恋するアマービレ


家を出て最近通い慣れた道を歩く。ここを曲がると、ほら見えた。

「こんにちはー!ホップくんいますかー?」

玄関の横のダイニングの窓に向かって叫ぶとおばさんが玄関のドアを開けてくれる。

「いらっしゃい、ナナシちゃん。悪いんだけどホップにはお使いに行ってもらっててね。待っててくれるかしら」
「わかった!」

今日はホップのお使いの日だった様だ。こういう事は最近よくあって、ブラッシータウンまでウールーと一緒に出かけるのが楽しい、トレーナーへの第一歩なんだぞとよく話してくれる。

玄関のドアを潜ると音楽が流れているのに気付く。これはピアノの音だったかな。

「ホップママ、何のお歌流してるの?」
「ああこれ?実はね、今ダンデが帰ってきてるのよ」
「ダンデってあのアニキ!?」
「ふふ、そうね。あのアニキよ」

二階に居るから行ってみなさいと言われたので階段を上がって行く。ホップがよく話すアニキとは実際に会うのは初めてだ。ピアノの音が段々大きくなるのと一緒に胸がドキドキしていくのを感じる。いつもとは反対方向の、つまりはホップの部屋とは逆の扉をそっと開け覗き見る。
そこに見えたのはホップのとは少し違う紫色と、同じ黄色を持った男の人で。

(あれが、アニキなのね…!)

大人たちよりは小さく、でも私たちよりは大きい手で軽やかに複雑な音を鳴らしていく。楽器を奏でている人を見るのは生まれて初めてだ。

(か、カッコいい…)

窓から差し込む日差しによってまるで天使様が奏でている様だ。ピリリと身体中に電気が走った様な感覚がし、その影響で握っていたドアノブが音を立ててしまう。

「ホップ、もう帰ってきたのか?」
「あっ」
「ん?キミは?」

音気付いたアニキが近付いて来て、腰を曲げ私の顔を覗き込む。

「もしかしてキミが、ホップが言っていたナナシか?」
「ひゃ、はいっ!」
「すまないがホップはお使い中なんだ」
「う、うん!知ってる」

なんだ、知ってたのかと苦笑するアニキ。あれ、アニキで合ってるんだよね?

「お兄さんがホップの言ってたアニキだよね?」
「ふはっ!ああ、そうだぜ。オレがホップのアニキのダンデだ」
「アニキ!ピアノもっと弾いて!カッコよかった!」

驚きで目を丸くしたかと思うと、いいぜ!と笑いながら再びピアノに向かうので付いていく。

「ナナシは歌うのは好きか?」
「うん!よくホップとボールマンのお歌歌ってる!」
「よし、じゃあ歌ってくれ!」

テレビで何度も聞いている曲がピアノの音で流れ出す。アニキってすごい!アニキのピアノの音に合わせて大好きなボールマンのお歌を歌う。
なんだか折角の音を邪魔しちゃいけない気がして今までで一番上手に歌える様に丁寧に歌った。他にもママがよく歌ってくれる手遊びの歌やフェアリーポケモンの歌とかを一緒に歌ったの!

途中でお使いから帰ってきたホップが拗ねちゃったけどアニキが一緒に歌おうって言ったらすぐに笑顔になったのには笑っちゃった!

─これが私の初恋で。この日、アニキのお嫁さんになる!と約束をした私は、アニキがガラル地方のチャンピオンだとまだ知る筈もなく。知った時にはもうアニキにドップリだった私は身分違いの恋をどうやって諦めるかと薄暗い青春時代を過ごすことになる。



(きっとこの子はピアノの音を聞く度にダンデさんを思い出すし、なんであの時ダンデさんはあんな約束をしてくれたのかと恨む時もあるんでしょうね。バトルも苦手でジムチャレンジも碌に成績を残せなかった所に幼馴染のホップくんと引っ越してきて仲良くなったユウリちゃんのチャンピオンカップ、からのダンデさんとユウリちゃんのバトル、からのチャンピオン交代。もうこの子はどうして何で私はと落ち込みに落ち込んでハロンを離れるんでしょうね。ホップくんとすら連絡を取らずひっそりと暮らして居るところに数年後オーナー様が約束を果たしにきてくれるんですよ。ダンデさんは最初からこの子のことを気に入っていて、猛アタックをされる様になってからは絶対自分のものにするって決めてたってやつ。いやあ、ハッピーエンドは美味しいなあモグモグ(^。^))

(途中にホップくんも参加する三角関係があっても美味しいけどホップくんが悲しい結末になってしまうのでダメです。でも友達としては距離が近い二人に(まあ幼馴染やしね…)途中ヤキモキするダンデさんが居るのはアルセウス神も良いよと許可を出してくれたので歴史書に深く刻んでおきますね)




amabile : アマービレ ─ 愛らしく


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