シークレット・デザイア
突如始まった自己紹介の後、残りの調理を終わらせた私は出来上がった料理をお皿に盛りつけていた。この家にある食器は大皿以外は全て二つずつ、お揃いのもので溢れている。先ほど知り合ったばかりの男性にお揃いの食器で食事を出すのは如何せん憚られるが、こればかりはしょうがないと言い訳の様に脳内で呟いた。暫く碌に食べていなかった為か、ふわりと漂うカレーの匂いにぐうとお腹を鳴らした自分のお腹を睨みつつ、食卓で待つ赤井さんのもとへ向かう。自分から誘っておいてつまらないものですが、と言いつつ並べたお揃いの食器達は以前の生活を彷彿とさせ、胸の奥がチクリと痛んだ。
「手料理をいただくのは久しぶりだ」とポツリと呟かれた赤井さんの一言は意外だった。こんなに格好良いのだから手料理を振舞ってくれる彼女の一人や二人いるのだろうと思っていたが、その読みは外れていたのかもしれない。完全な偏見であると同時に不躾なのは重々承知なので、詳細を聞くことはできないのだが。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
私が手を合わせたのを見たらしい赤井さんも同じように手を合わせ、その様子が少し微笑ましく感じる。久しぶりに食べる食事を案外抵抗なく受け入れられたのは、一人ではないからなのだとぼんやり思った。きっと一人だったら食事をしようとも思わないだろうし、自分の為に料理をしようとは微塵も思いそうにない。食べたとしても適当なもので済ませてしまうだろう。初めて出会った人と、食卓を囲んで一緒に食事をする。そんな奇妙な出来事は間違いなく私を救った。
「…美味い」
「そんな、恐縮です」
「誰かと食事をするのは、やはり良いものだな」
少し笑みを零しながら言った赤井さんは同じことを考えていたようで、つられて私も笑ってしまった。それを見た赤井さんは「君は笑顔が似合うな」と冗談か本気か分からないようなトーンで言うので困惑してしまったが「すまない、困らせてしまったか」と悪戯っぽく笑っていたので益々真意がわからなくなってしまった。あまり大きく表情が変わらないために難しい人なのかと思っていたが、実のところチャーミングな人なのかもしれない。少しだけ警戒心が解かれた気がした。
○
食事後、料理を作ってもらったのでと洗い物を代わりに済ませてくれた赤井さんは、少し開かれたままの窓をちらりと見た。いつの間にか雨は止んでいたようでホッと胸をなで下ろす。気付けば時刻は二十時を過ぎていた。
「もうこんな時間か」
「はい、あっという間でしたね」
「ああ、おかげで久しぶりに食事を楽しめたよ」
「私もです」
一瞬目線を下げた赤井さんは、迷惑だったら断ってくれて構わないのだが、と前置きをしてから目を丸くしてしまう提案をした。
「これからも夕食を一緒に食べてもらえないか?」