妖精印の入浴剤 1 / 3
十一月に入り、クィディッチ・シーズンがやってきた。
トロールのことがあって以来、ユリィとハーマイオニーは仲直りしたし、不思議なことに、ハリーとロンもふたりの親友になった。
ハーマイオニーはトロールから助けてもらったことで考えを変えたようで、前ほど規則に煩くなくなった。まだまだ真面目すぎるとは思うが、それを他人に押し付けすぎなくなった。それでもハリーとロンにはまだ口煩く言うこともあるが、言い方も優しくなったし、彼らの宿題をハーマイオニーが手伝っている恩もあるので、いいバランスだと言えた。
ユリィも、少しだけ考えを変えた。
入学前、ミセス・ドラキュラが言っていた通り、確かに、自分には多少、嫌味っぽいところや、わがままなところがある。ハーマイオニーの前ではなるべく嫌な部分を見せないように努力していたが、彼女との喧嘩はそれが爆発したのも一因としてあると思ったのだ。だから、彼女の前でもそういう態度を必要以上に隠すのは良くないのではないか。
ハーマイオニーにその考えを告げると、彼女は意外にも「そうね、それがいいと思うわ」とすぐに肯定してくれた。ハーマイオニーは、ユリィとウィーズリーの双子との会話を聞いていて、本来のユリィがどういう性格かをなんとなく察していたらしい。逆に、なんで自分には心を開いてくれないのだろうと不満に思っていたそうだ。
金曜日の休み時間、ユリィとその友人三人は、中庭で過ごしていた。
明日はクィディッチの初日で、ハリーの初試合でもあった。一年生のハリーがクィディッチの選手に選ばれたのは極秘ということで、毎日こっそり練習をしているらしいが、「極秘」という割に、全校生徒が彼が選手だということを知っていた。そのせいか、今日のハリーはどこにいても注目されるので、校内で過ごすのは居心地が悪かったのだ。
十一月の外はとても寒い。普通の生徒は休み時間を外で過ごしたがらない気温だ。
ハーマイオニーがブルーの火を空き瓶に詰める魔法を知っていたので、四人はそれを背中に当てて暖まりながら、クィディッチについてお喋りしていた。ハーマイオニーが図書館で借りてきた『クィディッチ今昔』という本には、クィディッチについての興味深いエピソードがたくさん載っていたので、話題には事欠かない。
しばらくすると、中庭にスネイプ教授が現れた。
四人は彼に嫌味をいう隙を与えないよう、ぴったりくっついて瓶詰めの火をスネイプから隠した。彼のことだから、火は校則違反だとか言って減点するかもしれなかったからだ。
スネイプ教授は不自然に片足を引きずりながらこちらに歩いてくる。そういえば、ハロウィーンのあの日、マクゴナガル教授とクィレル教授に合流したスネイプ教授は、あの時も足を庇って歩いていたような気がする。今ほど不自然な様子ではなかったが、今思えば、あの時の彼は早く歩けないからこそ最後尾を歩いていたのかもしれない。
ユリィがスネイプ教授の足をじっと見つめているうちに、彼はハリーから『クィディッチ今昔』を没収して、さらに五点減点していた。「図書館の本は校外に持ち出してはならん」という聞いたことのない規則が理由らしい。スネイプ教授はスリザリン以外の生徒を嫌っていたが、とりわけハリーのことが大嫌いだった。ハリーと校内で出会うたびに、スネイプ教授は何らかの理由をつけて減点していた。
「規則をでっちあげたんだ」
スネイプが遠くへ行った後、ハリーは悔しがった。
「ねえ、スネイプ教授、足をどうしたんだろう? そういえば、ハロウィーンの時から足を痛めているように見えたの」
ユリィが言うと、ロンは「知るもんか」とスネイプ教授について悪態をついたが、ハリーは真剣な顔で思案する様子を見せたのが対称的だった。
その夜、談話室で、ハリーは本を返してもらいにスネイプ教授のところに行くと宣言した。試合を明日に控えたハリーは、何かしていないと落ち着かないといった様子でイライラしていた。
「でもハリー、スネイプ教授に本を返してもらうなんて、ちょっと無謀なんじゃない? 明日の試合はグリフィンドール対スリザリンだし、スネイプ教授は今、いつも以上にあなたのことを敵対視してると思う」
ユリィは諫めてみたが、逆効果だったようだ。
「何でそんなにスネイプを怖がる必要があるんだ? 本を返してもらうだけさ」
ハリーは強気に言って、談話室を出て行ってしまった。
十分経つか経たないかで、ハリーは談話室に戻ってきた。
「返してもらった? どうかしたのかい」
ロンが尋ねると、ハリーは首を振った。彼はユリィたちを談話室の隅に集めると、周りのひとに聞こえないよう小さな声で話し出した。
「僕、さっき職員室で見たんだ。昼間、スネイプが足を引きずっていたのを覚えてるかい? あそこには大きな怪我があって、スネイプはフィルチに手伝われながら包帯を変えてるところだったんだ。『三つの頭に同時に注意するなんてできるか?』って話してた――わかるだろう、どういう意味か」
ロンとハーマイオニーは思い当たるものがあったようで、ハッと息を飲んだ。ユリィも彼らから少し遅れて理解する。話を聞いただけだが、三つの頭といえば、彼らがいつかの晩に禁じられた廊下で見たという三頭犬の件があった。
ハリーは続けた。
「ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとしたんだ――あの犬が守っているものを狙ってるんだ。トロールは絶対あいつが入れたんだ。みんなの注目を逸らすために……箒を賭けてもいい」
ハリーは犯人がスネイプ教授だと確信しているようだった。
「違う。そんなはずないわ。確かに意地悪だけど、ダンブルドアが守っているものを盗もうとする人ではないわ」
ハーマイオニーが否定すると、ロンは呆れたように言い返す。
「おめでたいよ、君は。先生はみんな聖人だとでも思っているんだろう。僕はハリーとおんなじ考えだな。スネイプならやりかねないよ」
「ロンは賛成、ハーマイオニーは反対か。ユリィはどう思う?」
ハリーに聞かれて、ユリィは腕を組んで考える。
「ハリーのいうことは辻褄は合うよ。でも、スネイプ教授って、授業を受けていても思うけど、多分ものすごーく頭がいい気がするの。それにものすっごく、ずる賢い。典型的なスリザリンって感じ」
ユリィのそこまでの言い分には誰も反論がないようで、皆黙っていた。
「そんな彼が、わざわざあのダンブルドアのいる城で悪さをする? マルフォイだって、先生がいない時にしか悪さはしないのに」
ロンがウーンと唸った。
「一理あるな。でも、他に怪しい奴なんているか? マルフォイ以外に」
「それはそうだね」
ユリィは同意した。
「だけど、何を狙ってるんだろう? あの犬、何を守ってるんだろう?」
ロンが口にした疑問を残して、その夜は解散した。ハリーの初試合は明日なのだ。例えホグワーツに隠された何かが盗まれようとしているにしろ、ハリーを早く寝かせる必要があった。