「おいアラジン。お前、さっきダンジョン攻略行きたいって言ってたよな」
「う、うん?」
「連れてってやるよ。その代わりにお前のジンを、社長に見せてやってくれ!」
「……うん!」
突然話を振られて困惑の表情を浮かべたアラジン君に、アリババ君は先程までしていた話を持ち出した。その件はさっき返事らしい返事をしないまま終わってしまっていたので、この言葉を聞いてアラジン君の顔には一気に笑顔が浮かんだ。
元気良い返事の後、直ぐ様言われた通りウーゴ君を呼び出す彼は献身的だ。
小さな少年が金の笛を吹くと、空気の通り道であるはずのそこからは巨大な青い腕が伸び出し、最終的には首から下の巨人が登場。そんな目の前の光景に、おじいさんの驚愕は腰を抜かす程のものだった。
「社長。こいつの名は、アラジンです」
ああ、なんか私置いてけぼりで話が進んでいるぞ。確かにダンジョンに連れて行くメリットなんかないだろうけど、こんな壮大なファンタジー見届けないなんて勿体ない。私だって行きたい!
という訳でたった今決心した。お呼びじゃなくても着いていきます、ダンジョン攻略!
「彼は偉大なる大魔術師であり……」
向上心に倣うように顔を上げると、ウーゴ君が出てきた時の勢いで天井が丸く壊れてしまっていた。そこから星空が覗いている。雨が降る前に補修しないと大変な事になるなと心配しかけて、雨の心配はいらないかと思い返した。
置いてけぼりを食らってるというより、私が会話に加わる気がないんだな、これ。
「そして俺の、一番の……家来だっ!」
この時のアラジン君の顔、私はきっと忘れる事が出来ない。一気に私とアラジン君の気持ちが降下したのを、果たしてアリババ君は気付いているんだろうか。これが株価なら大暴落で大パニックが起こるところだ。
そ、そうか。とか頑張ってくれよ……だとか。おじいさんがそそくさと部屋を出ていくのを見て、アリババ君だけはただ一人満足気だった。
とりあえず我慢もそろそろ限界なので、読みたくない空気は読まず立ち上がった。
「あほらし。お風呂入ってくる」
「えっおい瑠々」
「なに」
「……いや、風呂は出て右な」
「……行ってくる」
睨みつけたらアリババ君は顔を強張らせたので、何か言おうとしていたのは分かり切っていたけれど、私は知らないフリをしてそのまま部屋を後にした。
外を覗くとさっき天井の穴から見えたのと同じ満天の星が、何に阻まれる事なく視界いっぱいに広がっていた。現代日本だと田舎でも見れないような綺麗な星空だ。人工の光なんてものがないような中、散りばめられた星だけが真っ暗な空を明るく照らす。
別世界だ、と実際そうなんだけど思わずにはいられなかった。
砂漠の夜は冷えると言うけど、この寒さは体感してみないと砂漠とは思えない。
けれどまあ、分かりやすい道順の先にあったお風呂は露天だったりする。モタモタしていると外気にやられそうなので、躊躇なく入らせていただくことにする。
「ふー」
思わずついた溜息は自分で思ったよりも大きかったけど、お湯に浸けた指先からじんわりと疲れが溶けていくような感覚がして気持ち良い。誰が沸かしているのか知らないが、水温がちょっと熱めでお風呂としては理想的だ。
ふと夜景に目を移すと、少し離れた場所に古い宮殿のような建物が見えた。他より一際大きいそれは、ここらのお偉いさんの所有物と考えるのが妥当だろうか。
けれど、その暗闇でも目につく神々しさはどうも他の建物に馴染まない独特の雰囲気を持っている。同じ見て呉れの物を隣に建てる事ができたとしても、決して人知を超えたようなこの雰囲気は真似できないだろう。そんな気がした。
冷たい空気に体からの湯気が白く昇る。身も心もさっぱり気分で制服を手に来た道を戻る。
貸してもらった服は生成りの1枚の大きな上着のようなもので、馬車で日よけに貸してくれたものに似ている。私は同年代女子の平均と比べれば、体格が少し小柄な方らしい。なので年上の男の子であるアリババ君の服はさすがにちょっと大きい。腰の部分でぐるぐる巻きつけて結べば、それっぽいワンピースらしき状態にはなってくれた。
満足して湯冷めしないうちにと気持ち早歩きでアリババ君の部屋へ戻れば、そこにはなんと言うことか、人っ子一人いなかった。
「……あれ?」
物音のしない室内に、消されたランプ。入ってきた時アリババ君がやっていたのを思い出して、不手際ながらなんとかランプをつけるが、やはりそこには誰もいなかった。
2人はどこかへ行ってしまったんだろうか。捜しに行こうにもどこに行ったのかヒントもないんじゃ捜しようがない。
というかあの機嫌を損ねたアラジン君を連れ出せたんだアリババ君。いやそれより、あんなこと言われた直後のアラジン君を放って行くべきじゃなかったか。もう仲直りしたのかな。だとしたらもうダンジョン行っちゃってたらどうしよう。いやいや、さすがに家に私を泊めて一言も言わず行くなんてないよね?
髪の毛もある程度乾かし終えると、知らない場所な事もあり特にやる事もなくなってしまった。とりあえず脱いだ制服が皺にならないように干し、ポケットの中に入っていたハンカチも取り出しておく。改めて自分の身に着けていたものを見ると、ハンカチだけで砂漠を歩いていただなんて思うと眩暈がしそうだ。
今日はもう休みたい。でも、家の主もいないし朝起きても誰もいないなんてそれこそ辛い。
待てよ、ダンジョン攻略には行きたいけど、このまま就寝してしまったら今度こそ本当に、現実の私が目を覚ましてしまうんじゃないか。
「……それはそれで、良いか」
時代錯誤のこんな時代に、現代っ子の私が馴染むなんてできない。既にお風呂の文化で亀裂が走りそうだし、今も暇を持て余して携帯があれば良かったのに、とか思っている。
勿論ダンジョン攻略は知的好奇心の充足としても魅力的だが、目が覚めちゃったらその時はその時だ。
「……よし。おやすみなさーい」
無許可だけどベッドを拝借。帰ってきて寝る場所がなくて床で寝る事になったって、私を放置したアリババ君が悪い。
砂漠での疲れが今になってドッと出たのか、ベッドに倒れ込んだ途端体が一気に重くなった。そういえば昨日の夕方にはまだ普通に自室にいたんだ。学校から帰ってきて気付いたら砂漠で遭難、怪物のお腹に入りかけたってなんかもう1日そこらでトンデモ体験してしまっている。
やっと皆がそれぞれ人間関係にも馴染んできたくらいの高校生活で、それだけでも疲れるのになんて容量の食う夢を見てるんだろう。楽しいけど、頭パンクしちゃうよ。
多分、このまま寝てしまえば当分目が覚めない。起きたら現実ではもう外は真っ暗になってるかもしれない。
でも多分、ご飯時にはお母さんが起こしてくれるよね。寝過ごしたりしないよね。どうしよう。そのまま放置されて気付いたら朝だったりしたら。現実の私はご飯どころかお風呂すら入ってないのに。制服もぐしゃぐしゃになっちゃってるんじゃないか。
どうしよう。気になってきた。早く起きなきゃいけないのに、夢の中で眠れる気がしない。
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