純情可憐な少女の投影

「…はい、えー…。じゃあ整理すると、何故か知らないところで身一つで寝ていたのに加えて不思議なことに若返っていた。ついでに住んでいたところの住所は存在していないってことであってる?」

こくりと頷く少女は目線を下に落としたままだ。――あれから顔を青くした少女の話を聞いていたのだが、どうにも不可解な事しかない。もはやどこから突っ込んでいいのか分からないほどに突拍子のない話ばかりで参ってしまう。冒頭で纏めたのが全てとのことだが、これをそっくりそのまま信じてもいいのかどうかが二日酔いで痛む頭には判断ができなかった。全く持って現実の出来事とは思えないのだが、それを話す少女の口ぶりがどうにも嘘とは思えないのだ。

「もう一つ聞いてもいい?」
「はい…」
「それ、どうしたの?」

それと指した先は、少女の薬指の指輪だ。言われて初めて気付いたようで、「なんで」とポツリと呟いた少女は呆気にとられている。暫く考え込んだ後、静かに少女は続けた。

「…これ、婚約指輪なんです。でも貰って数日後に相手の浮気が分かって破談になって、この指輪はどうしようかと指にはめて眺めながら、人生一からやり直したいって一頻り泣いた後に寝落ちしたような…気がします…」

歯切れ悪く紡がれた言葉には何と言うのが正解なのかわからなく、思わず黙り込んでしまった。二人の周りを沈黙が包む。先に声を発したのは少女の方だった。

「って言ってもこの見た目じゃ信じようがないですよね。すみません。一晩寝かせていただいてありがとうございました」

立ち上がってぺこりと頭を下げた少女は困ったように笑い、お世話になりましたと言い玄関の方へ向かっていく。出ていくといっても少女は指輪以外には何も持っていない。着ているのもパジャマだ。その出で立ちでどこに行こうというのだろうか。一人で出ていく少女の行く末が良いものになるとは到底考えられず、思わず少女の腕を掴んで制止した。

「ちょっと待って、その恰好でどうするつもり?」
「…こんな訳の分からない女、出ていくしかないじゃないですか。どうするかはこれから考えます」
「流石に無鉄砲過ぎない?」

バツが悪そうに目を逸らした少女はきっと冷静ではない。むしろこの状況で冷静でいられる人がいるなら一目見てみたいものだ。このまま出て行ったとしてどうなるというのか。真偽は定かではないが、見た目は可愛らしい少女そのものだ。その姿で外をウロウロしたのでは通報されるか変な奴に捕まるかが関の山だろう。見た目からして働くこともままならないだろうし、戸籍があるのかも分からない。もし通報されたとして、存在しない住所を言い、身寄りが分からない少女がどのような扱いを受けるのかは想像することもできない。

ふーっと大きく息を吐き、腹を括る。

「…アー、暫く家に住んでもいいよ」
「え、」

ぐっと上を向いた少女と目が合う。まるで妖怪でも見たような顔をしていた。

「…私がこう言うのも変ですけど、よくこんな良く分からない女置いとく気になりますね」
「嫌なら別に出て行ってもいいけど」

少し考えた少女が出した結論は予想通りのものであった。

top