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「うん…だいぶ綺麗になったな。」
独歩さんの部屋で俺はいつも寝ている。と言っても強制的に、だけど…。
独歩さんに囲まれて早数ヶ月。俺が独歩さんに反抗したり、外に出たりしないのを知って独歩さんは割と色々とさせてくれるようになった。
だからまずは独歩さんの部屋の掃除をさせてほしいとお願いした。
毎日寝るのに、物が散乱している部屋じゃ息苦しいと思ったから綺麗にしていいかと聞くと、いいよと返事が帰ってきたのだった。
独歩さんが出勤したあと、腕まくりをして開始すること半日でだいぶ片付いた。見えなかった床も見えたし、綺麗だーと干したてのシートに埋もれた。
「……うん。いい匂い。」
洗濯して太陽の下で乾かしたシーツはふかふかで気持ちよかった。これなら独歩さんもよく眠れるだろう、と。
それから一二三さんの分も干したからそれも畳んで置いておいた。
いつも家にいる俺にできることはこれくらいだ。掃除と料理、何だか時間がもったいないなあと思い始めていた。
独歩さんの気持ちはとても重くて俺一人で持ちきれるのか、と思うほどずっしりしている。その質量に見て見ぬふりはできなくて、俺は結局その重たいものを受け取る、というか強制的に持たされようとしたから抵抗せずに受け取った…というところだ。
正直、戸惑いはあったけどこれだけの重さは戸惑いを通り越して嬉しいという気持ちも若干ある。こうやって一緒に生活していけばいくほど、ああ、こんな平凡などこにでもいるような俺を好いてくれてるんだなと思うとありがたい気もする。
だから、俺は独歩さんとちゃんとしたお付き合いをしようと思っている。
今日の夜、独歩さんが帰ってきたら提案するつもりだ。
「ふぁ〜〜〜なまえ〜はよーっす。」
「あ、一二三さんおはようございます。」
おはようございますと言ってももう午後だけど。一二三さんの生活は夜が活動時間だから昼夜逆のスタイルだ。
「ご飯とパンどっちがいいですか?」
「んーパン!なまえあんがとー!」
「あ、一二三さん、シーツ洗って干したのあるんですよ。これ…」
畳んで置いていたシーツを一二三さんに見せたら一二三さんは目を輝かせてくれた。
「おおぉ!まじか!ちょ〜やるじゃん!まじありがてぇー!」
喜んでもらえてよかった、と俺も嬉しくなった。
「…一二三さん、ちょっと相談なんですけど…」
「ん〜〜?」
「あの、俺、独歩さんにここから出て働きたいって言おうと思ってて…」
さっきまでいつもの調子だった一二三さんが無言になった。
「………。」
「あっ、別に逃げるとかじゃなくて、ですね…。あの、独歩さんと普通に接したいなって思ってて…、今こうやって独歩さんと一二三さんの家にいるけど、俺何もしてないし、それなら…そう、近くとかに住むならいつでも会えるしっ、1日何もしてないし働いて収入得ようと…」
一二三さんは真面目な顔をしていた。
「…それ言わない方がいい。」
一二三さんの声は明るい声じゃなかった。いつもより数段低い声は俺の想像していた返事とは違った。
「え…?」
「これは独歩のためじゃなくてなまえのためだ。あいつは俺よりネジ外れてるからな…。」
「一二三さん…?」
「それ言ったらどうなるか分かんないから。やめとけ。」
俺の目を見た一二三さんの目はマジだった。
ごくりと唾を飲み込んだところで一二三さんはまたコロッと変わった。
「んじゃっ、俺っち準備しまーす!シーツほんとありがとなー!まじ感激!感謝!」
「あ、は、はい…」
気圧された俺はそのまま部屋に戻っていく一二三さんの背中を見ることしか出来なかった。
それから夕方、仕事に出る一二三さんを見送って夕飯の準備をする間、就職サイトで色々探した。
そろそろ夕食の準備しないとなあ、とサイトを開いたままスマホを放って台所に立った。
ご飯ができる頃には独歩さんが帰ってきた。
「独歩さん、おかえりなさい。」
ちょうど火を使っていたから振り向いて独歩さんの顔を見ておかえりと声をかけた。
「ただいま…。」
今日も疲れてる感じだなぁ。
「今日はバンバーグですよ。食べれますか?」
俺の作ったやつだから味大丈夫かな、と心配になって見上げると独歩さんは柔らかく笑った。
あ…笑った。
「食べる。」
「あ、はい。」
何だか機嫌良さそうだし…朝一二三さんがああ言っていたけど提案しても良い答えが返ってくるかもしれない。
希望が見えて俺はちょっと歪な形をしたハンバーグを皿に盛った。
2人でご飯を食べて、独歩さんの後にお風呂に入る。
独歩さんが出た後、俺も浴槽に浸かって程よく体を解した。
一二三さんは独歩さんが自分よりぶっ飛んでると言ってたけど、二人とも個性的だと思うけどなあ…と考えながら体を洗ってお風呂から出た。
わしゃわしゃとタオルで髪を吹きながら廊下に出ようと洗面所の扉を開けた。
「……わっ!!!」
何気なく開けたドアの真ん前に独歩さんが立っていた。こちらを向いて。ホラー動画のフラッシュと同じくらいの驚きで心臓がバクバクした。
「び、びっくりした…。」
何を考えてるかわからない表情で俺を見ている。もしかして、洗面所を使いたかったとか…?
「す、すみません洗面所、待ってました…?」
「………。」
微動だにしない独歩さんが心配になって手を伸ばした。独歩さんの腕に触れた瞬間、動かなかった目がパチリと瞬きした。
「独歩さん…?…使います?」
タオルを首にかけながら洗面所を指さしたけど独歩さんはふるふると首を降った。いったいいつからここに立ってたんだろう…一二三さんの朝の言葉が脳裏をよぎったけど気にせずリビングに向かった。独歩さんも後から来た。
お風呂で温まった体の体温を下げる為にお茶をコップに注いだ。独歩さんの分も用意して椅子に座った。
今があの話をするいいタイミングかもしれない。
独歩さんも座ったのを見て俺は切り出した。
「独歩さん…今日部屋掃除したんですけど、どうでした…?」
「…綺麗になってた。ありがとう…。」
「いや…俺の部屋もあんな感じでしたから…」
自分の部屋の話をして少し家の中のものが心配になった。テーブルはほこりを被ってしまってるんだろうかと想像して少し複雑な気持ちになった。話を逸らすためにお茶を飲み干した。
「あ、シーツも、洗濯して干したんですよ。今日は寝心地いいかもしれません。よく眠れるかも。」
はは、と笑うと独歩さんはうん…、シーツからいい匂いがしてた…と嬉しそうに頷いた。
良かった、喜んでもらえて。本題に入るべく、俺は独歩さんを見据えた。
「あの…実は提案があって…」
「…提案?」
「あの…俺色々考えて、独歩さんの気持ち…嬉しいと思ってるんです。こうやって世話してくれるくらいに想ってくれてるのはありがたいんですけど…。俺、働きたいな、って…。一日何もしてないし、働いて収入得て…独歩さんから離れるとかそういうのじゃなくて、近くに!近くに住めばいつでも会えるし、独歩さんとちゃんと付き「ここから…出ていく…?」っ…。」
独歩さんの目は仄暗かった。
「…そ、うなるかもしれないですけど、近くに」
「俺が嫌になった…?無理やりここに連れてきた俺が嫌いになったんだ…。」
「ち、違います。独歩さん、俺は」
「だから就職サイトなんて見て外に出ようとしてるんだ。俺のことが嫌いになって、ここから出て他の誰かのところに行くんだろう…。俺なんかと一緒にいても楽しくないし、陰湿な俺なんか嫌いなんだろう…。一二三と遊んでるほうが楽しいんだ。俺なんかより…」
「独歩さん…!独歩さん…」
呼びかけても独歩さんはブツブツと呟いて止まらなかった。
…俺は一二三さんが言っていたことを守っていればよかったのかもしれない。
目の前にいる独歩さんは常軌を逸しているとしか言えなかった。風呂上がりの体温は急激に下がって、冷たい汗が背中を伝った。
独歩さんの目が俺を見た瞬間、俺はもう諦めた。
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