タランチュラ・パニック 2 / 4

 一時間目が始まる前に予習をする時間が欲しかったユリィとハーマイオニーは、他の生徒たちより早めに大広間を出た。しかし玄関ホールに差し掛かったとところで、またマルフォイとその子分と、ニンバス2000を持ったハリーとロンとが何やら揉めているのに遭遇してしまった。
「待って!」
 思わず飛び出して行きそうになったハーマイオニーを、ユリィは咄嗟に引き留める。
「でも!」
 ハーマイオニーはユリィに文句を言いかけたが、すぐに黙った。揉めている男の子たちのもとへ、偶然通りがかったフリットウィック教授が慌てて駆けつけていったからだ。
 フリットウィック先生は妖精か何か(レプラコーンではないかとユリィは睨んでいる)との混血の魔法使いらしく、とてもとても小柄なおじいちゃん先生だ。『妖精の魔法』の授業を担当してい。一年生よりも小さい背丈と穏やかな性格とは裏腹に、呪文のセンスは抜群で、若いころは決闘クラブで大活躍していたという噂もある。父親がホグワーツの理事を勤めるというアドバンテージを持つドラコでも、大きな顔をできない相手だ。
「ほら、先生が何とかするよ」
 ハーマイオニーは安心して、彼らに関わるのは思いとどまった様子だった。
 フリットウィック先生の登場で、マルフォイたちとハリーたちの勝負に決着がついた。マルフォイは箒のことを規則破りだと先生に報告するつもりだったようだが、フリットウィックは事情をご存知だったらしく、むしろハリーが「実はマルフォイのおかげで買っていただきました」と痛烈な皮肉を返した。今回の勝負はハリーたちに軍配が上がったようだ。
 悔しそうな顔でマルフォイたちが去るのを横目に、ユリィとハーマイオニーは当初の目的通り寮に戻る道を歩き出す。どちらかがそうしようと言ったわけではなかったが、ユリィもハーマイオニーも、前を歩くハリーとロンに関わらないために、彼らに追いつかないスピードで歩くよう意識していた。
 ハリーたちは階段の上まで着くと、我慢する必要がなくなったので、思う存分さっきのマルフォイたちの様子について笑い始めた。
「だって本当だもの。もしマルフォイがネビルの『思い出し玉』をかすめていかなかったら、僕はチームに入れなかったし――」
 ハリーの調子に乗った台詞に、ハーマイオニーはついに堪えきれなくなった。再び飛び出していったハーマイオニーを、油断していたユリィは捕まえ損ねた。
「それじゃ、校則を破ってご褒美をもらったと思ってるのね!」
 ハリーとロンはうんざりした顔でハーマイオニーを振り返った。ユリィは自分も同じような顔をしているんじゃないかと思い、ハーマイオニーに見られる前に取り繕った。
「あれっ、僕たちとは口をきかないんじゃなかったの?」
「そうだよ。今更変えないでよ。僕たちにとっちゃありがたいんだから」
 ハリーとロンの息のあった言い草に、ハーマイオニーの頭にもっと血が上ったのがユリィにはわかった。事態が悪化するのを恐れたユリィは、「まあまあ」とハリーたちとハーマイオニーの割り込む。
「ハーマイオニー、気持ちはわかるけど、グリフィンドールのシーカーが素晴らしい箒を得たのは良いことだし、彼が試合で活躍すれば、寮の点数にもなるでしょう。だから、今回の件はもういいことにしない?」
 ユリィの言葉は、冷静さを欠いた今のハーマイオニーにはさっぱり届かなかったらしい。彼女は眉を吊り上げてユリィを睨んだ。
「あなたまで彼らの味方をするの⁉︎ トラブルばかりの彼らの行動は目に余るって、あなただって思ってるんでしょう⁉︎」
「いや、味方とか敵とか、そういうわけじゃ――ただ、ハリーとロンの反省が足りないと感じるのはわかるけど、終わったことだから、これ以上蒸し返さなくてもいいんじゃないのって言いたいの」
「私は彼らのせいで危うく退学になるとこだったのよ! それで済むわけないでしょう! ユリィ、言わせてもらうけど、あなただって最近不真面目が過ぎるわ! あの双子と仲良くしたり、魔法史の授業で居眠りまで! 全く、どうかしてるわよ!」
 そこまで言われると、ユリィももう我慢の限界だった。
「――ちょっと、どうかしてるのはあなたの方じゃないの?」
 言わなくていいことだとわかっているのに、ユリィももう止められなかった。
「私は別にハリー・ポッターもロン・ウィーズリーもどうでもいいし、放っておけばいいものを、ハーマイオニーがいちいち彼らに突っかかるから話がややこしくなるんじゃない。それに、何? 私が不真面目が過ぎるって? あなたの真面目が過ぎるんでしょう、あなたの不機嫌を私のせいにしないでよ」
 ユリィにここまで言い返されるとは思わなかったのか、ハーマイオニーは真っ赤な顔でキッとこちらを睨みつけてきたかと思うと、何も言わずにそっぽを向いて引き返していった。
「ふん」とユリィはその背中を見送る。言いすぎたという気持ちがないでもなかったが、ここのところハーマイオニーに抱いていた鬱憤が晴れて清々した気持ちの方が大きかった。
 ハーマイオニーの姿が曲がり角を過ぎて見えなくなったので、ユリィは寮に帰ろうとくるりと方向転換する。そこには、ハリーとロンがポカンとした顔でまだ突っ立っていた。
「そこをどいてくれる? 聞こえたでしょうけど、私、あなたたちと関わり合いになりたくないの」