真夜中の冒険 4 / 4
最初は不本意なユリィだったが、双子という協力者が得られたのは、思っていた以上に幸運な出来事だったようだ。
彼らはどんな手を使ったのか知らないが、ホグワーツのすべてを網羅する地図を持っていて、しかもそれには、現在進行形でどこに誰がいるのかまで記載されているのだ。トロフィー室に探しに行くまでもなく、ユリィたちはハーマイオニーたちの居場所を知ることができた。そのうえ、彼らは深夜徘徊の達人で、ありとあらゆる抜け道を知っていた。
そんなわけで、一行は巧みに警備の教師の目を掻い潜りながら、ハーマイオニーたちのもとへの最短距離を進んでいた。
「地図によると、ロンたちはフィルチを巻いたようだな。さっきまで追いかけられてたけど、今はだいぶ離れてるぜ」
「何でネビルまでいるの?」
フレッドが持っている地図を覗き込みながら、ユリィは疑問を口にする。
忍びの地図と呼ぶらしいその不思議な地図には、ハーマイオニーとロンとハリーと、それから何故かネビルの名前が浮かんでいる。ちなみにマルフォイの名前はスリザリン寮にしっかりと載っていたので、ユリィの予想通り彼がグースカ寝ていることは明らかだった。
「さあな。とりあえず、『妖精の魔法』教室近くの廊下にいるみたいだ。俺たちもすぐそこにつくぜ」
ジョージが曲がり角を曲がってすぐ、正面の暗がりを指差した。この通路は近道だったが、三人が並ぶとぎゅうぎゅうになるほど狭いうえに、蝋燭がまばらで、かなり薄暗い。夜目はきくユリィにはよく見えていたが、双子は前がよく見えないようで、ときどきぶつからないように壁を手で確認していた。
「――待って!」
ジョージが指差した先にゴーストの姿らしき揺らめきが見えて、ユリィは慌てて両手を使ってそれぞれの双子の口を塞いだ。双子は驚いたようだったが、声も音も立てずに、ユリィが促すままにそうっと曲がり角を引き返した。
ゴーストの死角まで退がったところで、フレッドが「間一髪だったな」と地図を見ながら囁くように言った。ユリィが地図を覗き込むと、『ビーブズ』という名前が先ほどまでいた通路を横切って行った。ユリィの見間違いではなかったようだ。ビーブズはゴーストではなくポルターガイストだが、ゴーストと似たようなもので壁をすり抜けられるのだ。壁を突っ切ってやってくるので、注意深く地図を見て歩いていたフレッドも見落としたのだろう。
ビーブズは双子よりもタチの悪いイタズラ(というか意地悪)好きなので、見つかっていたら大騒ぎになっていたはずだ。フレッドのいう通り、本当に間一髪だった。
「にしてもユリィ、真っ暗だったのに、よく見えたな」
ユリィは一瞬返答に困ったが、ここまでのやり取りで、双子がそこまで意地悪な性格ではないことを理解していた。ただ面白いことが好きなだけで、根は真っ直ぐだ。そして、とても話がわかる人間でもある。
「――あのイネーブラ家の魔女だもの。夜目くらい利く」
思った通り、双子はその返答に満足したらしい。二人はニヤリと笑った。
「なるほどな」
「そりゃそうだ」
ここで詳しく聞くほど無粋でもない彼らは、すぐに話題を地図に戻した。
「なあ、このままだと、ビーブズはロンたちと鉢合わせないか?」
すぐにジョージが言った通りになった。
地図の上で、ビーブズとハーマイオニーたちが隣り合ったままピタリと動きを止めた。
「ビーブズは見逃すと思う?」
ユリィは答えがわかっていたけれど、念のため二人に意見を求めた。
二人が「いいや」と答えるのを掻き消すほどの大音量で、「生徒がベッドから抜け出した!――『妖精の魔法』教室の廊下にいるぞ!」というビーブズの声が学校内に響き渡った。
地図上では、ハーマイオニーたちが一目散に走り出したのがわかる。しかし、突き当たった扉が開かなかったらしい。そこで立ち止まったまま動かない。遠くにあったフィルチの名前が、地図に足跡を残しながらこちらへ向かっている。
「どうする?」
フレッドに聞かれたが、ユリィは首を振った。
「どうしようもないでしょう。いま飛び出したら私たちが先に捕まっちゃうし」
双子も同意見のようで、三人はその場から動かなかった。ただし、双子はポケットの中の糞爆弾の在庫を確認していたから、すべて諦めたわけでもないらしい。
「おっ」
地図のハーマイオニーたちに動きがあった。どうやら扉を開けることに成功したらしい。四人の名前が扉の中に滑り込んだ時、フィルチの名前が現場に到着した。
「なあ、今、間に合ったかな?」
「どうだろう」
果たして、彼らは間に合ったようだった。
少し後に、ユリィたちのいる場所にまで届くほどのフィルチの罵声が聞こえたかと思うと、地図上からビーブズの名前が消えた。彼はポルターガイストだから、神出鬼没なのだ。フィルチの声を聞くに、ビーブズはフィルチの味方もしなかったようだ。
「フィルチがどこかに行ったら、あいつらを迎えに行こうぜ」
ジョージが明るい声で言った。ユリィもホッと息を吐く。
「こっちまでドキドキしちゃった」
「本当だよ。ロンのやつ、褒めてやる前にちょっとは苛めてやらなきゃな」
「ねえ、ハーマイオニーたちがいるこの廊下って、何があるの?」
そういえば行ったことのない場所だと思って、ユリィは何とも無しにそう言ったのだが、フレッドとジョージの顔が急に強張った。
「何?」
ユリィが尋ねると、フレッドとジョージはぎこちない動きで顔を見合わせた。
「やばいぜ相棒」
「ああ、これはまずい」
彼らが質問に答えないままそう言い合うから、ユリィはフレッドの手から地図をひったくった。それをフレッドが咎めもしない。ユリィは一層不審に思って、地図を広げる。ビーブズの報告はすべて嘘だと思ったのか、フィルチが遠ざかっていくのを横目に、ユリィは何かわからないかと地図を色んな方向から眺めてみた。
「あっ」
ユリィは閃いた。
ホグワーツ初日の宴で、ダンブルドア校長が全校生徒の前でこう言っていた。
『とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません』
――彼らがいるのは、まさに四階の右側の廊下だ。
「危険なの?」
ダンブルドアの言い方はあまりに漠然としていたから、ユリィは冗談かと思っていた。立ち入り禁止なのは本当だろうが、老朽化で修理の予定であるとかそんなところだろうと思っただけで、四階の右側の廊下のことなんて今日まですっかり忘れていた。
ジョージが困った顔でユリィを見た。
「わからないんだ」
フレッドがジョージの言葉を引き継ぐ。
「当然、俺たちも入ってみようと思ったんだが、鍵がかかってて入れなかったんだ」
当然入ってみようと思うあたりさすがだったが、双子の心意気に感心している場合ではないことはユリィにだってわかる。本当に危険なら助けに行く必要があるかと思って地図を見下ろした時、ハーマイオニーたちがすごい勢いで寮へ引き返していくのがわかった。全速力で走っているらしく、地図の折り目の先にハーマイオニーたちの名前が消えてしまう。ユリィと双子は慌てて地図の折り目をあちこち広げた。
「一体どうしたんだ?」
「まあ、とりあえずこれだけ走れるなら無事みたいだな」
「ええ、元気いっぱいに見える」
ハーマイオニーたちが一回も休むことなくグリフィンドール寮に戻ったのを見届けると、ユリィは帰りのルートを模索すべく、地図から目線を上げずに双子に言った。
「とりあえず無事みたいだし、私たちも寮に戻らない?」
しかし、双子の意見は違うらしい。
「せっかく立ち入り禁止の扉が開いてるんだぜ!」
「中を見ないなんて、正気かよ!」
双子は興奮した様子で、もう地図の弟には目もくれず、今にも通路を飛び出して廊下の向こうを探検したそうにしている。
ユリィは冷静に諭した。
「あなたたちこそ正気なの? これを見たら意見が変わるんじゃない?」
ユリィが指差した地図の上では、どこからともなく現れた『アルバス・ダンブルドア』の名前が立ち入り禁止の廊下に立ち塞がっていた。