ぱちり

 テレビの中の歌って踊っている男性アイドルがこちらに向かってウインクをする。ダンデくん以外を推す事はアルセウスに誓ってあり得ないのだが、少しだけ、ほんの少しだけキュンとしてしまった。
 これは推しに塗り替えて貰わねばならない。

「ねえダンデくん」
「……」

 隣で本を読んでいるダンデくんに呼び掛けるが無視される。まあこれはいつもの事だ、気にすることではない。いやでも今は反応して欲しい。

「ねーってば!ダンデくん!」
「……」
「……。イーブイ」

 カビゴン型のポケモンをダメにするソファでウトウトしていたイーブイを呼ぶ。遊んでくれるのかと目を輝かせて近づいて来たイーブイを抱き上げ、ダンデくんと本の間に乗せる。すると心得たという様にダンデくんの腕を舐め出す。
 そうよ、その調子よイーブイ!

「こら、やめるんだ」
「ぶ〜い!」
「……ふふ」

 目の前で繰り広げられるダンデくんとイーブイの微笑ましい光景に思わずスマホロトムに録画をお願いする。あー、私の恋人と私のポケモンがこんなにも尊い。
 でもこれくらいにして貰わないとね。

「イーブイもういいよ」
「ブイ!」
「ちょっと、」
「ぴちゃぴちゃ」
「ははは!こら、くすぐったいぜ」
「…………」

 イーブイを掴もうとしてもするりとすり抜けられ、ダンデくんの肩に乗ったり降りたり忙しなく動く。その間も勿論舐め続けているし、ダンデくんは拒否もしない。
 ……。さっきまでは微笑ましいと、尊かった光景が一気に面白く無くなる。

「ちょっと!イーブイ!」
「ぶ〜〜い!」
「……」
「おっと」

 パシュンと音を立てイーブイをボールに戻す。と、突然消えた重さに、ダンデくんがこちらに視線を向ける。

「……自分の良い様にイーブイを利用するのはどうかと思うぜ」
「だって、言うこと聞いてくれないから……」
「イーブイが可哀想だ」
「…………ぅ」

 パシュンとボールからイーブイを膝の上に出す。不思議そうにこちらを見上げるイーブイをぎゅうと抱きしめる。

「ごめんね、イーブイ」
「い〜ぶ!」
「わぷ」

 謝る必要は無いと顔を舐められる。ふふ、少しザリとした舌がくすぐったい。でも気持ちいい。
 顎から頬にかけて舐められ唇に触れそう、と言うところで大きい手が間に入ってくる。

「イーブイは怒ってないみたいだな」
「ブイ!」
「うん!でも今後は気をつけます」

 そうだな、と私の膝の上のイーブイと戯れるダンデくん。本当に仲良くなったものだと眺めているとダンデくんがこちらを見てきた。

「何?」
「いや、何か用があったんだろ」
「用?……あっ!」

 テレビに目をやると、音楽番組は終わりニュース番組が流れている。すっかり忘れていた。最後の方に見たいアーティストが居たのに。

「あのね、ウインクしてほしくって!」
「オレにか?嫌だぜ!」
「えー!なんで?」
「嫌なものは嫌だ」

 話は終わったと、栞を挟まず閉じてしまっていた本をパラパラと捲っていくダンデくん。いやいや、終わってませんけど!
 そういえば、ダンデくんとはそれなりの付き合いになるが、ウインクをしている所は見たことがない様な。実生活とメディア出演含めてね。
 これはもしかして、もしかするのか。

「……ウインク、出来ないの?」
「は?」

 少し苛立ったのか、低い声で返される。カッコいい……、じゃなくて。

「出来るが」
「え〜、本当に?怪しいね、イーブイ」
「イブ?」
「ほら!イーブイも怪しいって言ってる!」
「言ってないだろう」

 当のイーブイはどうでもいいとダンデくんの腕を舐めている。私に乗りながらダンデくんの腕を舐めるなんて、贅沢なポケモンだ。イーブイだけ特別なんだから。

「ウインクはね、こうやるんだよ!片目だけに力を入れて、こう!」

 ダンデくんに向かってウインクを飛ばす。は〜、私に悩殺ウインクの力があればダンデくんなんてイチコロなのに。
 私が両方の目を交互にパチパチさせているとダンデくんがギュッと目を閉じる。今のって。

「今もしかしてウインクした!?」
「……してない」
「嘘だ!瞬きにしては違和感あったよ?……ふふ、そっか〜。ダンデくん、ウインク出来ないんだ〜!」
「…………」
「ある意味想像通りというか?ふふ、可愛い〜〜!!」

 ね、イーブイ!と話しかけるとブイ!とよく分からないまま元気よく答えるイーブイ。
 そっか〜。基本何でも出来るダンデくんだけど、ウインクは出来ないのか〜。ふふ。私が唯一ダンデくんに勝てるもの、出来ちゃったかもしれない。

 ニヤニヤが抑えられない顔が気に入らないのかぐっと片手で顔を掴まれる。ふふ、今はオクタンになろうが関係無い。だって、ダンデくんが出来ないウインクを私は出来るんだから!

「なあ」
「ん〜?はに?」

 距離を詰められてカッコいい顔が近付いてくる。まさかキスを!?そう思い目を閉じて受け入れ態勢に入ると、指に力が込められ開ける様に促される。
 えー?目を開けてなの?と目をそろりと開く、と。

──パチリ

「ひぇ」
「ふっ、ウインクくらい出来るって言ってるだろ」
「ひゃ」

 外に行こうとイーブイを抱き上げ、ポケボールを持ちベランダに出て行くダンデくん。
 私はというと。

「ひゃ……?ひょ……?」

 至近距離でダンデくんのアイドルウインクを受けてしまった私は、その衝撃から言語を発せず呆然と天井を見上げる。頭の中では先程の映像のリプレイが止まらない。
 キュンとかそんなんじゃ無い。ギュンと、刺された。鷲掴まれた。効果抜群四倍の大ダメージだ。ダンデくんのウインクは私にとって凶器なのかもしれない。

 ただ、あまりにも。あまりにも……。

「かっっっっっ、………こよすぎる…………」

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