一件落着。近々このメンバーで摩訶不思議なダンジョン攻略の旅へ出る事になるらしい。
手ぶらと思いきや、ちょっとした夜食を買って帰ってきてくれたアリババ君にお礼を言って有難く頂戴する。
今日は林檎とお茶くらいしか口にしていなかったから、正直お腹がかなりすいていた。林檎ならさっきももらったのだし、その日暮らしの若い少年にこれ以上催促はできない。アリババ君が気付かないタイプの人でも、耐え切れなくはないかなとは思っていたけど、これは嬉しい誤算だった。
「それでさ、瑠々にも聞きたかったんだけど」
「えっなに?」
ナンのような平たいパンをパクつきながら、身を乗り出してきたアリババ君に返事をする。パンもスープもあまり見慣れないものだったけど、これがなかなか美味しい。
「瑠々、変わった格好してるけど、あれってどこの民族衣装だ?」
「民族衣装じゃなくて、これは制服だよ」
干していた制服に視線が向かう。
制服、その言葉に2人してキョトンと首を傾げた。何それ、同じ動きして可愛いな。
確かにこんな時代性で、学校はともかく制服がある世界観だとは思い難い。学校へ行くときの正装だと教えれば、アラジン君はへえと納得したような表情、アリババ君は何か納得いかないような表情でリアクションされた。
「可愛いでしょ?他のとこより断然好みの制服でね、これ着る為に頑張ったんだから」
「着る為にって……」
「うーんごめんよ。よく分からないや」
着る為発言に対してアリババ君からちょっと引くついたような微妙な苦笑を返されてしまい、アラジン君に至っては首を傾げたままお気に入りのデザインをそんな風に言われてしまったので、「えぇぇっ!?」と思い切り叫んでしまった。あ、だからもう夜なんだって。
「って言われてもなあ……俺は制服なんて聞いた事ねえし」
「僕も可愛いより、変わった格好だなって思うよ」
ふたりの意見はごもっともで、私ももし日本にあるまじき格好のアラジン君やアリババ君がそこにいたとすれば、デザインの善し悪しとかよりもまず変わった格好だと思うんだろう。
「確かに場違いだろうけど、変にしか思われないのかなあ……」
「でも、おねえさんがせいふくを着ているのは可愛いと思うよ!」
「アラジン君……!」
ニコッと笑いかけてくれたアラジン君は天使に見えた。
だってそれほど気に入っていた制服を、似合っていると言われたら誰だって嬉しいはずなんだから。
「でも、その服ちょっと砂漠には向かなさそうだよね」
「そりゃだって、砂漠なんて私の住んでたところにはなかったんだもん」
「えっそうなのかい?」
「じゃあ、結構遠くから来てるんだな」
遠く。遠くというか……うん、そうかも。現実世界と夢の世界っていうだけでも、その距離感はあまりにも遠い。
眠れば夢には行けるけど、自由に行き先を指定できる訳じゃないからそれは眠ってみない事にはなんとも分からない。代わりに、こうやって現実では体験できないアドベンチャーに遭遇する事ができる訳でもあるけど。
「こことは全然、何もかも違うよ」
「へえ。ねえ、おねいさんの故郷の事、僕知りたいなあ。良ければ聞かせてよ」
どうやらファンタジーな世界に生きる2人が私の生きる現実世界に興味を持ってしまったらしい。
アラジン君なんかは早く早くと急かすように目を輝かせるので、私は一旦食事の手を止めて思考を巡らせる。
現実世界について語る、それは構わない。けれど期待を寄せる2人を満足させるような、そんな面白い話ができるだろうか。そもそも、どこからどう、何を話せば良いのだろう。期待の目を向けるアラジン君へ控えめに視線を移すと、そこには綺麗な青い瞳があったので、まずはこの辺りから話す事にしよう。
「うーん。まず、私のいた国の人は、こんな派手な髪とか目の色の人はいなかったなあ」
「僕、派手かい?」
「うん。私の国なら、青色はすごく派手。金髪はまあ、国の人間にはいないけど、他の国の人にはいたから珍しくはないかな」
地毛ではいなくても茶髪や金髪に染めるのは珍しくもなんともないし。というのはこの時代の人の感覚には通じないだろうから、言わないでおく。
「それと何よりやっぱり、違うのは時代性?」
「は?」
「ダンジョンの話でさ、攻略者は富と権力を手に入れるって言ってたよね。覇者は王様になった人もいるって。つまり、この辺一帯王政なんだよね?」
「あ、あぁ……まあ、普通、国は王が治めるもんだろ」
その「普通」という言葉に、やっぱり時代性の差異を感じる。私の中の「普通」は、国を仕切るのは王様じゃない。
上に立つ人間はいても、それは富や権力、王族とかの血統がなるものじゃなく、あくまで政治をするのは一般国民の1人だ。
政治を学んで知識を得た人達が募って国家を作り、国民がその中からより良い未来を築く為に1人の代表を期間付きで決定する。
それも政治に関しての舵をとるだけで、独裁を許されてる訳でもないし作った法で実際に人を裁いたり、国民に服従させたりする権利なんて勿論ない。民主主義で、絶対権力は生み出されない。
そんな感じの正直全く面白くもない話をした。
年齢的に予想はできてたけど、さっきまでワクワクを顔に貼り付けたような表情をしていたアラジン君は話について来れなかったらしく、少し表情が眠そうだ。私も授業でこんな話をされると、確実に眠くなるので気を悪くしたりはしない。
けれど代わりに「ちょっと興味ある」くらいに見えたアリババ君が、政治の話になった途端表情を変えたものだから、つまらないだろうと思いつつ始めた話を割と真剣にしてしまった。
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