「ただいまおねえさん!」
「……おかえりアラジン君」
現実世界の自分の心配をして眠るどころか心拍数が上がって目なんか当然冴えてきて、どうしようかとベッドでごろごろ半回転しながら悩んでいると、夜に似つかわしくない高く元気な声が聞こえた。
壁際からまた半回転して、上半身を起こすと、声を弾ませたアラジン君がにこにこしながら帰ってきたところだった。消していたランプがポウッと玄関付近で点いて、少しの眩しさに目を細めながら「どこ行ってたの?」と聞いてみると、彼はそれはもう嬉しさを体現するかのように口元を綻ばせて膝に飛びついてきた。え、本当何があったの。
「へへー?あのね、綺麗なおねいさんがたくさんいるおみ……せぐっ」
「わぁっうわーっ!な、なんでもねえよ!……なあアラジン!」
後ろから物凄い勢いでドタドタ走ってきて、アラジン君の口を押さえて言葉を遮ったのは、言うまでもなくアリババ君だ。勿論アラジン君は私の膝からべりっと剥がされてしまった。共同住宅じゃないの、ここ。騒ぐとお隣さんから苦情が来るよ。
アラジン君はどう見ても困り顔で頭上にハテナを飛ばしてるけど、対してアリババ君の焦り様が怪しすぎる。アラジン君の言いかけた言葉を思い返しても、嫌な予感しかしない。
「……アラジン君、お店って言った?まさかとは思うけど、アリババ君?」
「い、いや……そう!ダンジョン攻略の為の準備に行ってたんだよ。食いモンとか、必要だろ?手ブラじゃ冒険はできねえし」
明らかに取り繕ったような言葉からは、余計に怪しさが滲み出す。暗さにもランプの明かりにもすっかり慣れた目は、アリババ君のそれが嘘であると言える確信的な光景を見てしまう。
「……それで?こんな夜に調達に出て、今度は手ブラで帰ってきた理由を聞いた方が良い?」
「いや……えっと」
「ああ、それともほっぺたの消し忘れてる口紅について質問した方が早いかな」
薄暗いランプの明かりだけが頼りの中でもハッキリと分かる青い顔で、拳で頬を拭ったアリババ君が乾いた笑いを漏らした。ので、私はわざと大きな溜息をついて、アリババ君側にいるアラジン君をひったくり返した。
そう、2人は“おみせ”に行っていたのだ。ちょっと言葉にする事を躊躇したくなるような、そういう場所に。
「バッカじゃないの!?こんな小さな子連れてくなんて、信じられない!」
「しょ……しょうがねえだろ!怒らせちまったからその詫びにと思って」
責め立てた先でまたも信じがたい言葉を聞いてしまった。イライラァっとちょっと低めな怒りの沸点にそろそろ到達しそうだ。
お詫びする気持ちがあるなら、出すのはお金じゃなくて謝罪の言葉じゃないの!?
そしてお詫びって言うなら、なんでアリババ君まで楽しんできてるんだ。アラジン君もそりゃもう楽しかったんだろう事は見れば分かるけど。
「そもそも、子どもにそんな遊び方教えちゃダメに決まってるでしょ!アリババ君がそそのかさなかったらアラジン君だってそんなトコ知らないで済んで、行きたがらない!はず!ねっアラジン君」
「え゛っ……う、うーん」
まさかの、アラジン君にすら言い淀まれてしまった。意味を分かってないとかより、限りなく分かった上で私の言葉を否定したいけど肯定しとこうか迷ってる感じだ。
そんなの許さない。推定年齢10歳なアラジン君にはそんな世界まだまだ早すぎるんだから。
「というか私の可愛いアラジン像は何人たりとも汚させない!例えそれがアラジン君でも」
「それはアラジンがかわいそうじゃ……」
「そんな事ない!ねっだよねアラジン君!」
「……うん、そうダネ!きっとソウダヨ!」
「おいぃアラジン!裏切り者!」
今はアラジン君に聞いているので、アリババ君は黙ってて、と言わんばかりの気迫をそのままアラジン君に振ってしまえば、焦ったようにアラジン君は私の意見に肯定の意を示した。事の首謀者たるアリババ君は悲痛な叫びを上げたけれど、これによってようやく私の怒りがクールダウンされそうだ。
大体衝動的にアラジン君を連れて行った事ばかり怒ってしまったけど、アリババ君だってまだどう見ても未成年なのに。
そう思ったところでハタと気付く。仕事もしているアリババ君だ。年齢はともかく立場としては十分成人と同じ扱いをされているんだろうから、もしかしたら付き合いで風俗店なんてよく行くものなのかもしれない。そもそも環境も何も違う日本と同じ物差しなんて使える訳がないんじゃないか。
そう思った事で今度こそ一気に冷静さが戻ってきた。
「あのよぉ瑠々」
「なによアリババカ」
「なんだと!?」
さっきまで就寝モードに入っていた事も思い出して、ちょっと脱力していると、なんだか気まずそうにおずおず声をかけてきたのはアリババ君だ。
眠気や怒りであまり機嫌が良くないので、何か文句でも?と言わんばかりの視線を向けると食って掛かろうとする勢いだったアリババ君が居住まいを直した。
「あ、いや、その……悪かった。社長の手前勢いで言っちまったけど、瑠々は九死に一生を得た中での友達で、これからダンジョンを共にする仲間だ。……家来とか言ってごめんな?」
あれ、あの時アラジン君だけじゃなく、私の事も何気に家来扱いされてたのか。いや今はそんな事どうだって良いや。傷付いたのはアラジン君だ。
「ふうんやっと気付いたんだ?自分がどうしていきなり無視されてたかって。大方アラジン君がヒント的な事言っちゃってやっとなんだろうけど」
「う゛」
「でもおかしいなぁ。私いつの間にアリババ君と友達になったんだっけ?薄っぺらい友情とか、私大嫌いなんだけど。アリババ君はそれに入らないでいられる?」
「……えっとその、確かにアラジンが答え言ったようなもんだったけど、俺は」
「ふはっ……やだな本気にして。冗談だよ。もうとっくに友達って思ってるし、あくまで二度も命救ってもらった恩人だしね。そこだけは信用してるよアリババ君」
それに、私が言わずとも一緒にダンジョン連れてってくれるつもりだったみたいだし。許してやろうじゃないか。
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