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独歩×花屋で働く男主 の話




街中から少し離れた落ち着いたところに建っている白い建物。洋風な建物の前には花がたくさん並んでいる。

地元で人気のおしゃれなフラワーショップ。そこで働く俺は外に飾っている花に水やりをしていた。

店の前を通りかかった人を見て手を止めた。

「あ、観音坂さん!こんにちは。」

いつものスーツとは違う私服の姿の観音坂さん。うちのお客さんだ。

うちの常連である伊弉冉さんが予約していた花束をたまたま代理で観音坂さんが受け取りにきたことがあってそこから会うと話すようになった。

仕事の帰り道がうちの店を通っているらしいけど帰りが遅いから平日はあまり見かけない。

初めてご来店いただいた時からたまに来てくれるので俺としてはお客さんが増えて嬉しい限りだ。

にこりと笑って挨拶をすると観音坂さんはぺこりと丁寧に頭を下げた。

「…みょうじさん、こんにちは。」

「平日ですけど今日はお仕事お休みなんですか?」

「はい有給休暇で…」

「そうなんですね!今日は雲一つないし、絶好のお出かけ日和ですね〜」

「あんまり…眩しいのは苦手なんですが…花が見たくて…」

「おぉ、嬉しいです!ぜひぜひ変わった花も仕入れていますので見ていってくださいね」

相変わらず目の下のくまはひどいけど、最近観音坂さんはお花を見ると癒されるらしく、お花を買いにきてくれる。

やっぱり花の効果って絶大だよなぁ、なんて店員贔屓も程にあるかと思うほど花を好きな人が増えてくれるのが嬉しい。

「…あの、みょうじさんは最近土日はお店にいないんですか?」

「僕ですか?最近は結婚式場の注文とかも入って忙しくさせてもらってるんですよ…!」

「そうなんですね…最近…お店にいないな…って…」

「平日はこうやって出てるんですけどね〜。伊弉冉さんは平日もご利用なさってくださるのでよくお見かけするんですが、観音坂さんとはお久しぶりにお会いしましたね〜」

花屋と言えども接客業だ。常に笑顔で、いい気分で花を選んで買っていただくために接客は重要だ。

「…結婚式って、あの、すごいですね…」

「いえいえ、そんな…。でも、人生の大きなイベントに関わらせてもらうってすごく嬉しいんですよ。こういう花がいい、とかこんな雰囲気にしたい、とかお客様ごとに色んなテーマがあるんですよ。」

「好きな花…。」

「はい、あとお客さまに似合うお花とかも提案させていただいたり…。花言葉とかもご紹介したりしながら…」

「…もし…俺だったらどんな花がおすすめですか…」

「観音坂さんですか?そうですね…」

店の中に用意されている生け花を見渡して目に付いたものにぴんときた。

「この、赤いポピーとか…どうでしょう?素朴な感じが観音坂さんに…あっ!素朴ってすみません!なんだろう…何か、観音坂さんに似ていて…純粋な感じが…」

上手く言葉で伝えられないなあと苦笑いすると観音坂さんは赤いポピーを指さしてこれを買いますと言ってくださった。

「ありがとうございます…!準備しますね〜ちなみにポピーの花言葉は『恋の予感』なんです♪」

赤いポピーを手にしてカウンターに入り包む用意をしていると観音坂さんが静かに口を開いた。

「…みょうじさんは…、その…結婚式とか…飾りたい花は決まってるんですか…」

「んー…そうですね…。好きな花がいっぱいありすぎて…あはは、迷いますね」

「…っそういう相手とか…いるんですか…?」

「えっ…、結婚相手ですか?」

「……はい。」

「いるわけないじゃないですか〜。花屋で働いてる男なんてモテませんよ、観音坂さんみたいに会社勤めの方がたくさん需要がありますよ」

くすくすと笑ってみれば観音坂さんは俯いてしまった。
あれ、何か可笑しいこと言っただろうか…?

「観音坂さん…?」

「…そんなことありません。」

「え?」

「俺なんて…ただのリーマンです。みょうじさんみたいに毎日笑顔でお花を売ってるほうが何十倍も魅力的です…」

「ははは…そうですかね…。照れるなぁ」

包み終えた赤いポピーを観音坂さんに手渡すと、ポピーをじっと見下ろした後俺を見た。

「…恋の予感って言われましたよね…。俺は…みょうじさんは向日葵みたいだと思います…」

「あ、ありがとうございます…」

レジの前で赤いポピーを持った観音坂さんに向日葵みたいだと言われて少し照れくさく頬をかきながらお礼を言った。

それでも観音坂さんは俺から目を逸らさなかった。

「……俺は毎日残業ばかりで帰るのも遅い出来損ないのリーマンです。…社会の歯車に押しつぶされそうになって……」

突然深刻そうに話し始めた観音坂さんに俺はびっくりして喉をごくりと鳴らした。

「俺は金も何もないただの29歳です…。でも…幸せにできるように一生をかけます……俺と…結婚してくれませんか……」

「…………はい?」

俺の耳がおかしくなかったら俺は今結婚してくれないかと言われた?

「…みょうじさんの笑顔を見ると…まるで向日葵みたいに明るくて…眩しくて…癒されていて…」

「……観音坂さん、疲れてますね?」

「……はい、疲れてます…。」

表情を変えないまま正直に頷いた観音坂さんに俺は手を上げた。

「あの…きっとお疲れなんでしょう…」

「…疲れてますけど…、みょうじさんを見ると…疲れも…消えていきます…。」

「…あの、俺はそんな観音坂さんに好かれるほどの人間じゃ…」

「……結婚式に…俺は……赤いポピーを飾りたいです…」

くまでくすんだ目元には綺麗な瞳があって、その2つが俺の目と合った。タキシードを着た赤い髪色の観音坂さんと素朴な赤いポピー。想像してやっぱり赤いポピーが似合うなと思った。


観音坂さんが持っている包み紙から覗く赤いポピーが恋の予感を知らせるかのように俺を見ていた。

「…まずはお互いを知るところから…」

こうして俺はお客さんだった観音坂さんと恋の一歩を踏み出した。

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