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「一二三さん…俺…ラーメンでもよかったんですけど…」
仕事終わりにご飯に行こうという誘いにのったはいいけど、連れてこられたのは普通に飲食店だった。
ラーメンなら短時間で食べられるし、すぐに帰られる。一二三さんもできるだけ早く家に帰ってやすみたくないんだろうか。
「ラーメンとかすぐ食べ終わるじゃん?そんなすぐ終わるようなのはなしっしょ〜!」
「はぁ…」
「で、なまえは何食べんだよ〜?」
「ううん……オムライスにします…」
「ええーっ!そんな安いのでいいのかよっ!?肉食えよ肉ぅー!」
「や…あんまり無駄遣いしたくないんで…」
貧乏な俺は極力出費は抑えたい。一番下っ端の黒服はキャストや幹部黒服みたいに大金はもらえない。毎日ボロアパートに帰って風呂入って寝て、夕方出勤して、の繰り返しだ。
「は?何言ってんの?俺っちが奢るし」
きょとんとした顔で向かいに座る一二三さんは首を傾けた。
「え…いやいつも奢ってもらって悪いんで…」
「気にす〜ん〜なって〜!いつものことじゃん?」
「……ありがとうございます」
それならばとありがたくぺこりと頭を下げると一二三さんは満足そうに頷いた。
結局俺はサイコロステーキと白ご飯、おかずの定食。一二三さんは和食だった。
「なんだよ、なまえ金に困ってんのかぁー?」
「…一二三さんみたいにお金持ちじゃないですから…」
ナンバーワンホストと黒服の収入の差なんて雲泥の差だ。
「じゃあさじゃあさ、ホストやれば?」
「…俺が客が取れるとでも思いますか…」
「んー、無理!」
ホストはセンスと才能と努力をしないとやっていけないのなんて一二三さんが一番知ってるはずだ。
それを全部揃えた一二三さんだからこそ今がある。
ふと黒服たちの間で話になったことを一二三さんに雑談にと話してみた。
「…この間、ボーイの中で話してた時に先輩が言ってたんですけど…前、男のウリに声かけられたって…」
「へ〜〜」
もぐもぐと食べながら相槌を打つ一二三さん。
「…男でも結構売れる人は売れるらしいです……」
箔がついた人間は高いらしいとかそんな話をしていたのをちらりと聞いただけだけど…俺はそれで男も体売って稼ごうと思えばいけるのか…と思ったりもした。
まあ一二三さんには関係ない話だけど、とちらりと見ると一二三さんは箸を持ったまま固まっていた。顔が無表情なところが少し怖い。
「ひ、一二三さん…?」
「…なまえは売ろうと思ってんの…?」
「え…何を…?」
「からだ。」
すっと細められた目元は顔が整っている分、迫力があった。ドクリと心臓が少し飛び跳ねる。
「い、いや…」
「…なーんだ!よかった〜!もし売るとか言ったら俺っち、まじど〜しよ〜かと思った!」
コロッと元に戻ったからホッとした。
「俺には無理です…裏で作業する黒服が一番合ってます…」
「なまえ真面目だしいい嫁になると思うけどな〜」
「よ、嫁…?」
「あ、そうだ。俺っちがマンション買って〜、そこになまえが住んで〜俺っちのためにご飯作るってどーお?」
「…家政夫ですか」
「違う、お嫁さん」
「…一二三さんやっぱり酔ってますよ。」
「酔ってないっつ〜の〜!これが通常運転ー」
「でも…家政婦って結構給料いいのかな…」
ボソリと言った言葉は一二三さんに聞こえていたみたいだった。
「っ!俺っち以外に勤めるのは禁止!だめーー」
「…こんな陰湿な家政婦どこも貰い手がないですよ…」
「そうかもっ!だからもう俺っちのお嫁にくるしかなくねっ?的な!」
至極それが当然とでも言うように笑いながら聞いてくる一二三さんにため息が漏れた。
「…その座を狙っている女性はたくさんいるでしょうに…」
「なまえなら一生養ってあげるし?」
にこにこと笑う一二三さんの目に違和感を感じながら俺は箸を進めた。
「…どうも…」
一二三さんの冗談に何とかえしていいか困ってとりあえずの言葉しか出なかった。
「も〜本気にしてなくねっ?まじだから!で、今度オフ合わせて遊びにいこ!どこがいい?アウトドア派?インドア?俺っち何でも大歓迎☆」
「…この間も遊んだじゃないですか…」
「あれは遊んだっつーよりただ仕事前にぶらっとしただけじゃん?一日中つかって遊びたいじゃん?」
「…休みの日は家で寝たいです…」
「あーあー、それじゃあ人生損してるって。じゃあ〜今度はなまえんちで遊ぼ!」
「えっ…」
「よく考えたら俺っちなまえんち行ったことないじゃん?行くしかないじゃん?」
「いや…来なくても…何もないし…ボロアパートだし…」
いつにしようかな、この日なら空いてるしこの日に合わせよ〜ぜっ!なんて俺の話は一切聞かずスマホのスケジュールを見て一二三さんだけでどんどん予定を決めている。
「あ、あの…俺その日休めるとかわかんないですし…」
「あ、俺っちから店長に言っとくし〜?」
「ええ…」
「楽しみ〜!もう確定!」
〈なまえんちにお泊まり〉という予定を入れたスケジュール画面を目の前に出されて頬が引き攣った。
賑やかな一二三さんの話を聞きながら食べ終わったあと、いつの間にか会計は済ませていてすぐに外に出れた。
「じゃあ来週のこの日、なまえんちでお家デートなっ!」
「…はぁ。」
どこまでも冗談っぽい人だなあと思いながらその日はご飯をご馳走になり別れた。
あれから1週間後、冗談だと思っていたのに一二三さんは俺のボロアパートに来ていた。
玄関を開けたら見えたその姿に俺は今日1日休めないなと覚悟したのだった。
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