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「あ、一二三さんそこBボタンで開きますよ。」
「んあっ?あー、これなー!」
「あ、しくった。」
一二三さんとテレビゲームをしながら迎える朝8時。独歩さんはもう出勤している。
テレビ画面を見ながらコントローラを連打していると隣から一二三さんの落ち着いた声が聞こえてきた。
「…なー、なまえはさ、何で独歩のこと〜ふっつーに許したわけ?」
「許したって…もとは一二三さんのせいじゃないですか…」
「あははっ!俺っちってば!忘れてた!」
「はぁ…まあもういいんですけど…。」
「えー?だってさぁ、昔からの親友を隣でずっと見てきて、眠れない独歩がなまえがいたら眠れるからって言うから俺っちとしては協力するしかないじゃん?てか、するじゃん?」
「だからって…俺が拉致られるの分かってて普通家に連れてきますか?」
「連れてくる!もちろんな!」
ちらりと一二三さんを見ると目が笑ってなくてマジだった。
本当に独歩さんもだけど一二三さんも大概怖い…。どっかネジ外れてるんじゃ…。
「…ってことは全部一二三さんのせいですね。」
「えー?俺っちが原因?ノンノン。それはちがーう。別になまえと知り合ったのはほんと偶然だからなー?んで、なまえが何回か遊びに来た時に、あれだ!お前が泊まってった時!ソファで寝てただろー?それがきっかけらしいぜ!独歩が眠れるようになったの!」
「…聞きましたよ。俺は睡眠薬でも何でもないんですけどね。何か寝てる俺見てたら独歩さんも眠くなってソファの横でぐっすり眠れてたって。」
「すっげーよな!」
「すごくないですよ…独歩さん疲れてただけなんじゃ…」
「でもあれから独歩、なまえが来る度によく眠れるって言ってたぜ〜〜」
「…俺なんかに何で…」
「なまえだとよく眠れる、気になる、調べる、話す、好きになる、欲しくなる、手元に置いときたくなる…。ぐふふっ!あいつ単純でちょーウケっし!」
「ペットじゃないんですから…」
「じゃーここから逃げればいーじゃん?簡単じゃん?」
「…それが出来ないからここにいるんじゃないですか。」
分かってて言ってくるような一二三さんは意地悪だ。
「そうかぁ〜?」
「逃げたら駅のホームから身を投げる、なんて言われたら…」
「あははっ!!独歩まじウケんな!それでなまえは逃げずにお利口でいるってわけか!」
「独歩さんに死んでもらいたくないし…自分が原因で、って一生引きずりそうだし…」
「はぁ〜〜さすがなまえ!」
「…ていうか、俺はこうやって一二三さんとリビングに出てゲームしてるのバレたらどうなるかわかんないんですけど…。」
最初、俺は薄暗い部屋の中で目を覚ましたあと独歩さんにもうここから出られないよ、と言われた。それからはずっと洗脳されるようにひたすらここから出られないことと、独歩さんに俺は必要不可欠でずっと、これからずっと一緒にいないといけないということ、何回も何百回も何千回も隣でボソボソと言われたわけだ。執念を感じるその繰り返される言葉は俺の脳みそに焼き付いた。
独歩さんの部屋から出ないこと。それも言われたけど、こうして一二三さんは俺を部屋から呼び出しては一緒にゲームしたり、だべったり。
「んー、多分バレてんじゃね?」
「…え?」
「そこらへん隠しカメラあるだろうし。」
「…は?」
「まー、俺っち信頼されてっし?独歩も何も言わねーだろ!」
「いや…それ俺の身にもなってくださいよ…」
「よーし!夜のために俺っち寝ます!おやすみ!」
「無視かよ…!」
自分の部屋に戻っていった一二三さんの背中を見送って俺はため息を吐いた。
ソファの上にごろんと寝転んで天井を見上げた。
俺だって仕事あるのにな…。独歩さんは俺に任せてと言っていた。多分辞職手続でもしたんだろう。
…俺の人生めちゃくちゃじゃねえか。
やばいなぁと思うけど独歩さんの方が生きづらそうでそっちの方がやばそうだから俺は自分の身を犠牲にすることにした。
不思議と独歩さんを拒絶して批判する気は起きなかった。だからもういいか、と俺は手をあげたんだ。
リビングでグダグダして、適当に飯食って寛いだあと昼寝と言わんばかりに爆睡していたら夕方だった。
もう1回二度寝を…と目を閉じたところで何かあたたかいものが瞼の上に触れてきた。
なんだなんだ、と目を開けると真っ暗な視界と隙間から入る光。
手だ。
自分の手でその手に触れた。
「独歩さん…おかえりなさい。」
「………。」
独歩さんの疲れきった目が黙って俺を見下ろしていた。
一二三さん曰く独歩が定時で帰れるのは奇跡と言っていた。独歩さんは俺を閉じ込めてから早く帰ってくるようになったらしい。
なまえ効果だな、なんて言ってた。
死にものぐるいでお仕事して帰ってくる独歩さんはすごいけど疲れは大丈夫なんだろうかといつも疑問に思う。
「…お疲れ様です。」
ソファに寝っ転がったまま、見上げて言うと独歩さんが小さく口を開いた。
「部屋からいなくなったから…外に出ていったのかと思った…。」
弱々しく言った独歩さんに俺は隠しカメラの話は本当だったのかよ!と一二三さんの話を思い出した。
「…出たら独歩さん怒るでしょう?」
「…ホームから飛び降りる。」
「やめてくださいよ。悲しいですよ一二三さんも。……俺も。」
そう言うと独歩さんはスーツ姿のまま屈んで俺を見た。
「………何ですか?何かついてます?」
「………」
独歩さん、かなりお疲れの様子だ。
頑張ったんだろうなあと思って独歩さんの目の下のクマをそっと撫でてみた。
すると独歩さんは俺の手を引いてソファから立ち上がらせた。
ああ、勝手に部屋から出たから部屋の中に連れ戻されるのかもしれない。
独歩さんの陰気臭い部屋にぶち込まれて俺は何をされるんだろうかと少し不安になりながらも引かれるままについて行った。
部屋に入ってすぐにベッドに座らされた。
「…独歩さん?」
「今日、一二三と何した…」
「…ゲームとか…」
「…外出たくなったの?出ようとしてるの?」
「いや…それは思ってないですよ」
「本当?嘘ついてない?」
「ついてないです。ほんとのこと。」
「…………。」
ホッとした顔をして俺をぎゅっと抱きしめた。
このやり取り、毎日してる気がする。
昨日も、そのまた前の日とその前の前の日もこんな話したぞ。
俺を抱きしめたままベッドに倒れこんだ。
「独歩さん…スーツしわになりますよ。」
「………。」
俺を抱きしめたまま独歩さんは目を瞑っている。
それから聞こえ始めた規則正しい寝息。
「…きょうも、おつかれ様でした…」
独歩さんの手を握って俺も目を閉じた。
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