真夜中の冒険 2 / 4

「これは秘密ってことになってるしいけれど、ハリー・ポッターはクィディッチの選手に選ばれたんですって。さっき談話室でウィーズリーの双子の片方が言ってたわ」
 その日の夕食の時間、ハーマイオニーがこそこそと言った。
「本当? 一年生は選手に選ばれないって聞いたのに……」
 当然というべきか、飛行訓練は無事には終わらなかった。
 あの後、調子に乗ったマルフォイが落ちていたネビルの「バカ玉」――マルフォイがそう言っていただけで、ユリィはそれが『思い出し玉』と呼ばれる魔法の道具であることを後から知った――を箒に乗って遠くまでぶん投げた。それだけなら後で先生に告げ口をすれば思い出し玉の破損とマルフォイだけの罰則で済んだかもしれないが、あのハリー・ポッターは箒に乗ってそれを追いかけ、見事なダイビングを決め、思い出し玉をキャッチして見せた。
 その飛行技術はそれはもう見事なもので、グリフィンドールは大喜びしたし、スリザリンは閉口した。真面目なハーマイオニーすら彼の行動に感動したらしく、マダム・フーチの警告を忘れて彼を称賛の眼差しで見つめていた。
 でもそれも一瞬のことで、厳しい顔で校舎から走ってきたマクゴナガル先生がハリーを連れて行ってしまった。憎たらしいことに、この時点でマルフォイはすでに地面に着地していた。
 誰もがハリーは退学処分になると思っていたが、彼はしばらくしたらケロっとした顔で寮に戻ってきた。寮の点も減っている様子はないから、どうやらうまく説明できたのだろうとユリィは考えていたが、ハーマイオニーによると、真相はもっと良い話らしい。
「あのダイビングをみたマグゴナガル先生が、ダンブルドア校長に直談判して規則を曲げたらしいわ。マダム・フーチの言うことを聞かなかったのは問題だけど、まあ、彼の技術なら納得だわ――あんなの、誰にでもできることじゃないもの」
 ハーマイオニーはしぶしぶ認めた。
 ハリーがマクゴナガル先生に連れていかれた後、戻ってきたマダム・フーチの指導のもと飛行術の授業は再開されたのだが、その際ハーマイオニーは浮かんだり降りたりするだけで精一杯で、ハリー・ポッターの飛行が本当に素晴らしい技術によるものだったと実感したらしかった。
 ユリィはといえば、魔法族育ちの魔女として相応の技術という感じで、特別褒められもしなかったし、怒られもしなかった。マルフォイには遠くから鼻で笑われた気配がしたが、ニッコリ笑顔を返すと彼は咳払いをして引き下がった。
「ハーマイオニーはクィディッチをまだ見たことがないんでしょう? 私は特別クィディッチのファンってわけじゃないけど、あれは見る価値があると思う。何と言っても空でのスポーツだからダイナミックだし、信じられないようなアクシデントも起こったりして――あ、ハーマイオニー、ポテトのパイはいる?」
 ユリィはパイを切り分けながらハーマイオニーを見たが、彼女は別のことに気を取られていて、もう話を聞いていなかった。
 ハーマイオニーの視線の先には、食事中のハリー・ポッターとその親友のロン・ウィーズリーがいて、彼らはマルフォイとその子分達に絡まれているようだった。
「彼らも飽きないね」
 ユリィは呆れて、パイを自分の分だけ皿に寄り分け、もぐもぐと咀嚼する。
 ユリィとしてはマルフォイには関わりたくもなかったので、ハーマイオニーのように会話を盗み聞きする気にはなれなかった。具体的な内容は知らなくても、どうせ何か理不尽ないちゃもんをつけているとか、そんなことだろう。スリザリンの彼はハリーが選手になったことこそ知らないはずだが、バカ玉の件で大目玉を喰らわなかったことは気づいただろうし、当然、そのことに納得していないはずだ。
 しばらくして、マルフォイたちがグリフィンドールの席から澄ました様子で立ち去ると、ハーマイオニーが勢いよくユリィを振り返った。眉を釣り上げて怒っている。
「ねえ今の聞いた⁉︎」
「いいえ、聞いてないけど……」
「ハリーとマルフォイが夜中に寮を抜け出して決闘するって言ってるの! 校則違反だわ!」
 マルフォイもそうだが、ハリー・ポッターも調子に乗っているらしい。ユリィは半目でハリー・ポッターを見た。彼はロンと顔を近づけ、何やら話し込んでいる。
「介添人はロン・ウィーズリー?」
「そうよ。ああ、夜中に寮を抜け出すなんて、見つかったらグリフィンドールから何点減点されるかしら……!」
 ハーマイオニーは授業でたくさん得点しているせいか、それを他人に減らされることが大嫌いだった。授業でしくじるのは致し方ないことだと理解しているらしく責めることはなかったが、規則違反は別らしい。
「先生に報告したら? 行く前に彼らを止めてくれるよ」
「それじゃどっちにしろ減点されちゃうじゃない! 彼らに止めるよう注意してくるわ!」
 ハーマイオニーは正義感や厄介ごとより得点を取ったらしい。
 ユリィが止めるより前に、ハーマイオニーはハリーたちに物申しに行ってしまった。あの様子じゃ、ハリーとロンはハーマイオニーの言うことなんて聞かないだろう。言うだけ無駄だとユリィは思った。
 数分後、ユリィの予想通り、ハーマイオニーはもっと立腹した様子で戻ってきた。
 夕食を終えて寮に戻っても、ハーマイオニーは今夜行われるであろう規則違反のことで頭がいっぱいだった。彼女は再度ふたりを説得すると言って、夕食後に男子部屋に引っ込んでしまった彼らを寮の談話室で今か今かと待ち構えていた。
 ユリィもそれに付き合って一緒に談話室で過ごしていたが、たっぷりあった宿題も終えてしまったので、正直退屈だった。いつもだったらおしゃべりに付き合ってくれるハーマイオニーはそわそわと男子部屋に繋がる階段の方ばかり見ていて、ユリィが他の話を振っても、すぐに彼らの今夜の愚かな予定についての話題に戻されてしまう。
「ねえ、そんなに気になるなら、今からでもマクゴナガル先生に事情を伝えてきたら? 減点はされちゃうかもしれないけど、マルフォイたちも減点されるから、スリザリンとの点数に差は開かないよ。私たちの伝え方によっては、スリザリンの方が多めに減点してもらえるかも」
「でも彼らが出かける前に止められれば、グリフィンドールの点は減らないわ。ちゃんと説明すれば、愚かなことだって理解するはずよ。もしできなかったとしても、それならそれで、ハリーたちや、スリザリンの連中だって、罰を受けるべきだわ」
「うーん、そもそも、あのマルフォイが本当に決闘なんかするか疑わしいと思うんだけれど」
 ユリィの知る限り、マルフォイはプライドの高い嫌なやつだが、頭は悪くない。決闘だ何だとハリーたち夜中に呼び出しておいて、自分は彼らの深夜徘徊を先生に告げ口するだけして寮でぬくぬくと過ごした方が楽でスマートに、スリザリンらしくハリーたちを追い込める。そもそもマルフォイは、ハリーが罰則を受けなかったことが気に食わないんだし。