「にしても、暑い。日焼けしちゃう」
「おねえさん。それ、変わった日よけだね」
「日よけじゃないんだよ……」
「……何やってんだ。ほら」

往生際悪くまだカーディガンで日射しを遮っている瑠々に、突然ばさっと降ってきたのは大きめの上着。
人肌程度の温度を持ったそれはたった今までアリババが身につけていたもののようだった。

「……え?」
「そんな変わった着物着てるからだよ。せめてそれで影作っとけ」
「いやでも、これアリババ君の」
「いーから。ていうかちょっと暑さに弱すぎじゃねーの?」

今日は羽振りのいい客がいるから、下手に奥には近付いてほしくないしな。と逆に何故か申し訳なさそうに言われたものだから、助けてもらいっぱなしな瑠々の方が居心地が悪い気がした。これはもう、アリババの藤黄の髪が光に当たって眩しいなんて冗談は言えない。
ちなみにそのVIPがあのおじさんだったらしく、名をブーデル。背もたれのように背後に積まれている樽は商売道具だったようで、ブドウ酒の製造で成功を収めた大豪農らしい。

「今はコレが生業だけどさ、俺はその内ダンジョン攻略で一発当てるんだよ」

聞き慣れない言葉が出てきた。ダンジョン攻略?ハテナを飛ばしたのは瑠々だけじゃなく、隣のアラジンも「分かりません」な顔をしていた。
1人2人、その顔が増える度に驚愕の表情を浮かべたのはアリババだ。

「え……その年でダンジョンも知らねぇの?今時ガキでも知ってるぞ」
「そうなの?じゃあ次から恥かかないように無知な子ども2人に分かる説明してください年長者のアリババ君」
「……お前急に性格悪くなったな」
「今ちょっとだけ、イラッときたもんで」

言い方が気に入らなかったらしく。というより勿論分かっていて瑠々は気に入らないような言い方をしたのだが、その返答を聞いたアリババの表情が引きつった。
ただこういう反応こそ、瑠々の素だったりするので仕方ない。

「14年前からだな、世界のあちこちに見覚えのねー建物が突然出現しだしたんだよ」

聞いて驚け、入ってみるとそこはなんと古代王朝の遺跡群だったんだ!
それらの総称が「ダンジョン」と呼ばれてて、中にはお宝がビッシリ!
ダイヤの王冠、サファイアの王座、黄金の大宮殿…

そして何と言っても、現代では考えられねー不思議な魔法アイテム!空飛ぶ布、酒の湧く壺!
それらを世界中の奴らが探し回ってるご時世なんだぜ!

「そこで、このアリババ様が誰よりも早く世界中のダンジョンをクリアして、“世界一金を持ってる男”になってやるのさ!」

半分ただのイヤミで本当にちゃんと説明してくれるものだと瑠々は思っていなかったのだが、一方のアリババはいつの間にか楽しそうに、どうやら自分の話をしたかったらしい。
ダンジョン攻略。夢があって魅力的な話だ。
でもダンジョンっていうと、ゲームとかの迷宮とか迷路のイメージが先行したりもする。もしそのイメージが正解なら結構おっかない事だが、アリババがダンジョン“攻略”と言った辺り強ち間違いでもないかもしれない。

アラビアンナイトのような寓話童話なんかの物語、特に冒険モノが好きな瑠々と違って、アラジンはその話にあまり興味を持てなかったらしい。
その薄い反応が気に食わなかったらしいアリババはそれがちょっと悔しかったのか、尚もテンションを上げて続けた。

「いいか、金持ちになりゃあな、なんでも手に入るんだぜ?家、家畜、使用人はモチロン、食う時間、寝る時間、遊ぶ時間……」

あ、これはあんまり私みたいのが聞く事じゃないな。と瑠々は途中で察した。
恐らく彼アリババが挙げた中で、特別お金持ちじゃなくても並みの現代日本人な生活を送ってきた彼女が凄いと思える事は半分あるか分からない。逆を言えば、ここでの凄い事を、瑠々は標準で持っていたりする。
なんというか、人が夢見こよなく欲するものを当然のように持って生まれたというのは、聞く身としては逆に何となく肩身が狭い感じがしてくる。
自分が当然に持ってる分、話にも乗り辛くて反応に困る。貧困どころか、夕飯がまだならおやつを食べれば良いじゃない、みたいな時代に生まれた瑠々には分かりようがない。

時代性なのかここらが発展途上国に乗れてないだけなのか、日本よりは確実に貧しい場所な事は予想がつく。
けれどだからこそ、さっきまで話半分だったアラジンが気付けば楽しそうにはしゃいでいる。美味しいごはんと、綺麗なお姉さんという言葉に。
正直10歳そこらの男の子が「やわらかいおねいさん、好き!」とか緩みきった表情で言ってる姿はどう反応すれば良いやら。
けれどもこれでようやく瑠々の中で合点がいった。さっきの瑠々に抱きつかれた時の謎の一言と言い、アラジンはどうやらこういう子どもらしい。
とりあえずいくらなんでも子ども相手に下ネタを持ち出そうとしたアリババの方にはきっちり瑠々から制裁が与えられた。

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