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「お邪魔しまーす…」
「どーぞどーぞ!!あっ、今独歩寝ちってるから、しーーっね!」
「あ、はい…」
しーー、と人差し指を立てて笑った一二三さんに俺は声のトーンを落とした。
だけど、一二三さんはいつもの声の大きさだから多分意味ないんじゃ…と思ってるとやっぱり独歩さんの部屋の扉が開いた。
「んん…一二三…お前うるさいぞ…休みの日くらい寝かせてくれよ…」
寝癖のついた独歩さんは相変わらず目の下のクマがひどい。
「あ…お邪魔してます」
眠そうな独歩さんに気を使ってこそこそと囁くように小さな声で挨拶をすると、初めて独歩さんは俺を見た。
「………ぇ…えっ、なまえく、ん?!えっ、」
「あーー!独歩起きた?!てか、驚きすぎ!まじウケっし!」
「おまっ、えっ、なまえくんなんで、ここに?!」
「えっ…あ、すみません…」
「いやいや、ちがっ、違う…そういう意味じゃなくて…あぁ…俺ってすぐに勘違いされて…」
寝起き早々に暗くなっている独歩さんに俺は為す術もなく、少し申し訳なく思った。
「あ、あの…独歩さん…?」
「おいおい独歩〜〜!朝からネガッてんのかよ!」
「うるさい…お前のせいで…なまえくんに……こんな姿…いや…前から俺はこんな情けない姿なんだ…なまえくんに見られる前からどうせ俺なんて…」
「あの…独歩さん…お邪魔します」
とりあえず独歩さんの独り言をぶった斬るように声をかけたら独歩さんはその淀んだ目で俺を見た。
「あ…うん…汚いけど…」
「はは、大丈夫ですよ。俺の部屋の方が汚いっす。」
「おーし!なまえ!俺っちの部屋でやるぞ!」
「はーい」
俺が一二三さんの部屋に来るのはこれで何回目だろう。知り合いを通して仲良くなった一二三さんに色々世話をやいてもらってたまにこうして一二三さんちに来ることがある。
そこで出会ったのが一緒に住んでいるという独歩さん。
最初は俺も独歩さんもあまり話さなかったけど、何回かお邪魔するにつれて少しずつ話すようになった。
今では街中で見かけても声かけてくれるほどだ。
一二三さん曰く、独歩さんは一二三さん以外友達がいないらしい。
だから俺は他愛もないことを話せるやつって思われてればいいな、と思った。
「俺今日新しいゲーム持ってきたんですよねー。これやります?」
「ナイスチョイス!やろうぜやろうぜっ!」
一二三さんの部屋は綺麗にまとまってて、過ごしやすい。1度だけ独歩さんの部屋をチラ見したことあるけど結構悲惨だった。まあ俺も人のこと言えないけど。
多趣味な一二三さんはゲームでも強いし、実はなんでもできるんじゃないかと密かに思ったりしている。たまにはインドアでゲームしまくるのもいんじゃね?って話になったからこうして遊んでるわけだけど、俺の持ってきたゲームを起動していると一二三さんの部屋のドアを小さく開く音がした。
「……?」
不思議に思って振り返るとドアの隙間から独歩さんが見えていた。
ぺこり、と頭を下げてまた画面に視線を移す。
それでも何だか背中や後頭部にくる視線が拭えなくてまた振り向いた。
まだ独歩さんはそこにいた。
「独歩さんも…ゲームやります?」
声をかけると独歩さんはびくりとした。
俺変なこと言ったかなと不安になった。
「あ…いや…俺は別に…」
「独歩〜〜、なんだよお前やりたいんだろーー?てゆーかー、こっちに来たいんだろーー?」
「はぁっ?!違う!ただ…なまえくんに…何か飲み物いるかな、とか…お客さまだし…」
「え、いや、そんなお気遣いなく。全然大丈夫です。」
「えっ…。そ、そうだよね…ひ、必要なかった…よね…」
「え…?」
あれ、また独歩さんのネガスイッチ押してしまったのか?どうしようと一二三さんを見るとケラケラ笑っていた。
「気にすんなよなまえー!あいつ、なまえが構ってくんないから遠くで見てるだけだからな!やーい、独歩の意気地無し〜!」
「っ!!ひ、ふみっ…!」
え、え…何か2人の言い合いが始まってしまうのかと危惧したけど独歩さんが離れていってしまったからそれは杞憂に終わった。
「…仲いいですね、お二人共。」
「まー、ちーっちゃい頃からの付き合いだからなっ!」
「すごいですね〜俺も独歩さんと友達になってみたいなぁ」
「…んー、無理かな!」
「え……。」
一二三さんが少し黙ったあと無理と言ったことに驚いた。まあ、でも独歩さんみたいに個性的な人は一二三さんじゃないと無理、なのかもしれない。軽はずみなこと言ったなと思ってすみませんと謝る。
「すみません。軽いこと言っちゃって。」
「あははっ!ちーがーうっつの!べっつにー、そういう意味で無理ってわけじゃないんだよなぁー!」
「…?どういう意味で?」
「んーそれは内緒!」
「はあ…」
そこでその話題は途切れてゲームに夢中になった。遅い昼ごはんを食べようということでリビングで一二三さんと独歩さんと一緒にご飯を食べた。
独歩さんとも普通に話せたし、一二三さんが独歩さんと友達になるのは無理と言ったのが少し理解出来なかった。確かにネガティブな時はあるけど基本礼儀正しい方だしなぁ、と。
「独歩さんっていつも何時間寝てるんですか?」
「俺…?あんまり…寝てないかも。」
「だからそんなにクマがひどいんですねー…。睡眠大事ですよほんと。」
「そう、だね…。できることなら一日中寝ていたいな」
「あー、それわかります。俺も。ずっとベッドでごろごろしたいですよね。」
だらける幸せを想像して笑いながら言うと独歩さんは俯いた。
「…独歩さん?」
「あ、いや、なんでもない…っ」
あまり血の気がない頬は少し赤みを帯びていてやっぱり休みの日だから少しは回復できたのかなと思った。
「そういえば一二三さん、さっき出ていってから遅いですね」
「ああ…。」
「何しに行ったんだろ。ちょっとメッセージ送ってみます。」
「あっ!いや…あいついつもあんなだし…別にいいんじゃないかな…っ、それよりあいつ帰るの待ちながら適当に過ごせば…」
「それもそうかあ…でもすみません。一二三さんいないのに俺が寛いじゃって…」
「えっ。そんな全然…むしろずっといてくれていいっていうか…」
ボソリと呟いた声を聞き取れず俺はえっ?と聞き返した。
「…なんでもない、よ」
ふわりと笑った独歩さんに俺はびっくりした。独歩さん笑うところ初めてみたかもー、と何かレアものゲットした感じでちょっと嬉しかった。
「あ…なまえくん…コーヒー入れようか?」
「え、いいんですか?じゃあ、いただきます。」
「うん…。」
相変わらず一二三さんは帰ってこないけどお茶しながら独歩さんと色々話した。
ネガティブになることもなく独歩さんの話や俺の話をしているとだんだん眠くなってきてやばいなぁと頭を振りながら耐えていたのに、どうしたことか目の前の独歩さんが歪むくらい強い眠気に襲われた。
「ど、っぽさ…お、れ」
ごめんなさい、少し寝かせてくださいと言う前に座っているソファに体を預けた。
眠気に抵抗せず目を閉じればすごく気持ちよく意識が落ちていく。
「なまえくん…、なまえくん…」
独歩さんの声も遠くなっていく。
「…一二三、ありがとう…」
「いーって!マブダチの頼みだろー!」
あれ、一二三さん帰ってきたのかな…それとも俺の夢なのか。どんどん遠くなる意識に俺は完全に落ちた。
目を覚ましたら、薄暗い部屋で独歩さんがベッドに横たわる俺を見下ろしていた。
壁には押しピンで貼られた数枚の写真。
そこにある写真が全て自分だと気づくにはそう時間はかからなかった。
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