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朝の満員電車に乗ったところから俺の1日の謝罪は始まる。
降りるためにすみませんすみませんと連呼してぎゅうぎゅうと押されながら人の間を通り抜け電車から出る。
それから会社に行くまでに10回は謝る。
会社についたら机の上でタワーになっている書類を片付けて…営業に出て…帰ってきたら、さらに溜まった書類を片付けて…
1歩進んで2歩下がる。
そんなペースで仕事をしていると時間なんてなくて昼の12時を時計の針が指していても席を立ってご飯を食べに行く、なんてこともできない。まあ、あんまり食欲がないんだけど…。
腹は減ってるけど、でも仕事片付けないと…、忙しいし…と思うとあんまり食べる気もしなくていつも飲料ゼリーとかで済ましている。
猫背気味にパソコンをのぞき込みながら引き出しの中からいつものゼリーを出そうとしたら机の上におにぎりが降ってきた。
正確には、降ってきたじゃなくて、置かれた。
「……あ、…」
「独歩さん、お昼食べないと元気なくなりますよ?」
見上げると総務課のなまえくんだった。
年下だけど、よく仕事で関わるし、落ち着いた子だから話しやすい子だ。
「おにぎり、これ…」
「なんか書類に埋もれて死にそうなので差し入れです。」
柔らかく笑ったなまえくんは本当天使だと思う。
周りはただの平凡な男性社員としか見てないけど、俺にとってはほんとう天使。
周りの女子社員もハゲ課長も俺のことなんて下に見てるけど、なまえくんだけはいつもこうやって俺のところに来ては差し入れしてくれたり、少し話していく。
なまえくんみたいな人がいるから俺はまだこの会社でボロ雑巾のように扱われてもやってけるんだ…。
「ありがとう…。」
「無理しないでくださいね。独歩さん頑張りすぎですよ」
っああああ!周りの人間は俺にもっと頑張れ、もっと頑張れ、出来るだろ、何で出来ないんだ、って言うのに、なまえくんは!
頑張りすぎだって!!
「ぅぁぁぁ…。」
嬉しすぎてというか何だか泣けてきそうで喉から情けない声が出た。
「ど、独歩さん…?大丈夫ですか?」
大丈夫じゃない。なまえくんが聖人君子すぎて大丈夫じゃない。
「あ、あの…なまえくん、今度ご飯…奢らせてよ…いつもおにぎりとか色々貰ってるし…」
「え、そんな気にしないでくださいよ。でも、飲みに行きましょう!たまにはぱーっと!」
ぱーっと!と言って笑うなまえくんはなんて清いんだろう。
心がじんわりと暖かくなりながら、おにぎりをありがたくいただいた。
なまえくんが自分の課に帰ってから、机の上に置かれたおにぎりを見つめた。うめおにぎり。
嬉しいな…。
こんな俺に気を遣ってくれる人がいるなんて…。
おにぎりを食べたら少し元気になった気がした。
午後も書類やらハゲ課長のいびりを受けながら結局夜まで机に張り付いていた。
フロアから段々と人が消えていって残るは俺1人。
でも終わらない仕事。
この時間になると無償に叫びたくなる。叫んで机に突っ伏したくなる…。でもできない俺は小心者。
「はぁ……」
今日も帰るのは遅くなるだろうな…。家に帰っても一二三は仕事だし適当に冷蔵庫にあるもの食うしかない。
もう何も食べずにとにかく寝たい。疲れ切った体を休めたい…。
「あれ…?独歩さん、まだ残ってたんですか」
寝たい、休みたい、積み重なった山積みの書類に火をつけたいなんて思っていると声が聞こえた。
「なまえくん…」
「皆いないじゃないですか!」
「ああ…はは、俺なんて仕事の処理が遅いし…営業成績も悪いし俺1人だけできないやつなんだよ…」
「そんなことないですよ…!独歩さん、仕事はできる人のところにやってくるんです。自然と。だから、独歩さんは仕事、たくさんできる人なんですよ。だから、仕事が集まっちゃうんですよ。」
「………」
言葉が出なかった。
すごく、すごく、なまえくんの言葉に沈みかけていた体を引っ張りあげられた気がして、小さく小さくなくなっていきそうな心を救いあげられたような感覚に言葉が出なかった。
「す、すみません。勝手なこと言って…。でも独歩さんいつも頑張ってるし、俺、」
「なまえくん。」
「はい…」
「……ありがとう。」
俺がなまえくんの目を見てお礼を言うとなまえくんは少し驚いた顔をした。
「…お礼なんて、そんな…。独歩さん、体壊さないでくださいね」
苦笑いしながら言うなまえくん。周りの言う体壊さないで、とは違う。
周りの言う体壊すな、は 体壊して休むな、人に迷惑かけるなってことだけど、なまえくんの言う体壊さないで、は俺の体を本当に心配してくれているようで…。すごく嬉しかった。
「……なまえくん、今週、金曜とか…夜、空いてる?」
「あっ、飲みですね!もちろんです、俺基本暇人なんで!行きましょう行きましょう!」
「…頑張って、仕事終わらせるから…その、2人で…」
「はい!楽しみにしてますね!」
笑うなまえくんを見てすごく心が癒された。
ああ、もしかしてこれってさ…
このあたたかくてドキドキしてふわふわするようなこの気持ちって…。
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