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眠らない街、新宿歌舞伎町。

僕の名前は伊弉冉一二三。

煌びやかなこの街で僕はホストという仕事をしている。

女性が苦手なことを克服するためについたこの仕事。最初は全然ダメダメだったけど、今やナンバーワンホスト。

ナンバーワンという座は誰にも譲らない。
のし上がって手に入れた椅子に座るため今日も僕は子猫ちゃん達に愛を届ける――。




****



「ようこそ、新宿ホストクラブ○○へ」


フロントで出迎えるボーイたちの声を遠くに店内で1番豪華な席で子猫ちゃんたちの相手をしていると1人のボーイが近づいてきた。

「一二三さん、次、指名です。」

了解、と目を合わせて隣に座る子猫ちゃんに微笑みかけた。

「ごめんね、少し席を外すから楽しんでいってね」

「え〜一二三もう行っちゃうの?早く戻ってきてよぅ〜」

にこりと笑って席を外し、次に待つお客様のところへ行く。お客様の座っている後ろ姿を見た瞬間、正直またか…と思った。

「……お待たせしました。やあ…、なまえくん」

「…っ!!ひ、一二三くん…っ!」

僕を見た瞬間顔を赤らめて嬉しそうに息を呑む彼はみょうじなまえくん…。

黒髪に平凡な顔立ち、特に特徴のない服。僕の名前を呼ぶ声は女の子の声とは違う。…そう、彼は男だ。

このホストクラブは男性でも入れるから可笑しくはない。ただ…この子は…少しだけ難ありなのだ。


「なまえくん、今日も来てくれたのかな?嬉しいよ」

「…っひ、一二三くんのためとあらば毎日でも…っ」

「…あはは、ありがとう。でもそんなに毎日来て仕事とか大丈夫かい?君は確か…」

「ふ、フリーターしてて…、で、でも!お金は!ちゃんと一二三くんに使うために、貯めてるんだ!」

「あ、ありがとう。でも無理しないでほしいな。元気ななまえくんと会うのが僕の楽しみだからね」

「ひ、一二三くん……っ!」

感極まったような顔で僕を見るなまえくんは子猫ちゃんたちとそう変わらない。

ただ…その気持ちのベクトルが大きすぎるんだ。

「だ、大丈夫!お金がなくなっても、臓器を売れば一二三くんに会いに来れるから…!」

そう、ベクトルが……大きすぎて…。

「そ、それは…あはは…」

笑って返したけどなまえくんの目は冗談を言ってるようじゃない。彼なら本気でやりそうで内心かなり引いている。

どうやら僕はこのなまえくんに、なぜか、相当気に入られているらしい。

「でも、なまえくんがそんなに僕を選んでくれるなんて本当に嬉しいよ。何がきっかけだったんだろう?」

「…っ!!僕達の馴れ初めっ?い、いいよ。話す!」

馴れ初め……、いや、馴れ初めじゃないんだけど…とは言えない。うん、と微笑んで聞き手に回る。

「あれはね…歌舞伎町を歩いてる時だったんだ……。僕はいつもバイトをクビになってしまうんだけど…、その日もクビになって歩いていたら…賑やかな声が聞こえてそっちの方を見たんだ…。そしたら綺麗な女の人と一緒に歩いてる一二三くんがいて……。目が離せなくて……歩いている2人について行ったんだ…一二三くんは優しくエスコートしていて…キラキラしてて…王子様みたいで…その後もついて行ったら、一二三くんはその女性とここに入っていって…それで、僕は一二三くんがホストだって知ったんだ。ここにくれば、一二三くんに僕もあんな風に優しくしてもらえるのかな…って………なんか恥ずかしいなぁ…一目惚れっていうか…。それで…一二三くんに会いたくて……借金したんだぁ」

照れながら笑うなまえくんに僕は頬が引き攣る寸前だった。

借金してまで会いに来るなんて…僕はなんてクズを作り足してしまったんだと己の罪深さを痛感した。

「そ、そうなんだ。」

愛想笑いを浮かべてもなまえくんはうっとりとした顔で僕を見ている。ああ、お願いだから早く他の指名で呼んでくれないかとボーイをちらりと見ると、思いが通じたのか僕のそばに寄ってきて「一二三さん、指名です」と言った。

「なまえくん、ごめんね、席を外すね」

「…っ、ひ、一二三くんもう行ってしまうんですか…っ」

「コールが入っちゃって」

困った顔で笑うとなまえくんはプルプルと肩を震わした。

「ぼ、僕も…いつかドンペリ頼みます…っ」

「ありがとう、楽しみにしてるからね」

なまえくんに微笑むと、コクコクと頷いていた。まさか…ドンペリ頼むのに臓器売ったりしないよな…。なんて不安が頭を過ぎったが消した。

あくまで彼はお客様だ。僕達からの愛で満たされて、その対価でお金を払うわけだ。

そのお金をどう調達しようと僕達ホストには関係ない、いや関わらない方がいい。

寂しそうにグラスを握るなまえくんを背に僕はまた新たな子猫ちゃんのところへ足を進めた。





****




「お疲れでーすっす!」

「一二三、おつかれー」

「うぃーっす!」


営業時間も終わり、仕事が終わったのは日付が変わって夜も深まった頃。

店の裏口から出て皆に挨拶しながら家に帰る。

帰ったら朝ごはん作って〜洗濯して〜、あっ、独歩そーいや昨日裾のあたり破けてなかったっけ?!

しゃーねーなぁ〜独歩ちんの服、縫ってあげてぇ〜それから〜 と考えていると俺の足音に合わせてカサカサと動く物音が耳に入った。

………。気のせい?

カツコツと歩けば後ろからカサカサと聞こえる。小走りしているような足音。

……つけられてたり…?
いや、こんな時間にそんなやつ……。

それでも数歩進むとやっぱり聞こえてくる物音。
そっと後ろを振り返った。誰もいない。

気のせいか〜。俺っち疲れてんな〜!やっべ〜。

自分の気のせいだと言い聞かせて歩く。歩いて歩いて、もう少しで家のマンションだという所で足を止めた。

……やっぱり誰かついてきてるわ!!

あのカサカサとした物音が歩く度に聞こえる。

俺っち狙っても何も出ねぇぞ?!と思ったけど身の安全を確保するのが一番。

そこからはダッシュでマンションに入り込み、エレベーターに乗った。

「ひぇ〜〜っぶね…。」

ウィーンと開いたエレベーターから降りてマンションの廊下を歩く。

カツコツ……。カサカサ…。

いやいやいやいや、待て待て待てぇぇ!
俺っち走って逃げたわけだけど?!

なんでついてきてるわけ?!怖いわ!!

本格的に怖すぎてこうなりゃ部屋に逃げ込むしかない、とポケットに手を入れて鍵を握りしめた。

開けて入って、すぐ鍵を締める!頭でイメトレして、よし、と決めた。

自分の部屋に近くなったところで瞬時に動いて鍵を差し込み、勢いよくドアを開けてそれからすぐにドアを閉めた。

物音で独歩起きたかなとかそんなん気にする余裕ない!

はーっと息を吐き出して、そぅっとドアスコープを覗いてみた。

片目を一眼のドアスコープに合わせてドアに顔を近づける。

「………っ!!」

玄関の目の前には、息を切らせてハァハァと言いながら嬉しそうにドアを見上げる男が一人……。

俺っちしか指名しないみょうじなまえ…。

急いで部屋に上がって独歩の部屋を思いっきり開けた。

寝ている独歩を叩き起す。

「独歩!独歩ぉぉっ!おたすけぇっ!まじやばいって!!」

「ん……」

「どっぽぉぉぉっお前の親友がやばい状況になってんのぉっ!」

必死で肩を揺さぶると独歩は薄ら目を開けて眉を顰めた。

「…なんだよ一二三…。せっかく寝てたのに…」

「いいから!来て!ちょっと来て!まじ!」

「はぁ……?」

目をこする独歩を無理やり立たせて玄関に引っ張っていく。

玄関の前で独歩はなんだ、と面倒くさそうな顔をしたけど俺っちにとってはただ事じゃあない。

「いいからっ!外!見て!」

声のトーンを落として囁き声で訴えた。

「はぁ……?」

ドアスコープの中さえ見れば解放されるんだろうな、と言うように仕方なさげに独歩はドアスコープをのぞき込んだ。

「何がいるっていう…、…っ!!」

玄関の前のものを見た独歩は恐る恐る振り返った。

「ひ、一二三…まさかお前……」

「独歩ぉ……」

「また…ストーカー……」




伊弉冉一二三、29歳。職業ホスト。

男にストーカーされはじめました。


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