あせあせ

 まだ日が高く、アフタヌーンティーには少しだけ早いかなという時間帯。ソファに座る私の足元で寝そべっていたイーブイが片耳を上げ廊下へ繋がる扉に目をやる。と同時に慌ただしくガチャリ音を立て勢いよく開けられる扉。
 そこにはまだ仕事中のはずのダンデくんが息を荒げながら立っていて。

「?おかえ」
「キミっ、何もないのかっ!?」
「?????」

 ゼーゼーと膝に手を置き大きく呼吸をしている。こんなに慌てているのは初めて見る。一体ダンデくんに何があったのだろうか。
 イーブイがダンデくんに向かって駆けて行き、帰ってきた事が嬉しいと周りをぐるぐるしている。

「ど、どうしたの?」
「……っ、スマホ!」
「スマホ……?」

 ソファの上に置いてある今の今まで触っていたスマホに目をやる。しまった、ゲームの途中だったのに。時間切れでゲームオーバーになっている。

「スマホがどうかしたの?」
「……キミ、まさかずっとスマホを触っていたのか?」
「えっ、そ、そうだけど……」
「ならなんで!」

 ダンデくんが怒った様子でズカズカ音を立て此方に近付いてくる。え、なになに。もしかして今から襲われちゃうの?そんな、心の準備が……。
 勝手に一人でドキドキしていると目の前まで来たダンデくんにガシリと両肩を掴まれる。力強っ。

「……キミは、」
「?」
「キミはオレの事が、嫌いになったのか?」
「????????」

 言われた事が理解出来なくてポカンとダンデくんを見る。ダンデくんの事を嫌いになるなんてそんな事。

「そんなのアルセウスに誓ってあり得ないよ!」
「なら何で返事をくれないんだ」
「返事……?」

 返事って何の返事だ。心当たりが無く聞き返すとダンデくんがグッと顔を歪める。あっそんな顔しないでカッコいい。

「……スマホ」
「スマホ…………アッ」
「………」

 ソファの上で未だにゲームオーバー画面を表示しているスマホを見る。

「あっ、えっと。もしかしなくても連絡を……?」
「……そうだが」
「あ、あ〜〜。えーっと、……えへへ?」
「何笑ってるんだ」
「ぐえっ」

 両頬を片手でムギュッと掴まれる。ダンデ様のお怒りだ〜!やばいやばいと焦りながらスマホを手に取ってダンデくんにも見えるように画面を操作する。

「ふぇ〜〜〜っと」
「……」

 喋りにくいと気遣ってくれたのか、聞き取りづらいと判断したのか。顔から手を離してくれた。

「えっと、ですね。さっきまで私はずっとこのゲームで遊んでたんです」
「ああ」
「このゲーム、プレイ中の広告が多くって」
「ああ」
「それで、あの、実はね。こういうのってネットを切って通信出来なくすれば広告は表示されない、んですよ、ねー……」
「………ああ」
「えーっと、それでまあ、お察しの通りですね。ネット切ってプレイしてたんで、アプリ落としてネットに繋ぎ直せば……」
「………」

ネットワークボタンをオンにした途端、切っていた間に溜まっていたSNSの通知がピロピロと一気に来る。そう、ダンデくんからのメッセージもね。

「え、えへへ。……ご心配おかけしました?」
「………」

 はぁっと大きな溜息をダンデくんが吐く。いつもだったらメッセージが来た瞬間に既読を付け即返事をしていたので随分心配させてしまった様だ。

「……いや、俺の早とちりだった。すまないな」
「ううん!」
「まあ、そうだな……。キミがオレを嫌いになるなんてある筈が無かったな」
「えへへ、よくご存知で……」

 ダンデくんが少し顔を赤くしながら頭をガシガシと掻く。照れちゃって可愛いな、もう!
 そういえばメッセージの内容は、と確認すると。

「ひえ、不在着信六十二件……」
「……」
「もう!ダンデくんったら。私ってば愛されてるなあ……ウフフ」
「じゃあ仕事に戻るぜ」
「あっ」

 バッチリと心配していた証である一分、いや数秒置きの不在着信の履歴が恥ずかしいのか。スッと真顔に戻り部屋を出て行こうとするダンデくんを玄関まで追いかけ声をかける。

「土曜日!楽しみにしてるね!」
「……ああ」

 乱雑に脱がれていた靴を再び履くのを見守る。あ、そうだ。キッチンに目的のものを取りに行き玄関の扉に手を掛けて待っているダンデくんへ渡す。

「ダンデくん!これさっき焼いたクッキー!よかったら食べて」
「……ありがとう」
「ふふ、あと少しお仕事頑張って。いってらっしゃい!」
「ああ、……ふふ。行ってくる」
「!」

 憮然とした表情から耐えきれなかったのか笑みに変わり、頭を撫でられてしまった。う、嬉しい!
 パタンと扉が閉まるまでヘラリと弛みまくった顔で手を振る。いつもお見送りの時は寂しくなってしまうが今は撫でて貰えたので元気だ。
 足元で同じように尻尾を振って見送ったイーブイと共にリビングに戻る。

「ふふ、土曜日のお出かけ楽しみだな。どこに行くんだろう。ね、イーブイ」

 ブーイ!と楽しそうに声をあげ、撫でている私の手を舐め出すイーブイ。

 それにしても。
 急にオフになったからって四日も先の予定を伺うメッセージをすぐに送ってくるなんて。夜帰ってきてからでも良いだろうに。
 しかも返事がたった二十分無いだけで焦ってたくさん電話して、それでも焦れて家まで帰って来ちゃうダンデくん、可愛いなあ。
 私のメッセージには中々返事くれないのに!

 でも、あのゲーム。面白いけど出来なくなっちゃったのは残念だなあ。








 数日後、どうしてもゲームをやりたくなってしまった私は再びネットを切り、連絡が取れなくなった事をしっかりと怒られてしまうのでした。
 さらに、オレの金でいいからと広告表示を無くすための課金をさせられそうになり泣く泣くアプリを削除するハメになるのでした。ちゃんちゃん。

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