真夜中の冒険 3 / 4

 十時半になっても、ハリーたちは談話室に降りてこなかった。
 ハーマイオニーによると彼らの決闘は真夜中にトロフィールームで行われるらしいから、もしかしたら十一時を過ぎるまで出てこない可能性もある。お風呂好きのユリィはゆっくりお風呂に入りたかったので、頑なに動かないハーマイオニーを置いて寮のバスルームに向かうことにした。
 たっぷりとバスタイムを楽しんだユリィがネグリジェ姿で女子の寝室に戻っても、ハーマイオニーのベッドはまだ空っぽだった。ユリィのベッドの端で、子猫のサファイアがすやすやと眠っている。他のルームメイトも全員眠っているようで、ユリィが部屋に備え付きの時計を見ると、時計は十一時四十五分を指していた。
 ハーマイオニーの説得が成功しようと失敗しようと、もうすぐ戻ってくるはずだ。
 厄介ごとに関わりたくない気持ちもあったが、ユリィも結果を知りたかったので、ハーマイオニーを待つことにした。自分のベッドに座って、サファイアとルームメイトを起こさないよう気をつけながら、静かに読みかけの小説を引き寄せた。
 最近魔法界で流行している冒険小説で、毎晩寝る前に読み進めているものだ。ユリィのベッドの横には大きな窓があり、枕元にちょうど月明かりが差し込むので、間接照明代わりになる。だが、たとえ月明かりがなくたって、ユリィはその小説を難なく読むことができただろう。真っ暗な中でも周りの様子がはっきりと見える体質は、イネーブラ家の人間としての、数少ない利点だった。
 ユリィはしばらく小説に夢中になっていたが、ひとつの章を読み終えたところで、いくら何でも遅いんじゃないかと顔をあげた。時計を見れば、時刻はもうすぐ十二時半になろうとしている。絶対に遅過ぎる。
 ユリィは花柄の黒いガウンを羽織り、談話室に向かうことにした。
 夜の寮は静かで、ひとの気配がない。夜だからか、寮の階段の明かりも控えめで、ユリィは冷えた指先を温めるため、両手をガウンのポケットに入れた。もう少し厚着してから部屋を出るべきだったと考えていたユリィだったが、談話室はまだ暖炉の火がついているようで、すぐに暖かい空気に包まれた。
 談話室にハーマイオニーの姿はなく、代わりに見覚えのある二人の上級生がいた。二人は四人がけのソファを陣取って、ソファにぶちまけた色んなガラクタを見ながらあれこれと相談しているようだった。
「こんばんは?」
「うわっ」
 ユリィが声をかけると、自分たちの手元に気を取られていた二人はあからさまにびっくりした声を上げて飛び上がった。二人の悲鳴はタイミングも声のトーンも完全に同じで、ユリィは少し感心した。
 彼らの名前は、フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー。
 ホグワーツでもっとも有名な双子だ。あのロン・ウィーズリーの兄の三年生で、ユリィが知る限り、とても目立つ存在だ。何せホグワーツのトラブルの五割か六割は彼らが原因なのだ。ものすごく悪戯好きで、こないだも新学期早々、管理人のフィルチにクソ爆弾を喰らわせるついでに学校のベンチをぺちゃんこにして罰則を受けていた。もしかしたら今も悪巧みの相談中だったのかもしれない。
 新入生のユリィは、今まで双子とはまったく接点がなかった。彼らにも良識と仲間意識はあるようで、グリフィンドールの新入生には酷いイタズラも仕掛けてこないし、ユリィだってトラブルの大元みたいな彼らと関わる気もなかったからだ。
「ああびっくりした……君、イネーブラのお嬢さまだよね?」
「こんな夜中にどうしたんだ?」
 双子が順番に言った。彼らの外見はそっくりで、ユリィはどっちがどっちだか、さっぱり区別つかない。
「私の友達のハーマイオニーを見てない? ハリーか、あなたたちの弟のロンは?」
 双子はお互いの顔を見合わせると、ユリィに向かいのソファに座るように促した。
「俺たち、日付が変わった頃からここにいるけど、他に誰も見てないな」
 ユリィは嫌な予感がした。日付が変わった頃からここに誰もいないなら、やはりハーマイオニーはハリーたちの説得に失敗したのだ。それどころか、彼女も戻ってきていないということは、もしかしなくても、彼らと一緒に行った可能性が高い。
 ユリィのしかめ面を見た双子は、興味が惹かれたらしく身を乗り出してきた。
「なんか面白い事情がありそうだな。詳しく聞かせてくれよ」
 双子はソファに広げていたがらくたを雑に避けてスペースを作ると、ユリィにその場所に座るよう紳士的な仕草で促した。
「ロンも関わってるなら、俺たちにも無関係ってわけじゃなさそうだしな」
 ユリィはトラブルメーカーに事情を話すか少し悩んだが、彼らの身内が関わっているのだから、悪いようにはしないだろうと判断した。大人しくソファに座ると、双子はそれぞれユリィの両隣に座り、じっとこちらを見つめてくる。
 ユリィが居心地の悪さを感じながらも夕食時のことから順番に説明すると、双子たちはまったく同じ動作で「ふむ」と思案げに腕を組んで、お互いに目配せした。
「うちの弟は意外とやる男だったんだな」
「一年生のうちから深夜に徘徊なんてな」
 双子は弟の規則違反を嘆くどころか、いたく感心しているようすだった。ユリィは白けた目でふたりを見たが、双子はなぜかちょっと格好つけた顔でユリィのことを見つめ返した。
「なあ、それで、お嬢さまはどうするつもりなんだ? ロン達を探しに行くのか?」
 ユリィの左側にいるウィーズリーが尋ねる。その辺に散歩に行くのかというような言い方だった。
「……決闘はトロフィー室でやるって言ってたから、こっそりそこまで様子を見に行くかどうか……もう遅いかもしれないけど、生真面目なハーマイオニーが罰則なんてことになったら、彼女、爆発して粉々になっちゃうんじゃないかと思うし」
 そんなハーマイオニーと明日から一緒に過ごすくらいなら、今夜彼女をこっそり連れ戻す方が楽な作業に思えた。幸い、ユリィは夜目が利く。薄暗いところを選んで進めば、誰にも見つからずにトロフィー室に向かうのはそう難しいことでもないはずだ。
 ユリィの言い草に吹き出した双子は、「それなら」と口を開く。
「なあ、俺たち、ホグワーツのどこに誰がいるか知る秘密の手段を持ってるんだ」
「君が友達を心配しているように、俺たちも弟が心配なのさ」
「君が俺たちの秘密を守ってくれるならって条件付きだけど、いっしょに行かないか?」
 弟が心配だという割に、ふたりとも愉快そうな顔をしている。面白そうだから俺たちも混ぜろと思っているのが見え見えだった。
「それなら、私はその秘密について何も聞かないから、あなた達だけでハーマイオニーとロンを助けてきてくれない?」
 ユリィが思い付いた最良の選択肢を口にすると、双子は不満そうな表情になった。
「君、頭がいいな」
「ありがとう」
「でも、それじゃつまらないだろ」
 ユリィの右側にいるほうのウィーズリーが、まるで大親友にそうするように芝居がかった仕草でユリィの肩に腕を回してくる。
「君が来ないなら、この取引きはなしだ」
 左側のウィーズリーも同じようにしてユリィの方を掴んできたので、ユリィは少しも逃げられないことを悟った。
 かくして、ユリィはこの双子と深夜の散歩に行くことになってしまった。