03
今日は外に出てみようとダンデに提案された。ゲームで走り回っていたあの風景をついにこの目で見れるのか。そうワクワクしながらお気に入りのカップに入り少しおめかしをして、道を歩くダンデの側を漂う。
最近シュートシティに出来た観覧車に乗ろうという事だったのだが。
「おかしいな」
「バチャ……」
そうだった、すっかり忘れていたがダンデは極度の方向音痴だった。この世界に来てすぐの時は近くに控えていたリザードン先輩に乗っての移動ばかりだったし、その後はずっとダンデの家に篭っていた。
正直なところダンデにはリザードン先輩を今すぐボールから出して欲しい。ここは何処なんだ。すっかり辺りは夕暮れだ。
「うーん。あそこにタワーが見えているから……」
「……ヤバ」
一人ブツブツと呟きながら方向を確認しているダンデ。おかしいな、シュートシティに居たはずなのにどうしてタワーがあんなに遠く霞んでいるんだろう。
ゲームをプレイしていた時の記憶を必死に思い出そうとするが、何を隠そう私も地図を覚えるのはあまり得意ではない。それに一人称視点になるとダメだ、点で分からない。
明らかにタワーとは逆方向に進み出そうとするダンデの前に立ちはだかり、リザードン先輩のボールにそっと触れる。お願いだ、リザードン先輩を頼ってくれ。
私の意思が通じたのか、ボールに手をやり少し逡巡した後に漸く先輩を出してくれた。ありがとうダンデ。やっと帰れる。
「……すまない、リザードン」
「ばぎゅ」
ほら、先輩ももっと早く出せって怒ってるよダンデ。それが分かっているのかいないのか、アハハと笑いながら私を腕に抱えてリザードン先輩に乗る。きっといつもの事なのだろう。
頼もしい先輩の背をご苦労様ですと労りの視線で見てしまうのは許して欲しい。先輩の翼がバサっと空気を切り、滑空して行く。さすがに自分の力でここまで高く上がれないので楽しい。アトラクションみたいだ。
「ワイルドエリアに居たみたいだな」
「ヤバ〜……」
まじでヤバいな、ダンデ。いや私も少しは自然多いなとか今は冬なのかなとか不思議に思っては居たんですよ。でも通常の様子が分からなかったのだから致し方ない。ダンデが悪い。
ほら、とダンデが木々が生い茂った暗い森の方向を指差す。
「あそこがキミの居たルミナスメイズの森だぜ」
「バチャ〜!」
あそこがルミナスメイズの森なのか!じゃああの先がアラベスクタウンで、じゃああそこがラテラルタウン。なんとなく分かったぞ。そういえば、今のジムリーダー事情はどうなっているのだろうか。
「随分楽しそうだな」
「チャ?」
「キミは虐められていたんだろ?森に帰りたいのか?」
なんだかいつもよりワントーン低い声で話しかけられる。虐められていた……という記憶は無いのだが、森に帰りたいとは思わない。生きていけないしね。
そんな事ないよ〜、ダンデの家が良いよ〜をアピールする為にカップからにゅっと手を伸ばしダンデの腕に抱きつく。どうか私を見捨てないでくれ。
「ヤバチャ〜」
「……そうか!ならこのままオレがキミの面倒を見てやるぜ!」
今日はもう帰ってゆっくり休む事にしよう、と先輩に指示をするダンデ。段々灯りが増え、大きいマンションが近づいて来た。窓から見える光景で察していたけどデカイし高い。流石はチャンピオン様だ。すごい人に拾われてしまったな。
一度森に帰ってから他の人間にトレーナーになってもらった方が良いだろうか。いやでも、ダンデの元での極上水準の生活を過ごしてからはちょっとな……。
「ヤバチャ」
「バチャ?」
呼ばれたので顔を見上げる。また怖い顔をしている。
「……いや、なんでも無いんだ」
「チャ〜」
いや、絶対何かある顔じゃんとは突っ込まないでおく。地位の高い人間様の考えていることは分からない。
それより早く帰ってきのみ食べたいな。あ、さっき拾ってたソクノのみくれないかな。あれ甘酸っぱくて美味しいんだよなあ。
こうしてきのみについて思いを馳せていた私は、私たちの会話を聞きながら飛行していたリザードン先輩が何を考えていたかなんて知らなかった。