クリスマス・イヴ 2 / 3

 城への興味が尽きないフレッドに質問攻めにされたユリィは、危うく列車の発車時刻に間に合わないところだった。馬番役のハグリッドがホグワーツから駅までの馬車を引く魔馬セストラルを急かしてくれたおかげで、ユリィは何とか定時刻までにハーマイオニーの待つコンパートメントに収まることができた。
「ハーマイオニー、長い間待たせちゃってごめんなさい」
 ユリィはコンパートメントに入ると、動き出した列車の振動でふらつかないよう気をつけながら、ハーマイオニーの向かいの席に腰かけた。ハーマイオニーはユリィを待っている間は読書をして過ごしていたようで、広げていた本に栞を挟んだ後、ユリィに首を振ってみせた。
「いいのよ。でも、ずいぶん遅かったわね。マクゴナガル先生が見つからなかったの?」
「マクゴナガル先生はすぐ見つかったけれど、寮を出るときにフレッドと出くわして、つい話し込んじゃったの。でも代わりに戦利品を分けてもらったから、一緒に食べましょう」
 ユリィは鞄からクッキー入りのハンカチを取り出して、空いている座席に広げた。ハーマイオニーが「わあ」とはしゃいだ声をあげる。
「クリスマス・クッキーだわ! ああ、双子がどうしてこんなものを持っているのかは聞かないわ。食べられなくなっちゃうもの」
 ハーマイオニーは絵に書いたような生真面目な優等生ではあったが、友人たちの影響か、規則破りには少しだけ寛容な視点を持っていた。
 ふたりはひとしきりくすくす笑ったあと、どのクッキーから食べるか相談し合い、食べ比べを楽しんだ。
「それにしても、ホグワーツに入学してもう三ヶ月以上も経つなんて、何だか信じられないわ。ついこのあいだ、ホグワーツ特急に乗っていたような気がするのに」
 クッキーをすべて平らげた後、ハーマイオニーは座席の背もたれに体重を預けて、そんなことを言いだした。ホグワーツ特急に乗ってホグワーツに行ったことを思い出しているのか、ハーマイオニーの眼はどこか遠くを見ていた。
「そうだね。私もそんな気がする」
 ユリィも何となく窓の外を流れていく景色を見れば、入学式の日に乗った列車から見た景色の記憶とリンクして、感慨深い気持ちになった。
「色んなことがあったね。ハーマイオニーだけじゃなくて、ハリーとロンとも友達になったし。私、あの『ハリー・ポッター』と友達になるなんて、入学前は想像もしていなかった。会ってみれば普通の男の子だったわけだけど――これ、ハリーには言わないでよ?」
 ユリィは自身の失言に気づいて、すぐにハーマイオニーに口止めした。ハーマイオニーが苦笑いする。
「ユリィったら、どんなひとを想像してたの?」
「だって、『生き残った男の子』なんだよ! 私にとっては本の中のひとだったの」
「あぁ、でもそれ、少しわかる気がするわ。私も本に書いてあるハリーと本物のハリーは、何だかべつの人物のことなのかもって思うときがあるの。本のほうが勝手に想像を膨らませて、脚色し過ぎなことが多いのよね。ハリーにとってみれば赤ちゃんの時のことだもの。覚えてさえいないみたいだし」
「そうだね。どんな気分なんだろう、自分も覚えていない赤ちゃんの時のことで英雄扱いされるのは」
 ユリィはこれまでのハリーとの付き合いで、彼が自分自身が英雄であることを少し居心地が悪いと感じていることに気づいていた。
 彼にとっては身に覚えのない出来事であれこれ言われるのは、それが良いことであっても、嬉しく感じるタイプではないのだろう。ユリィも彼と親しくなるまで勘違いしていたが、そもそもハリーは目立ちたがりな性格ではないし、そういうことをしているつもりもない。てっきり本人がそうなりたいのかと思っていたが、結果的に目立ってしまう、といった出来事のほうが多い。
 ただ、それが英雄たる所以なのかも、と考えることもできるが――。
「『例のあの人』って、そんなに恐ろしいの?」
 ハーマイオニーの質問に、ユリィは驚いて心臓がドクンと大きく跳ねるのを感じた。
 それが顔に出てしまっていたのか、ハーマイオニーがすぐに謝ってくる。
「まあ、ごめんなさい、驚かせちゃったのね。まだ私、『例の――』、んん、この話題が魔法界ではあんまり良くないってことに慣れていないのよ。本で読んで理解はしたけれど、実感がないみたい」
「ううん、大丈夫。少し驚いただけ」
 ユリィは大丈夫だと示すため、ハーマイオニーに笑顔を見せた。
「私だって、本当はよく知らないの。当時はまだ赤ん坊だったから、実感もない。ただ、この話題は軽々しく扱っちゃいけないんだって教わったし、実際に外でこの話題が出ると、その場にいるおとなたちはぎょっとしてそちらを振り返るの。それで、私もいつのまにか驚くようになっちゃった。驚かないのは根っからのスリザリンの家系くらいね」
「マルフォイたちみたいな?」
「うん。そう」
 ユリィは頷いた。
「彼らは賢いから決して口には出さないけど、そのうちあの時代が戻ってくればいいって、本気で思ってる」
 闇の時代。
 そう呼ばれた時代は多くの魔法族にとって地獄だったが、唯一の例外が彼らだろう。
 行き過ぎた純血志向が正当化され、魔法族の血の濃さが、そのまま地位に化けた時代だからだ。