タランチュラ・パニック 1 / 4

 翌日のハーマイオニーはそれはもう不機嫌だった。
 ユリィがタイミングを見計らって昨夜のことについて尋ねる前に、ハーマイオニーはハリーとロンがいかに子どもっぽくて愚かなのかを矢継ぎ早に説明し、彼らのせいで自分とネビルは死にかけたと主張した。
 話を要約すると、昨夜談話室でハリーたちを説得するために待ち伏せしていたハーマイオニーは、逃げる彼らを量の外まで追いかけ、決闘に参加しないよう彼らを説得しにかかった。しかし、それはやはり失敗に終わったらしい。
 それでハーマイオニーは諦めて寮に戻ろうと思ったのだが、寮の番人である太った婦人(彼女は魔法のかかった絵画に描かれた女性で、合言葉を知るグリフィンドール生しか寮に入らないよう見張る役目を与えられている)が運悪く夜のお出かけに出てしまい、ハーマイオニーは夜中だというのに寮に戻れなくなってしまったそうだ。まずい立場に立たされてしまったハーマイオニーは、寮の外にいることが教師にバレた時に、「ハリーたちを止めようとした」という言い訳が立つように彼らについていくことに決めた。ついでに寮の合言葉を忘れて寮に入り損ねていた医務室帰りのネビルを仲間に加えた彼らは、四人でトロフィールームに向かった。
 あとは、ユリィが地図で見た通りの結果だ。
 待てど暮らせどマルフォイはやってこなかったが、代わりにフィルチが現れたので、慌てて逃げ回り、何とか巻いて一息ついたところで、今度はビーブズに出くわし、ビーブズが現れたせいでまたフィルチから逃げる羽目になった。逃げた先にあったドアに鍵がかかっていて、万事休すかと思われたが、「基本呪文集、第七章よ」の鍵開け呪文を知っていたハーマイオニーのおかげで、どうにかドアの向こうに逃げ込むことができたそうだ。
 だが、ハーマイオニーたちの不運はそれで終わらなかった。
 彼らはその扉の向こうが、なぜ『禁じられた廊下』なのかを身を持って知ることになってしまったからだ。そこには、三つの顔を持つ、天井につきそうなほど巨大な犬がこちらを睨んでいたそうだ。その怪物犬は今にも齧り付いて来そうな素振りを見せたため、彼らはまた超特急で逃走することになった、というのが、ハーマイオニーが説明した昨夜の顛末だった。
「何でそんな危険な生き物を校内で飼っているんだろう」
 ユリィが聞くと、ハーマイオニーは、怪物犬の足もとに仕掛け扉があったことを教えてくれた。なるほど、その犬は番犬というわけらしい。
 そしてハーマイオニーはそのあとすぐに就寝したようで、ユリィがベッドにいなかったことには気づかなかったようだった。ユリィは彼女が心配でウィーズリーの双子と追いかけたことを話すつもりだったが、ハーマイオニーはユリィが「ウィーズリー」の「ウ」の字を言うか言わないかの段階で怒りを爆発させてしまうので、すっかり話しそびれてしまった。
 今回の一件でユリィにとって幸運だったのは、ウィーズリーの双子と友人関係を築けたことと、ハーマイオニーがハリーとロンに関わるべきではないとついに気がついたことだった。マルフォイが突っかかるのはハリーとロンで、ハリーとロンにハーマイオニーが突っかかるから、ユリィも厄介ごとに巻き込まれるのだ。ハーマイオニーがハリーたちと接点を持たなくなったことで、その日からユリィの生活は平穏そのものになった。
 平和な時間を過ごして一週間、ハーマイオニーがハリーとロンを見かけても表面上は何の反応も示さなくなった日の朝食時、郵便の時間のことだった。
 ユリィはハーマイオニーと一緒に朝食を摂っていて、近くの座席ではウィーズリーの双子とその親友のリー・ジョーダンが騒がしく今日のイタズラの予定を再確認していた。ハーマイオニーは当然彼らの悪巧みにいい顔はしなかったが、あのロン・ウィーズリーの関係者であることと、ユリィが時折彼らのやり取りにクスクス笑うこともあって、直接物申したりして空気を乱さないように気を遣ってくれていた。
「郵便の時間だわ」
 ハーマイオニーの声に、ユリィは顔を上げた。
 大広間の天井を、天窓から入って来たたくさんのふくろうが飛び交っている。祖父からの手紙を待っていたユリィは、祖父の黒いふくろうの姿がないか目を凝らした。祖父はスリザリン出身の魔法使いなので、ユリィがグリフィンドールに組み分けされたことにどういう反応が返ってくるか少しだけ心配だった。
 と、その時、ふくろうの群れに混じって、とても大きな配達物が運ばれてきたので、大広間中の注目を集めた。郵送にふくろう六羽も使う、とても大きな荷物だった。
 その大きな包みは、食事中だったハリー・ポッターの前に落とされた。
「見ろよ! ついにきたぜ」
 フレッドが声を潜めて言った。
「あれが何か知ってるのか?」
 リー・ジョーダンが尋ねると、フレッドとジョージは周りを確認し、声の届く範囲に自分たちとユリィとハーマイオニーしかいないことを確認すると、身を乗り出してリーに内緒話をする姿勢を取った。興味が惹かれたユリィも、身を乗り出して聞く姿勢をとる。ハーマイオニーは澄ました顔で我関せずという素振りをしていたが、やはり気になるらしく、さりげなく双子の方に体を近づけた。
「ハリーの競技用の箒さ」
「ウッドの話じゃ、マクゴナガル教授が選手になったお祝いってことでプレゼントしたらしいぜ」
「なんと、新品のニンバス2000だ」
「すごいじゃない!」
 ユリィはなるべく小声になるよう気を使いつつも、思わず感嘆の声を上げざるを得ない。
 ニンバス2000といえば、今出ている競技用箒の中でも最新型だ。アマチュアの選手が使える部類の箒では最高速だし、もちろん高級品なので、それなりの価格はするはずだ。
「ここんとこスリザリンに負けっぱなしで、マクゴナガルも相当悔しがってたしな。ハリーは本当に期待の星なんだな」
 リーが感心した様子で言った。
 男の子三人が羨ましそうにハリーの持つ大きな包みを見て沈黙し始めたので、ユリィは乗り出していた身体を椅子に落ち着けて、ハーマイオニーの方へ向き直る。
「ハーマイオニー、二年生になったら、私たちもお店に箒を見に行かない? 競技用は要らないだろうけど、ちょっとしたお出かけに使う可愛い箒があってもいいと思うの」
「そうね、それは良さそう――」
 ハーマイオニーはそう言いつつも、浮かれた様子のハリーとロンから目線を離さない。彼女は別にニンバスが羨ましくて見ているわけではないだろう。素晴らしいプレゼントに絶好調の彼らが、また愚かな行動を取るんじゃないかと気にしているのだ。
 トラブルは御免なユリィは、ハーマイオニーの注意を引くために彼女の肩を軽く叩いた。
「ちょっと、彼らには関わらないことにしたんじゃないの? また厄介なことになるよ」
 ユリィにそう言われて、ハーマイオニーはやっとこっちを見た。
「ええ、そうだったわね……、そうよ! 私には関係ないことだわ」
 ハーマイオニーは自分に言い聞かせるようにそう言って、ゴブレットに入ったカボチャジュースを一気に飲み干した。