真夜中の冒険 1 / 4

 ホグワーツ城での生活は素晴らしかった。
 入学初日からしばらく経ったが、ユリィの学校生活は順調な滑り出しと言えた。
 結局、寮の組み分けはテストでも何でもなく、ただ組み分け帽子と呼ばれる古ぼけた帽子をみんなの前でかぶるだけで、その帽子がその生徒に相応しい寮を決めてくれた。
 マルフォイはやっぱりスリザリンだったし、ウィーズリーの子はグリフィンドールに決まった。ハーマイオニーは帽子がたっぷり悩んだ後に、グリフィンドールに選ばれた。ネビルも決定まで長くかかったが、ハッフルパフではなくグリフィンドールだった。マルフォイが気にしていたハリー・ポッターもグリフィンドールに選ばれた。
 ユリィの時も帽子は迷ったようだったが、帽子は「グリフィンドール」と宣言した。グリフィンドールの席に向かう時、マルフォイが意外そうにこちらを見ていたのが印象的だった。
 ハーマイオニーと同じ寮に決まったのはとても良かった。生活する部屋も同じだし、同じ時間割で授業を受けられる。
 妖精の呪文、変身術、魔法薬学、薬草学、天文学、闇の魔術に対する防衛術……、色んな授業を受けた。物知りなハーマイオニーはユリィの想像以上に秀才で、入学してすぐだというのに、グリフィンドールの得点をたくさん稼いでいた。ハーマイオニーと比べたらユリィの成績は普通だったが、悪いわけではない。今のところ、先生に叱責されるような事態になったこともないし、良い方だろう。言っては悪いが、ネビルと比べたらはるかにマシだと言えた。彼はうっかりミスの天才で、よく減点の憂き目に遭っていた。
 入学前に気にしていたイネーブラ家の悪い評判も、全然心配はなかった。どの生徒に聞いても、汽車でネビルが言っていたような具合で、ちょっと驚かれはするものの、ユリィ自身を極端に怖がる子はほとんどいなかった。ユリィの気にしすぎだったのだ。
「ねえ、ユリィは箒に乗ったことがあるんでしょう」
 グリフィンドールの皆で初めての飛行訓練に向かう道すがら、ハーマイオニーが尋ねた。
「少しだけだよ。おじいさまに貰った子ども用の小さい箒でね。大人用の箒と比べたらそんなに高くは飛べないし、あんまり参考にはならないよ」
 マグル生まれのハーマイオニーは空飛ぶ箒に触れたことがないらしく、朝からピリピリしていた。魔法族の子は箒で遊んだ経験があることが多いから、それで差がつくのではないかと気が気でないらしい。べつに初心者は彼女だけではないだろうし、そんなに気にしなくても良いとユリィは何度も宥めたが、ハーマイオニーには効果がなかった。
「ねえ、緊張しすぎじゃない? 箒に乗るときはできるだけリラックスした方がうまくいくって、本にもあったでしょう? もっとリラックスしよう」
 あまりにせかせかと歩くハーマイオニーを見かねてそう言うと、この意見は効いたようで、彼女は「そうね」と深呼吸して歩調を緩めてくれた。
 飛行訓練が行われる校庭の芝生では、すでにスリザリンの生徒が待機していた。地面には人数分の箒が等間隔で並べて置かれている。
「何をボヤボヤしてるんですか。みんな箒のそばに立って。さあ、早く」
 飛行訓練を指導するマダム・フーチが早足で歩いてきたかと思うと、鋭い口調でそう指示したので、生徒たちは駆け足で箒の横に立った。先ほどの一声だけで、マダム・フーチは怒らせてはいけない先生だということを皆が理解したのだ。ユリィもハーマイオニーのと隣同士の箒を陣取った。
「右手を箒の上に突き出して、そして、『上がれ!』と言う」
「上がれ!」
 ユリィがマダムの指示通りにすると、箒は飛び上がって手の中に収まった。
 ホッと息を吐いて周りの生徒たちの様子を窺ってみると、一度の声かけだけで箒を手元まで引き寄せられたのはごく一部の生徒たちだけのようだった。やはりと言うべきか、成功しているのは魔法族の家庭で育った子たちが多いように感じた。ハリー・ポッターはマグルの家庭で育ったと聞いていたが、彼も一度で成功したようだった。
 ハーマイオニーはまだ成功しておらず、地面をコロコロ転がる箒と格闘している。
 しばらくして、マダム・フーチはほぼ全員が成功したのを確認してから、箒の正しい跨がり方を実践して見せて、生徒たちの列を回って、細かい点を修正するように各々に指示した。マルフォイが箒の握り方を注意されていたので、グリフィンドール生は大喜びしていた。彼はこの短い学校生活の間ですでにスリザリン寮一年生のリーダーの座につき、そしてグリフィンドール生の皆から嫌われていた。
 グリフィンドールとスリザリンの仲が悪いと言うのは、イギリス魔法界での常識だった。ユリィは魔法界でも珍しくスリザリンとグリフィンドールの身内を持つ家系だったので中立派のつもりではあったが、ホグワーツに入学して、彼らの因縁は自分が思っている以上に根深いものだと理解した。なんと言うか、彼らはどうも、これっぽっちも馬が合わないようだった。
 全員の箒の跨り方に納得したらしいマダム・フーチは、生徒たちに合図と同時に少しだけ浮上し、そして降りてくるように指示をしたが、これは残念な結果に終わった。
 合図の前にフライングしたネビルが、そのまま箒のコントロールを失って墜落したからだ。
「手首が折れてるわ」
 真っ青な顔をしたネビルを抱えおこすと、マダム・フーチは他の生徒たちに警告した。
「私がこの子を医務室に連れていきますから、その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」
 二人が遠くに行った途端、マルフォイは大声で笑い出した。
「あいつの顔を見たか? あの大まぬけの」
 ユリィはこっそりと溜息をついた。マルフォイはさっきグリフィンドール生に大笑いされたのが癪に触ったのだろう。この件でグリフィンドールを貶し尽くしてやるぞと考えているのが表情で分かった。
 これだから、ユリィはマルフォイが苦手なのだ。ミセス・ドラキュラの『同族嫌悪』というのも、気に入らないが反論はできない。でも、彼が耐えがたいほど嫌なやつだからというのも、彼が苦手な理由のひとつだとは思う。彼はユリィの家がマルフォイと同じくらいの格だから、ユリィ本人には必要以上に喧嘩を売らない。でも、それ以外なら別なのだ。
 スリザリンの生徒はもちろんマルフォイの意見に賛成のようで、口々にネビルのことをこき下ろし始めた。当然、グリフィンドールの生徒たちは仲間への侮辱に憤慨して応戦し始める。校庭はちょっとした騒ぎになっていた。