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週に一度。仕事で疲れ果てた体が幸せに包まれる日。

いつもは残業するけど、この日だけは定時で帰れるように死ぬ気で仕事を終わらす。

急いで家に帰ってスーツを脱ぎ捨てて、クローゼットから長いワンピースを取り出した。

朝バタバタと急いで出てしまったため机の上はぐちゃぐちゃだけど隙間に鏡をおいて正座した。

棚の奥に隠すように置いているコスメポーチを取り出して机の上に広げた。

あと数時間後に会うあの人を意識して俺はメイクをして、前髪の長いウィッグをつけ、ワンピースに袖を通した。最後にグロスを唇の上に撫でるように乗せた。

「……よし。」


それからメガネをかけて、スタンドミラーの前に立った。女装だとバレないか全身を確認する。

幸い線が細いから大丈夫だと思う。
玄関から出る時はマスクして、顔を俯かせてそっと音を立てずに出る。

本当はヒールがいいけど歩きにくいからぺたんこ靴。

夜の街はまた1段と賑やかだった。

目的のお店の近くについて深呼吸した。
よし…。大丈夫…。

見上げるそこはホストクラブ。

そう、俺は女装してまでホストクラブに来ていた。

中に入るとホストたちに声かけられてぺこりと頭を下げた。

「あっ、子猫ちゃん!いらっしゃいませ。今日も来てくれてありがとう。案内します」

俺にすぐに気づいてくれて手を引いてくれたのは、伊弉冉一二三さん、俺がこのホストクラブに通う目的である。

「今日も可愛い服だね、一瞬で目が奪われちゃったよ」

微笑みながら俺をのぞき込む一二三さんに恥ずかしくなって俯いた。

なんで俺がこんなことしているか。それはテリトリーバトルのチームに選ばれた一二三さんを見て一目惚れしたからだ。

知れば知るほど俺もシャンパンコールしてほしくて、してほしくて…とった策がこれだった…。

女の子なら一二三さんからシャンパンコールしてもらえるんじゃないかって…。

それから何度か通って、俺は今日シャンパンを頼もうと思っている。しっかりこの日のために貯金したし、今日は夢のような日を見ようと思って来たんだ。

「今夜もご指名ありがとうございます。僕のこと、今日は朝まで独り占めしていただけますか…?」

「…っ!」

こくこくと頷けば一二三さんはにこりと笑った。

喋ると男だと言うのがバレるから俺は喋れないことにしてる。だから一二三さんは自分からたくさん話しかけてくれる。そんなところも優しくて惚れてしまう…。

たくさん一二三さんの面白い話を聞きながら楽しんだ。今日こそは…と一二三さんの裾をつんつんと引っ張った。

「ん?どうしたんだい子猫ちゃん」

人差し指でメニューのシャンパンを指さした。

「っ、シャンパンかい?」

こくこくと頷いた。

「ありがとう、本当に大好きだよ、僕の子猫ちゃん」

うぅ…ダメージが大きい。スーツ姿の一二三さんに至近距離で囁かれると本当にまだ酔ってないのにクラクラしそうだ。

ドキドキしながら、一二三さんを見る。
ああ…やっと、一二三さんのシャンパンコールを聞けるんだ…。

「シャンパン入りました〜!!」

一二三さんの綺麗な声が店内に響いた。それに合わせて周りも声をあげた。

すぐにシャンパンが用意されてもう俺のドキドキはピークに達した。

「シャンパンコーーール!

シャンパン!シャンパン!あなたが今宵のプリンセス!

シャンパン!シャンパン!ガンガン飲んでねプリンセス!

シャンパン!シャンパン!気分はどうだい?プリンセス!」

うぁぁ、最高です!!マイクを握って俺に微笑みかける一二三さんにメロメロだ。

「シャンパン!シャンパン!最高〜〜!!」

最高だっ!
かなりの盛り上がりに俺はもうここで死んでいいと思うぐらいには蕩けきっていた。

「さあ、子猫ちゃんグイッといっちゃって?」

耳元で囁かれてここが天国か…と思いながらぐいっとグラスを煽る。

それからはあんまり覚えてないけどすっごく楽しかった。

帰る時もまた待ってるね、って言われてもう俺は幸せ絶頂だった。

帰ったあとも幸せすぎて普通の男の姿でベッドに潜り込んでにへにへと笑って眠りについた。

またお金貯めて行こう…。一二三さんのシャンパンコールを大切に心に収めて眠りについた。



****


女装用のメイク道具を買う目的で不審に思われないために女装して街に出ていた。

たくさんお客さんがいる一二三さんに少しでも覚えてもらいたくて可愛くしていきたいと思うのは気持ち悪いかな…と考えながら歩く。

ふと、目に入った本屋に入ろうかなと思って入口に行くと中から出てきた人に俺は目を奪われた。

ひ、一二三さんだ…っ!

確かにあれは一二三さんだった。私服姿の一二三さんにドキリとして俺の足は自然と追いかけていた。

一二三さんから少し離れて歩く。

一二三さんだ…一二三さん…。

後ろ姿だけを見て追いかけていたら、一二三さんが男性と少しぶつかって買った本を落としていた。

あっ、と思ってすぐに駆けつけてその落ちた本を俺は拾った。

「あ、すみませ…っぇっ!?!?」

一二三さんにお礼言われるかな、とちら、と見ると一二三さんは俺を見て驚愕して青ざめたような顔をしていた。

え…??

「ひっ、ちょっ…!」

本を手渡そうとしたのに一二三さんは後ずさりする。

えっ…、なんでこんなに俺は拒絶されてるんだろう…。

もしかして明るい昼間だから俺が男だってバレた?夜じゃないからいつも来てる女が男だったってバレた…?!

「あ、…」

あの…と喋ろうとして口ごもった。ダメだ、喋っちゃいけない…。


それでも拾いあげた本を返さないと、と思い1歩踏み出すと一二三さんはうわぁ!と声を上げて走り出した。

「あっ、ちょっ、」

この本をこのままにしておくわけには行かず追いかけて走った。

一二三さんが路地に入り込んで俺もすぐに入った。

そしたら、一二三さんは路地の角っ子で震えていた。

「あ…の…」

「ひぃぃっ!」

「あ、あの…っ一二三さん…」

本を差し出しながらついに声を出した。
こうでもしないと一二三さんと話せないから。

俺の喉から出る低い声は誰が聞いても男と分かるような声で、終わったな、と思った。

もう一二三さんに会いに行けないや、って。

「こ、これ…落としましたよ…」

そっと本を一二三さんの足元において一歩下がった、警戒されてるみたいだから手のひらを上げて…。

「え……声…。」

「あ…。…お、男です…。」

「お、男…?あ、あれ…女の子じゃ…」

「え、っと…女装して…お店に…行ってました…」

「…お、男か〜〜!なんだぁ…!もー、俺っちまじ焦ったっし…!」

「へ…」

お店で見る一二三さんと違う口調に口が開いた。
一二三さんって、俺っちって言ってたっけ…。

「で!きみは何でじょそーなんてしてんの!?」

「あ……。…ひ、一二三さんにシャンパンコール…してもらいたくて…。あ、き、気持ちわるくてすみません…。」

女装姿でこんなこと一二三さんに伝えるなんて拒絶されても無理ない。

「………。」

一二三さんは黙った。ああ、やっぱ終わったな…。早いとこ帰って「なーんだ〜!そんなの女装しなくたって来てくれたらいいのに!」

「へ…」

「ってかむしろ?友達になったらいつでもアゲるし〜?俺っちそういうの得意だからね!」

「え…。」

「よし!今日から友達!ね!はいケー番交換しよ〜〜!」

俺のスマホに一二三さんのアドレスと電話番号が乗ってきた。

「んー、みょうじ、なまえって名前も違ってたの?!」

「す、すみません…女の子らしい名前じゃないと…って思って…」

「えー!今度から普通にきてよ!あっ、てか、俺っちホストモードじゃないときこんなだけど引いた?引いちゃった?」

「えっ…いや、全然…む、むしろ…」

「むしろ…?」

むしろそのへらりとした笑顔がまたさらに好きになりましたなんて言えない!

「あの…、いいと思います…どっちの一二三さんも…かっこよくて…」

やばい、俺相当恥ずかしいこと言っただろうか。顔が熱くて一二三さんが見れない。

「…………。」

一二三さん黙るしもう絶対終わったわこれ…。


「なんか…いーね!ふふっ、なまえくん何が趣味?あ、てかなまえでいいっ?」

「えっあ、はい…」

「もっと喋ろーよ!ほらほらぁ、あっ、近くでお茶でも!」

ぐいぐいと引っ張られて一二三さんに連れていかれる。
あ、あの一二三さんと手繋いでる…。


ドキドキしながら2人でお茶してたら、いきなりサラリーマンの人が現れて俺と一二三さんの姿を見て、「えっ?!一二三、えっ?!へ、平気なのか?!」と狼狽えてたのはまた別のお話。

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