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(クリスマスのお話)
世の中はクリスマス一色で、どこへ行ってもジングルベルの音が鳴っている。
クリスマス?そんなもの俺には関係ない。
一人暮らしだし、彼女なんて長年いないからどこへ行く予定もないし、何もする予定もない。
そんな俺は365日24時間受付の相談センターに向いているわけだ。クリスマスイブも余すことなくばっちり出勤日の俺は普段通り仕事をこなし、帰宅している今に至る。
クリスマスイブだから早く帰っていいよ、と言われセンターを出たのは深夜2時を回った頃だった。
今頃、サンタクロース(親)が子供たちにプレゼントを運んでるのかな。
昔はクリスマスの朝枕元にプレゼントの箱とかあったなぁ。思い出してはるか昔の記憶に笑いがこぼれそうになる。
帰る途中、コンビニに寄っておでんを買った。
クリスマスだけど俺はおでんを食べるぞ。日本人だからな。
暖かい容器を手にしてコンビニを出る。家についたら即行でおでんの蓋を開いて程よく熱さが抜けたおでんを頬張った。
「やっぱ冬はおでんだろ〜」
独り言を呟いても静かな部屋には返してくれる人もいない。
食い終わった俺はおでんの容器を水で流して乾かした。
シャワーも浴びてベッドに入ったのは5時過ぎ。
まだまだ外は暗い。カーテンをしっかりしめて俺は目を閉じた。
いつもと変わらないごく普通の1日。
今日もお疲れ様、俺。明日も仕事だぞ、頑張れ俺。
クリスマスなんて関係ない自分に言い聞かせて夢の世界に落ちていった。
***
チュンチュンと鳥の鳴く音が聞こえてきて自然と目が開いた。カーテンから零れる日差しに何時だ、と時計を見ると昼前だった。
あくびをして、起き上がる。
その時、手に何か当たって枕元を見た。
「…なんだこれ」
赤色のリボンでラッピングされた緑色の箱。プレゼントらしきその箱の大きさは携帯電話のサイズと変わらない。
寝起きの回転が遅い頭で必死になって考えた。昨日こんなものはここになかったはず…。何でこんなものがここに……?
「………戸締りしたよな…?」
急いでベッドから降りて窓の鍵を確かめる。玄関にも行って鍵がかかっているのを確かめた。
「…え、なに。こわ。」
鍵ちゃんと閉めてるってことは俺以外誰も入れないはずだ…。なのに、なぜかこのプレゼントの箱は俺の枕元にある。
これが漫画の世界だったら、今日はクリスマス!サンタさんからの贈り物かも!とか良い展開になるんだろうけど、現実は不法侵入されていないかという不安しかない。
「…待て待て…。本当怖いぞ…」
もしかして箱の中身が爆弾だったら?恐ろしくなって俺はすぐさま箱をそっと持ってベランダに置いたあと窓を閉めた。箱は軽かった。
冷たい窓を通して中から箱を眺める。
「ええ…。謎すぎる…」
開けるか…?開けた途端、爆破とかしないよな…?
映画の見すぎかもしれないけど本当怖いものは怖い。だって、昨日の夜なかったものがいきなり枕元にあるんだ。怖いだろう?
そっと腕が出せる隙間分だけ窓をカラカラと開けて箱に手を伸ばした。
片手で赤色のリボンの端を引っ張るとするりとリボンが取れた。今度はラッピング用紙を外すために両手で箱の下からラッピング用紙をビリッと破いた。
出てきたのは青い箱。高級そうなシックな作りで銀色の何かのロゴが書かれている。
「…なんだ?」
そっと、箱の蓋を開けてみた。
太陽の光を反射して煌めくそれは指輪だった。
「…指輪ぁ…?」
手に取ってまじまじと見てみる。
細身のシルバーリングは男物にしては少し細い。
誰なんだ…?誰が何のために俺の枕元に…?
指輪が出てきてますます訳の分からなくなった俺は途方にくれた。
窓際でしゃがみこんで頭をはてなでいっぱいにしていると部屋の中の携帯がチロリンとなった。
その音に反応して携帯を取りに行くとメールが1件来ている。観音坂さんからだった。メールを開いて中身を見る。
【なまえくん、おはよう。
指輪、気に入ってくれると嬉しいです。
俺は今日も社畜だけど、なまえくんにこうやって指輪を渡すために働いているんだと思うと頑張れます。
いつもいつもなまえくんの声に癒されています。昨日も癒されました。なまえくんに会えたことが幸せです。
また夜に。】
…………。携帯を手にしたまま全身がぴしりと固まった。
ああああああ………。
あー…。あー…。
声にならない俺の心の声が止まらない。
嘘でしょー…。嘘だよなー…。えー…えー…ちょ、ちょっと…。
いやいや…。えー…。
待ってほんと、まずどうやって俺の部屋に入ったわけ…?!
うーん、いや、うーん…不法侵入…だよな。
いや、だって…寝てる時に観音坂さんが俺の部屋の中に入ってきてたってことでしょ……。鳥肌立ってきた…っ!
信じられない驚愕の事実に俺は指輪をとりあえず机の上に置いてメール返信の画面を開いた。
【観音坂さん…どうやって家に入ったんですか?】
聞きたいのはまずこれだ。送ってみるとすぐに返事が返ってきた。
【なまえくんがこの間くれた合鍵で…。】
いやいやいやいや、渡してないですけど?!俺、自分以外に合鍵とか渡してないですよ…っ?!
か、観音坂さん…っ?!この間って、その記憶、俺と違いますけど…?!
【あの…合鍵とか渡してないですよね…?】
【なまえくん、好きです。】
話が通じない…っ!だめだ!
【…あの、指輪お返しします…】
朝からどっと疲れた気分になる。どちらにしろ、この指輪を受け取ることはできない。高そうだし…。
【気に入ってもらえなかった…?ごめんなさい、俺が悪かった。ごめんなさい、ごめんなさい。なまえくんに似合うと思って買ったけど、なまえくんが気に入らなかったら意味がないよね…ごめんなさい。俺のせいです。俺が全部悪いです。なまえくんがつけてるところ想像して嬉しくなって…勝手に浮かれてました…ごめんなさい。なまえくんはもっと高級な指輪の方が似合うと思う、だからもっともっと頑張ります。なまえくんのために頑張ります。だから許してください。ごめんなさい。なまえくんに嫌われたくないです。ごめんなさい。なまえくんが欲しいもの全部買います。だから俺はなまえくんが欲しいです。ごめんなさい。】
……。
最後の文章を見て俺はベッドにダイブした。
「うーん…」
これは何と答えるのが正解なんだ…?
ありがとうございますって言ったら今後俺が渡した合鍵?(渡してないぞ)を使ってどんどん入ってきそうだし、無理ですって言ったら観音坂さんのことだから何するか分からない…。
観音坂さんは本当、何をするか分からない怖さがあるから下手に拒絶出来ないんだよな…。
ていうか俺の鍵、持たれてるし…。俺の立場、今とても弱い位置にいるんだけど…。
ここは素直に観音坂さんからのクリスマスプレゼントだと思って受け取っておくのがいいのか?
いや、でも、うーん…。
俺は半日悩んだ。
悩みに悩んだ結果…
【観音坂さん、あの、ありがとうございました…。今度から直接手で下さると嬉しいです…。玄関のチャイム鳴らしてくれれば出ますので…。それと指輪はありがたいんですけど高価なものなのでお返しさせてください。嬉しいんですが俺には勿体ないので!】
【なまえくん、ありがとう。これからずっと肌身離さず付けてくれるって言ってくれて嬉しいです。嬉しくて嬉しくてどうしたらいいか分からないくらいです。お返しなんて気にしないでください。俺はなまえくんがいるだけで幸せです。】
え……?待って…俺のメール通じてる?
俺はもう諦めてそっと携帯の画面を閉じた。
そんなこんなで今年のクリスマスはストーカーサンタが俺の家にやって来ました。
本物のサンタさん、お願いがあります。観音坂さん専用の翻訳機を俺にください。
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