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一二三side


「んー…」

6時00分。アラームの音で目が覚めて起き上がった。

今日はオフだし、独歩に朝ご飯を用意してやろう。

顔を洗ったあとスウェットのままキッチンに立つ。
冷蔵庫の中から卵や鮭の切り身を取り出してコンロの火をつけた。


簡単な料理だけどカロリーメ○トとかソ○ジョイとかそんなところで朝ご飯を済ますことも多い独歩にはちゃんと食べてもらいたい。

味噌汁や焼き鮭、ご飯をお椀に入れ最後に目玉焼きを皿に乗せる。

「よっし、できた〜」

独歩の部屋の前にいってノックした。

「独歩ぉ〜〜朝ごはんできたぞー」

…返事がない。どうせ寝てるんだろう。

「はぁ…ほんと独歩ちんはしょうがねえな〜」

起こしてやるか。いつもみたいにあと5分とかむにゃむにゃ言う独歩が簡単に想像出来る。

ドアノブに手をかけ独歩の部屋を開ける。中を見ると独歩はドアに背を向けてベッドの上で膝を抱え込んで座っていた。いつものように寝ていると思ったからびっくりした。

部屋から小さな音が耳に入ってくる。

『観音坂さん、こんばんは。』
『えっ、そうですか?僕はあのイタリアンとか美味しそうだなって気になってますね』
『観音坂さん、ご相談は…、えっ、あ、はい。え、僕のことですか?それは…ちょっと…』
『あはは、面白いですね。はい、ええ、へぇ〜観音坂さんのお話面白いですよ』
『え…?おはようって言ってほしい…?今は夜ですけど……、は、はい…ど、独歩さんおはようございます……。これで良いでしょうか…?』
『毎日頑張る観音坂さんはすごいです』


人が話してるような声。電話でもしてるのかと思ったけど独歩は何も話していない。

何か動画でも見てるのか?

「…独歩?」

少し大きな声を出すと独歩の肩がぴくりと揺れる。パッと俺を見てきて目を開いていた。

「なにしてんの?」

「な、なんでもない…」

独歩が手にしていたスマホを操作するとさっきまで部屋の中に流れていた人の声は消えた。


「朝ごはん出来てるぞー?」

「あ、ああ…ありがとう…」

「んー」

深くは聞かず、そのまま流すと独歩は大事そうにスマホをカバンの中に入れて部屋を出てきた。

テーブルについて向かい合う俺と独歩。

「最近起きれてんね、朝。」

「ああ…まあ…よく眠れるんだよ」

「めっちゃいいじゃん!ストレス減ったとか?!」

「…ていうよりは癒し…かも…」

「へぇ〜」

「……恋人が…できたんだ…」

「……え、まじ?」

あの独歩が?コミュ障の独歩ちんに恋人が…?素直にすごいと思った俺はへぇ…と朝ごはんを咀嚼した。

「…今度紹介するために家に連れてきていいか…?」

「えっ…女の人ここに上げんの…?」

まさか俺の女性恐怖症は知っているはずの独歩がそんなこと言うなんて少し裏切られた気分で箸を落としそうになる。

「……男なんだ」

「…え?」

「…相手は…男性なんだ…」

「な、なんだぁ〜…。ビビらせる〜!それなら俺っちも問題なし!いいよ!連れてきて!」

「ありがとう」

少しだけ笑って独歩は食べ終わった後、ご馳走様でした、と皿を持ってキッチンに行った。その後ろ姿を見ながら、恋人かぁ…と1人考える。まぁ癒しと言うくらいだし関係は順調なんだろう。独歩が良ければそれでいい。親友の恋路に水を差す必要もなく、独歩が連れてきた人が良い人なら俺は何も言うことは無い。

楽しみにしてようかな、と思ったその数日後。

独歩の様子が変だった。
俺がホストの仕事から帰ってきても起きていた。

「独歩ぉ〜、眠れないのか?」

暗い部屋、ベッドの上でブツブツ言っている独歩に近づく。

「独歩?」

独歩の顔をのぞき込むと沈んだ表情で俺をちらりと見上げてきた。

「…さっき…」

「うん」

「…なまえくんに電話して…」

「うん」

「…家に誘ったら断られた……」

あちゃー…それでこんな沈んでんのか。
ていうか、なまえくんって独歩の恋人の、ってことだよな。紹介したいって言ってた。
でもそのなまえくんの視点から考えると独歩は男と二人暮ししてるわけで、同性がいけるなまえくんからしてみれば、そんな他の男がいる家に上がりたくないっていうのはあるのかもしれない。

「…独歩ぉ、別に俺っちは家じゃなくても外で会うだけでもいいかんな?」

「……何で…何でだめなんだ…この間は来てくれたのに…なんで…」

ぶつぶつ言い始めた独歩の肩を叩いた。

「どーどー。落ち着け独歩。そのなまえくんにも予定があったんじゃね?」

「………そうか…」

「きっとそうだって。ほら、もう寝よっ!明日も早いんだろ〜」

独歩をベッドに寝かしつけるとスマホを離さない手に不思議に思った。スマホでもアラームかけてんのかな〜と深く気にせず、近くのサイドテーブルに目をやった時、小さな紙が置かれているのが見えた。

「お悩み電話相談センター」と書かれている。フリーダイヤルも。

ど、独歩ぉ…!悩みがあるなら俺っちに話してくれよ!電話してるのかは知らないけど部屋にそんなものが置かれていると同居人としては心配だ。

「…独歩ぉ、何か悩んでることとかあったら言えよ〜?俺っちが聞くからさぁ」

「…ありがとう一二三。」

「ん。」

部屋の電気を消して、おやすみと部屋を出た。閉めたドアの前で考え込んだ。人に言えない悩みも一つや二つあったりするよな…。独歩にもそんな悩みが…。ん?何か独歩の部屋から音が漏れている。

そっと耳をすませてドアに近づいた。

『観音坂さん、こんばんは、今日は遅いですね』
『観音坂さん、いつもお疲れ様です。』
『今日のご飯ですか…?ええと…おにぎりと…コンビニのサラダと…』

朝と同じだ。人の話し声が聞こえる。それも一方的に話しているような。

『お電話ありがとうございます。お悩み電話相談センターのみょうじです。』
『えっ、名前ですか…?みょうじ…なまえ…と申します…』

え…。えっ…?
ちょっと待って、なまえって…。え、お悩み電話相談センター…って…。
独歩が言ってたなまえくん……?

え、待てよ、もしかして独歩はお悩み電話相談センターのなまえくんと付き合ってるってこと…?

気になってさらにドアに耳を近づけた。

『そうなんですか、ええ、はい、観音坂さんはすごいですよ!』
『あ、もう遅い時間なので…』
『観音坂さん、今日もお疲れ様でした、頑張る観音坂さんはすごいです』
『頑張る観音坂さんはすごいです』
『頑張る観音坂さんはすごいです』
『頑張る観音坂さんはすごいです』
『頑張る観音坂さんはすごいです』
『頑張る観音坂さんはすごいです』…

ちょ、ちょ、ちょ…っと…。何回も流れるその音声に俺は想像がついた。もしかして…もしかして…独歩、電話の内容を聞いてるのか…?

しかも繰り返し…。だから独歩の声は聞こえないわけだ…。

もしかして朝も夜もこうやってあのなまえくんの音声を聞いてた…?

ど、独歩……。

俺は独歩の見てはいけない何かを見てしまった気がしてそっとドアを離れた。

……独歩の恋に幸あれ…。

俺は気になった。こんな独歩を恋人にするみょうじなまえくんとやらはどんな人間なんだろう、と。

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