確かに愛

審神者にとって頼り甲斐のある存在でありたい、と常々考えている浦島が『修行に行きたい』と言い出すまで、それほど時間はかからなかった。浦島の熱意を汲み取った審神者も、少し考えはしたものの、すぐに修行道具を用意してくれた。心配そうな兄たちに忘れ物はないかと何度も確認されながら、浦島は本丸を出た。
 まさか自分を作った人の下で過ごすことになるとは思っていなかったが、修行は実に順調に進んだ。時折本丸が恋しくなる日もありはしたものの、強くなるためなら耐えられた。
 江戸の町を歩けば、様々な人間とすれ違う。男も女も、子供も老人も、たくさんの人間たちがいた。その中でも一際浦島の目を引いたのは、夫婦や家族だった。仲睦まじく寄り添っていたり、親子で手を繋いで歩いていたりする様子を見ると、どうにも目が離せなくなる。
 どうして目が離せないんだろう、と、浦島は一人考える。人が好きだから?仲が良さそうで微笑ましいから?と自問自答してみたが、どれもしっくりこなかった。
 多少のもやもやを抱えつつも、浦島は机へと向かっていた。修行の定期連絡のために、手紙を書かなければならないからだ。書くべきことは決まっているものの、さてどんな風に書き始めようか、と考えたところで、審神者のことが頭に浮かんだ。
 審神者のことを思い出すと胸が暖かくなる。早く審神者に会いたい。何をしているのか、今日はどんなものを食べたのか。帰ったら話したいことがたくさんある。もう一度『会いたいなあ』という気持ちになったところで、なぜか前に見た夫婦のことを思い出した。
 その瞬間、浦島は自分が審神者とどのようになりたいのかがはっきり分かった。ただ『一緒にいたい』という漠然とした思いだったものが、突然鮮明になっていく。これならば胸を張って帰ることができるだろう。浦島は満足そうに筆を取り、手紙を書き始めた。
 そしてしばらく経って、浦島虎徹が鍛えられるところをこの目で見届けた。意外にもそこまで心を動かされることはなかった。浦島太郎についての答えが自分なりに見つかったところで、浦島は本丸に帰還することを決めた。




 本丸に帰還すると、浦島の成長を祝う宴会が開かれた。刀剣男士が修行から帰ってくると毎回行われるものだったが、当然ながら主役になったのは初めてだったので、いつもとは違う楽しみ方ができた。おめでとう、と何回も言われたが、一番嬉しかったのは審神者からの言葉だった。
 ある程度落ち着いたところで、宴会はお開きとなった。主役に片付けはさせられないということで何もさせてもらえなかったので、浦島は一人廊下を歩いていた。久々に見る本丸はとても懐かしく、噛み締めるように浦島は景色を眺める。少し眺めていたところで、廊下の先に気配を感じた。見てみると、そこには会いたくてたまらなかった人が立っていた。
「主さん!」
「あ、浦島。どうしたの、こんなところで」
 思わず駆け寄ってしまう。先ほども会ったことは会ったが、こうして二人きりで話せるような場面ではなかった。
「久々に帰ってきた本丸だから、なんだか懐かしくてさ」
「ふーん。やっぱり寂しかった?」
「……ちょっとだけ!」
 正直な浦島の様子に、審神者はくすりと笑う。そして『立ち話もなんだから』と言って、浦島を自室へと招いた。久しぶりに入った審神者の部屋は、あまり変わっていなかった。自分専用の座布団が同じ位置に置かれているのが見えて、浦島は少し嬉しくなった。
「浦島、かっこよくなったね」
「えっ!そ、そう?」
「うん。なんというか、雰囲気が変わった?っていうのかな」
「そ、そうかな、えへへ…」
 面と向かって褒められると照れてしまう。ひとしきり照れた後、浦島は言うならこのタイミングしかないと気づき、顔を引き締めた。
「あのね、主さん」
「何?」
「俺、江戸の町で色んなものを見たんだ。忙しそうにしてる人もいれば、のんびり過ごしてる人もいて、本当に色んな人がいてさ」
 自分の気持ちと言いたいことを整理するように、浦島は話し始める。審神者はそんな浦島の様子を、何も言わずに見ていた。
「その中でも、特に夫婦とか家族に目が行っちゃったんだ。手を繋いだり、仲良さそうに歩いてるのを見ると、『いいなあ』って思っちゃったりして」
「なんでそんな風に思うのか分からなかったんだけど、手紙を書く時、主さんのことを考えたんだ。その時になんで『いいなあ』って思ったのかが分かったんだ」
「…どうしてそう思ったの?」
 引き締めたつもりがやっぱり照れが混じってしまったようで、先程まで浦島の視線は泳いでいた。けれども顔を赤く染めながらも、意を決したように審神者の目をまっすぐ見る。
「俺、主さんと同じようになりたい。この先も、主さんがいつかいなくなっちゃう時まで、ずっと一緒にいたい。主さん、俺と一緒に生きてください」
 心臓が強く脈打っているのを感じながら、浦島は最後まで言い切った。声が震えていないか気になったが、自らの声が聞こえなくてよく分からなかった。審神者の返事を待っている時間はとても長く感じられて、浦島は呼吸も忘れてしまった。
「私も、そう思ってるよ」
「えっ!!ほ、本当に、主さんも?本当?」
「本当だよ」
「〜〜っ、主さん、大好き!」
 我慢できずに、審神者に思い切り抱きつく。審神者は少しふらついたが、倒れずに受け止めてくれた。審神者の首元に顔を埋めると、大好きな匂いがした。
「…主さん、一つお願いしていい?」
「何?」
「俺のこと、好きって言って」
それを聞いた審神者は、浦島の耳元に唇を寄せる。
「浦島、大好きだよ」
「、えへへ、俺も大好き!」
「ふふ。…あっ、そうだ、浦島。おかえり」
「うん、ただいま!」