタ言うな。黙ってやりゃ良いんだ」
「すみませんやらせて頂きます!」

先程までの空気は一変。少しだけ声を低くした少年に向けられる言葉……いや、銃口には誰が逆らえようものか。自分の仕事もある事を考えがっくりと肩を落とした彼は、今日の徹夜を覚悟した上でもいつ頃終わるだろうかと青ざめた。しかし幸か不幸かその時、窓の外から間延びした声が聞こえて新しい参入者が現れた。

「ははっまたやってんのかー?」
「……山本か」

陽気に笑う彼の登場により、先2人に頭の上がらなかった銀髪はギラリと目を鋭くさせた。

「いっつも仲いーのなー」
「黙れ野球バカ!そこは10代目お気に入りの中庭であってテメェの為のグラウンドじゃねぇんだよ!」
「んな固ぇ事言うなって!」

バッドを仕舞えと怒鳴られようが、あくまでマイペースを貫く様子。目上以外に極端に怒髪天の低い銀髪は、今に腸が煮えくりかえってしまいそうだが、その機会を消し飛ばせたのは黒い少年。
ちょうど良いと言うように2人でボスの部屋に山積みされた書類の処理を頼む。しっかりと今日中に、と提出期限を主張しながら。

「なぁあ……!?冗談スよねリボーンさん!」
「それは良いけどよ、小僧はどーすんだ?」

銀髪青年は書類の莫大さが如何程かをよく理解しているらしく、2人がかりでも今日中は無理だと主張する。しかしそうとは思っていないのか単に知らないだけか、軽く了承をして話題を変えた天然男に少年は帽子を深く被り直した。

「俺は野暮用で出掛けるからな。獄寺、泣き言言うなら死ぬ気弾ぶちこんででも……」
「是非頑張らせて頂きますっ!」
「……じゃーな」

学生時代不良でそこそこ名があった筈の銀髪の、涙腺の緩んだ情けない顔が視界の端に映ったが、黒衣を翻した少年は無視を貫き歩を進める事にした。



「この辺か」

ボス……沢田綱吉のコートに予め仕掛けておいた発信器の示す方へと、リボーンはゆっくり足を進める。まったく、世話のかかるボスだ。そう悪態をつきたくなるのはこれまでの成り行き上仕方ない。そうでなくても批判はしているが。
しばらく歩いて着いたのは街の端にある、白くこじんまりとした建物の前。そこに書かれた言葉を目で辿る。

「こんどは……とあそんで!」
「うわっ待って、分かったから引っ張るなって」
「お兄ちゃん!」

耳を澄ませば純真な幼い声に混じり聞こえた探し人の声に、ふんだんに息を吐き出した。バカツナは一体こんな所になんの用があるというんだ。養護施設などに。
どうせ考えるだけでは解決しない疑問だと、手早く連れ戻す方が遥か利口。そう考えて無遠慮に敷地内に足を踏み入れようとした時、それは聞こえてきた。

「ほら皆!お兄ちゃん困ってるよ」
「……は?」

何処か聞き覚えのある女の声……まさかな。リボーンは真実を確かめんと、声の近くへ寄ると建物の陰に気配を隠した。大変都合の良い事に子供のひとりが質問を浴びせる。

「ねー、依泉お姉ちゃんとツナお兄ちゃんは付き合ってるの?」
「ぶっ!」

子供の純粋な質問に、泣く子も黙るイタリアマフィアの頂点に位置するはずの男……ツナは思い切りむせ返る。カッコわり……とリボーンが悪態をついた事など知る訳もないが。

「ちょ、ツナ君大丈夫!?」
「あ、あはは……って何でそんな事!」
「だってお兄ちゃん、ここに来るといっつも依泉お姉ちゃんの事見てるもん」

子供は正直で、鋭い。
ツナの顔はみるみる赤みを増していき、茹でダコのように真っ赤になっていく様は図星を意味する。

「もー、何言ってんの。そんな訳ないでしょ。ツナ君はただ皆と遊びたいんだよ!」
「えー……そうかなぁ」
「そうそう!」

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