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「……っ、……チャ!」

 うるさい。聞こえてるからそんなに大きな声で呼ばないで。
 文句を言ってやろうと目を開けようとするが中々開ける事が出来ない。ぎゅっぎゅと何度か力を込めて漸く開く。

「っ!ヤバチャ!ヤバチャ!」
「ャ、バ……?」

 ぼんやりとした視界を占めるのは紫と黄色。パチパチと瞬きを繰り返し焦点を合わせる。やっぱりダンデだった。

「ヤバチャ、よかった……!目が覚めて……!」
「ャバ……」

 ダンデが大きな目を揺らめかせながらそっと私に触れてくる。なんだか懐かしく、安心する体温だ。
 まだ形を保つ事ができなくて液体のまま、かと思っていたら案外形を保てている。怠さはあるのに。

「ヤバチャ、オレのせいだ。キミの体調を気遣えないなんてトレーナー失格だ」

 本当にすまなかったと何度も頭を下げられる。そうだ、元を辿れば全部ダンデのせいだ。
 気を失ったのも、元の世界に戻ったのも、こっちの世界に引き戻したのも、全部。

 ダンデが私の側に置かれてあったモンスターボールを手に取る。ボールに戻されるのかと思ったけど違う、これは私を解放しようとしている。

「ヤバチャ……ッ!」
「……止めないでくれ、ヤバチャ」
「ヤバ!ヤバチャ!!」

 身体を伸ばしダンデの腕に絡み付く。嫌だ、私を捨てないで。ダンデの生気を吸っている私はこれ以上離れたら死んでしまう、そんな気がする。
 中々モンスターボールを離そうとしないダンデ。ああもう!こっちは病み上がりなのに!ちょっとは気を遣えこのバカダンデ!

「ダンデさま!?何を……まあ、ヤバチャ!」

 あ、ジョーイさんだ。そうか、ここはポケモンセンターだったのか。
 ジョーイさんの登場により私もダンデも力を緩め、お互い触れてはいるものの一時休戦だ。

「ダンデ様、ヤバチャが目覚めたならコールを押してくださいと言いましたよね」
「……すまない」

 構う事なくダンデを睨み付けるジョーイさん。か、カッコいい。この人懐かしい感じがするからきっと初めて私を診てくれた人だ、間違いない。
 という事はここはアラベスクタウン。態々シュートからここのポケモンセンターまで来たのか。私をルミナスメイズの森に帰すために。
 ジョーイさんに診察されながらダンデをジロリと睨む。今更私を手放そうなんて、そうはいかないんだから。

「……。暫くの間栄養剤を毎食与えてください。一週間ほどで体調は戻るかと。ただ」
「ただ?何かあったのか!?」
「いえ、まだ正確には分からないんですけど……。入院した時よりも格段に能力が上がっているというか」
「……」
「これは回復したという様な上がり方では無いと思うんですよね」
「……」
「ダンデさま?」
「そ、そうか。それくらいならよかったぜ。な、ヤバチャ」
「……」

 焦ったようにダンデが笑いかけてくる。コイツ、絶対また私の事飲んだんだ。身体が怠いのにこうして形を保っていられるのも、私がまたダンデの生気を吸ったせいなんだ。
 よくそんな事しておいて私を逃がそうとしたな。

「おや、騒がしいね」
「あら、ポプラさん」

 入り口から顔を覗かせたのは今日もバッチリメイクが決まっているポプラさんだ。私の様子を見に来てくれたのだろうか。
 ジョーイさんが嬉しそうに私が目を覚ましたのだとポプラさんに伝える。

「そうかい、よかったねダンデ」
「……はい」
「あんまり嬉しそうではないね」
「……。ポプラさん、ヤバチャを引き取って貰えませんか」
「ヤバ!?」

 まだ言うのかコイツは!ポプラさんもジョーイさんも驚いた顔をしている。ダンデはそんなに私のことが嫌いにやったのだろうか。悲しくなってきた。
 ポプラさんが未だにモンスターボールを握っているダンデと私を見比べる。

「ヤバチャは嫌がってるみたいじゃないか」
「……」
「それにもう無理だね。この子はアンタから離れる事は出来ないよ」
「……それは何故か聞いても?」

 ポプラさんがニタッとまるで悪い魔女の様に笑う。

「ヤバチャにはアンタの生気がかなり入り込んでる。……あれからもアンタは懲りずにこの子を口にしたね」
「……」
「この子をアンタから引き離す事はこの子の死を意味するよ。ゴーストタイプだっていつかは命耐える」
「そんな」

 オレのせいだ、とダンデが私を見ながら呆然と呟く。そうだ、だから私を逃がそうなんて二度と思わないことだね。

「ヤバチャがアンタの側に居るのを嫌がっている訳じゃないんだ。ちゃんと責任持って育てなさい」
「……」
「返事」
「……はい」

 静かな部屋にダンデの息を吐く様な小さな声が響く。でももし、ダンデが私のことを嫌になったその時は。ダンデと話せる機会が来たら伝えよう。
 意図せずダンデの生気を吸ったおかげで、人間になれる力も付いた気がするし。

「ヤバチャ」
「ヤバ」
「ダンデを許してやっておくれ。あと、そうだね」

 ポプラさんが私をじっと見つめる。

「アンタが連れてきたその不安も、いつか解決する日が来るさ」
「バチャ……!」

 そうか、いつか。それがいつになるかは分からないけど、両親も子猫も、どうにか良い方向に動いてくれるといいな。ポプラさんが言うならそのいつかを待つしかない。
 ダンデがもぞもぞと何の話か聞いてくるけど関係ないよとそっぽを向く。私は怒っているのだ。

「アハハ!女同士の秘密だよ。じゃあね、ヤバチャ。元気でやるんだよ。ダンデも」
「はい……!」

 良い返事だねと笑いながら部屋を出ていく。流石ポプラさん、ただのババアでは無い。
 静かに見守っていてくれたジョーイさんが手をパンと合わせ、話し出す。

「さて!ダンデさまには色々と言いたい事もありますけど、もう退院して頂いて結構です。ヤバチャちゃんをきちんと連れ帰ってくださいね」
「わ、分かったぜ」

 ではお好きなタイミングでお帰りくださいとジョーイさんも出て行ってしまい、部屋には私とダンデだけ。
 どうするんだろうとダンデを見上げると黄色い瞳とぶつかる。

「ヤバチャ、まだオレの元に居てくれるか?」
「ヤバチャ!」
「ふふ、そうか!よし、帰ろう!」
「ヤバチャ〜!」

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