ハロウィーン 3 / 3

「ハーマイオニー!」
 生きてる!
 トロールの隣に彼女の姿を見つけて、ユリィは思わず駆け寄って抱きついた。
「ユリィ?」
 ハーマイオニーは驚いた様子だったが、すぐに抱きしめ返してくれた。服は汚れていたが、怪我はなさそうだ。ユリィは酷く安堵した。
「無事でよかった」
 ユリィは呟いて、ハーマイオニーから離れた。と、ユリィは急に恥ずかしくなってきた。教授たちの前で泣きそうになってしまったし、何でかはわからないが、この女子トイレにはハリーとロンまでいた。
 ユリィとハーマイオニーの抱擁を見ていたマクゴナガル教授の目にきらりとしたものを見た気がしたが、次の瞬間には、マクゴナガル教授は物凄く怒った顔になった。
「ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」
 マクゴナガル教授も恐ろしいが、スネイプ教授の顔もとても怖い。ユリィは自分が怒られている訳でもないのに身がすくむ思いだった。ハリーはすぐにしおらしく俯いて見せたが、ロンは何故か自分の杖を構えたまま、今まさに杖を使って愚かなことをしていましたというポーズで間抜けに突っ立っている。
 ハーマイオニーが不思議そうにユリィを見た。自分だけが怒られなかったことで、ユリィが何か言ったのだろうと感づいたようだ。
「トロールが来る前からあなたがトイレに行ってて、まだ帰ってきてないって報告したの」
 ハーマイオニーと話を合わせる必要があると思い、ユリィはそう説明した。言いながらも、彼女が食事中にトイレに行った無作法者みたいに言ってしまったことに気がついたが、今更言い訳を変えるわけにもいかない。ユリィはごめんという意味も兼ねて、ハーマイオニーにだけ見えるようにウィンクした。
 ハーマイオニーは心得たように一度頷いた。
「マクゴナガル先生。聞いてください――ふたりとも私を探しに来たんです」
 ハーマイオニーが彼らを庇った。ユリィも、そこで事情が飲み込めた。
「あなたたちもハーマイオニーがトイレにいることに気づいて、彼女を探しに来たの?」
 ユリィが尋ねると、ハリーとロンはそれぞれ頷いた。ハーマイオニーが進み出て、教授たちにさらに事情を説明する。
「あの、先生。もしふたりが私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。ハリーは杖をトロールの鼻に刺しこんでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。ふたりとも誰かを呼びに行く時間がなかったんです。ふたりが来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」
 ハーマイオニーはふたりに助けられたことを恩に感じているらしかった。そもそもロンのせいでハーマイオニーはトイレに篭ることになったわけだが、その件は黙っていた。ハリーとロンも、ちゃっかりその通りですという顔を装っていた。
「まあ、そういうことでしたら……」
 マクゴナガル教授は少し溜飲を下げたらしい。少し声音が穏やかなものになった。
「ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、本来であれば、ミス・イネーブラのようにすぐに先生や監督生に報告すべきでした。ですが、結果的に、あなたたちが私たちより早くここに着いたことで、ミス・グレンジャーが助かったのも事実です。ですから、この件は特別に不問とします」
 ハリーとロンは目に見えてほっとしたようだった。
「ですから、まず、正しい行動をとったミス・イネーブラに五点。そして、ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、大人の野生トロールと対決できる一年生はそうはいません。ひとり五点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にご報告しておきます。四人とも、寮に帰ってよろしい。さっき中断したパーティーの続きをやっています」
 ハリーとロンは逃げるようにしてトイレを出て行った。ハーマイオニーがユリィの手を引っ張って、にっこりと笑ってくれる。仲直りの合図だった。ふたりは手を繋いだままトイレを出ようとしたが、マクゴナガル教授が呼び止めたので、扉の前で立ち止まった。
「ミス・イネーブラ。本当によかったですね」
 マクゴナガル教授は優しく微笑んでいた。クィレル教授もぎこちない笑顔でユリィを見ていた。ちなみにスネイプ教授は相変わらず不機嫌な顔で、こちらも見もせず、意識のないトロールの様子を伺っている。
「はい。先生方も、ありがとうございました」
 ユリィがペコリと頭を下げると、マクゴナガル教授は「どういたしまして」と返した。
「あなたたちの友情はかけがえのないものです。その友情に、一点差し上げましょう」
 スネイプ教授が不満そうに大きく咳払いをしたが、マクゴナガル教授は無視した。ユリィとハーマイオニーは顔を見合わせると、ふたりでもう一度お礼を言って、トイレを後にした。
 トイレから少し歩いたところで、ハリーとロンはユリィたちを待っていた。グリフィンドール塔に向かって階段を登りながら、ロンが不満げに口を開く。
「ふたりで十点は少ないよな」
「三人で十五点だろ。イネーブラも貰ってた」
「四人で十六点よ」
 ハリーが訂正したのを、ハーマイオニーがさらに訂正する。
「一点はどこから来たんだよ?」
 ロンが目を丸くした。
「さっき去り際にマクゴナガル教授に頂いたの。私とユリィの友情にって」
 ハリーとロンは信じられないという顔でハーマイオニーとユリィの顔を交互に見た。ユリィも信じ難いが、マクゴナガル教授は厳格なだけの先生ではないのだろう。ハーマイオニーが死んだかもしれないと泣きそうになっていたユリィのことを、ちゃんと見ていてくれていたのだ。ハーマイオニーはともかく、ハリーとロンにそんなこともまで話す必要はないので、ユリィはふたりの「詳しく教えて欲しい」という視線を躱した。
「それにしても、僕たちは命がけだったんだし、僕とハリーにはもうちょっと貰ってもよかったんじゃないか?」
 ロンはそう言ったが、ハリーは彼を諫めるように言った。
「僕たちが鍵をかけてヤツをハーマイオニーと一緒に閉じ込めたりしなかったら、助けはいらなかったかもしれないよ」
「それどういうこと?」
 聞き捨てならない言葉にユリィは聞き返したが、ハリーは太った婦人の肖像画の前についたのをいいことに、有耶無耶にして寮の中へ入っていってしまった。ロンも続いて消えてしまい、ユリィはハーマイオニーを見たが、彼女は「いいの」とクスクス笑った。ハーマイオニーが良いなら、まあ、いいか。ユリィはハーマイオニーと一緒に寮に入った。