「そうだ、命の恩人の名前を聞いても良いかな?」
「僕はアラジンだよ!旅をしているんだ」
「俺はアリババ。この馬車の運転手やってる」

へぇ、と潤った喉が自然と息を漏らす。荷台に乗り込みながら、瑠々はまだ若いアリババが働いているのに素直に関心を抱いた。
けれど自分よりは年上だろうから、バイトや高卒程度であれば既に働いていても可笑しくはないか、とも思う。運転手と言えど馬車のだし、特殊な職種とは限らない。そもそも外国の事を日本の物差しで測っても参考にならない。
無事自己完結に辿り着いたが、途端ふと今度はその名前に反応した。2人とも、名前がまるでアラビアンナイトみたいだ。

「何だそれ」
「えっアラジンと魔法のランプとか、アリババと40人の盗賊とか、船乗りシンドバッドの冒険とか、知らないの!?」
「シンドバッドの冒険書は知ってるさ!超有名じゃねーか!でも、他のは知らねーなあ。アラビアンナイトってのも聞いたことねぇし」

瑠々は物語が好きだ。寓話逸話の類はよく読んでいて、その中でもアラビアンナイトは群を抜く。だからこうなったのだろうか、砂漠と言えばアラビアンナイトだなんて安直だ。
夢の登場人物の名前を本から抜粋。そんな自分の思考回路の単純さに瑠々はちょっとだけショックを受けた。

「それで、アラジン君はこんな小さいのに一人旅?偉いねえ!」

深く考えても仕方ないと切り替え、今度は話題をアラジンの方へシフトする。旅と聞いた時点ではてっきりというか当然、アリババと二人旅なのだと思っていたが、次のアリババの台詞ではどうやら彼は運び屋な商売人だと言う。
瑠々は2人の仲が良いのだと勝手に思っていたが、実はアラジンがさっき偶然この馬車に乗り込んで知り合ったばかりなのかもしれないと思い直した。

他の同乗者は女性と小さな女の子の親子と、一番奥にどっかり座って如何にも偉そうな態度の中年のおじさんのみ。
おじさんは態度がでかいだけならいざ知れず、前が開きっぱなしの服からタプンと効果音がしそうなほどに出た腹部が見苦しくて見てられない。現実ならあの露出は十分犯罪だろう。
背後から目をそらすようにしたそのままの視線で瑠々は改めてアラジンに目を移す。やはりその容姿はまだまだ幼い。予想では10歳といったところだろうか。

「えへへーそうかな?僕えらい?」

なに、この子可愛い。
10歳と言えば、小学校は4年生くらいか、もしかしたら5年生かもしれない。けれども5年生って考えると何かしら抵抗があるな、というか見えないから、4年生として接する事にしよう。そうすればちっぽけな抵抗もなくなる気がする。
瑠々の思考回路が暴走を始めたらしいが、不可解な思考の意味は次の行動ですっきり解決となる。

「かっかわい……!」

気持ちの高揚に任せたと言った感じに瑠々がむぎゅうっと思い切り抱きしめると、最初はじゃれあいにきゃっきゃと楽しそうにしていたアラジンが急に大人しくなった。

「おい……首締まってんじゃねえの?」
「えっ」

どうやら首元に腕を回していたのが不味かったらしい。
アリババの呆れたような反応に困っているような声を聞いてパッとその手を解くと、心なしか顔を青くさせたアラジンがよろめいて、瑠々は慌てて肩を支えた。

「ごめんね、ごめんねアラジン君。苦しかったよね」
「ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよおねいさん」

ちょっとずれたターバンを直しながら、へにゃりとアラジンが笑った。
その表情にせっかく直したターバンの上から頭を撫でたいとかいう衝動を必死に抑えているのは他でもない瑠々である。後に彼女はショタコンじゃない、子ども好きなだけだと語る。

「おねえさん、やわらかいのに大きくないね」
「えっ……な、なにが?」

身嗜みを整え終えたアラジンが、ぽつりとそう言った。
一瞬その言葉の意味が分からず身を固くしてしまった瑠々だが、主語を敢えてなのか言わなかったアラジンの表情が心なしか、いや明らかに残念そうな顔をしているから余計にどきっとしてしまった。勿論それは良い意味なんかじゃなく。というかじゃあやわらかいって褒め言葉なの?それともさらっと貶されてる?
瑠々が言葉の真意を考えあぐねていると、思い出したようにアラジンが話を戻した。

「あ!でもね僕、一人旅じゃないんだよ」

友達と一緒だよ!と無邪気な笑顔でアラジンが差し出した……そう、「差し出した」のは勿論友達なんかじゃなく、綺麗な金属の縦笛だった。

「笛じゃない、ウーゴ君だよ」

違う、と首を振って否定するアラジンに対してアリババは勿論、自称子ども好きたる瑠々でも次の言葉を探すのは難しかった。
どこからどう見ても紛れもなくただの笛であるそれを友達と言い張って名前まで付けているようなら、出会ったばかりとは言え年上2人はそろそろアラジンの将来が心配になってくる。

無邪気な子どもに「サンタさんはあなたのご両親だよ」なんて夢のない現実を見せるような大人が大嫌いな瑠々は、微妙だろう笑顔で「へえ、そうなんだ」と頷く事しかできなかった。

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