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独歩×コンビニ店員男主 BL以下




人生に期待なんてしない。

「いらっしゃいませ」

23年間生きてきて悟った。

「こちらの商品、温めますか?」

期待するから失望したり、イライラしたり、悲しくなったりする。

「1058円になります。」

最初から期待なんてしなければいい。

「ありがとうございました」


商品が入った袋を受け取りコンビニから出ていった男性客を目で見送って小さなため息を口の中で殺した。

俺は就職に失敗して大学を卒業した後フリーターになった。

コンビニ店員なんていう在り来りなバイトについてギリギリな生活を送っている。

就活しようとかそんな目標も何もない。どんな職につきたいかなんて希望もないしこのままでいいやという気持ちがあるのは否めない。

毎日変わり映えのない生活を送りながら思うのはこうやって歳をとって一人で死んでいくんだろうかということ。

俺は人並以上の容姿は持っていないし、それを補う明るさも人脈もない。ひっそりと影で生きてきた。だから、今までとこれからも俺はずっと一人だろうし、そもそも俺が好きになる人はいつも同性ばかりだ。

いいな、と思う人は皆同性だった。

だからといって男と付き合ったことはない。
学生の時に気になった人が「ホモって気持ちわるいよな」と言っていたのを聞いてから自分は普通じゃないと思うようになった。

格段に容姿がいい人は好きな人が同性でも付き合えるチャンスがあるのかもしれない。でも俺は平凡かそれ以下の顔立ちだし秀でてるところは何もないから。

いいな、と気になる人がいても見て見ぬふり。そうすれば感情の波が出来ることもない。

人生に期待はしない。それがひっそり今まで生きてきて学んだことだ。




レジの前に立って客が来るのを待つ。ちょうど13時を過ぎたこの時間はお昼のピークを過ぎて少しだけ落ち着く時間だ。

お昼ご飯を買う人たちが列を作っていたレジ前も今は人がちらほら。

機械みたいにマニュアル通りの対応をしながらバーコードを読んでいく。笑顔はつくらない。つくれないから。


コンビニ店員をやっていると大体いつも来る人は分かってくる。工事現場で働いている建設業のおじさんたちや近くの会社のOLやリーマン。

大体顔を覚えてしまう。

それで、週に数回、この時間に来る人がいる。

店内の壁にかかっている時計を眺めていると自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ」

マニュアル通りの声掛けをした。

入ってきたのは細身の体でスーツを着た男性。髪は赤くて少し猫背気味なその人は透き通った色の目をしている。その目の下はクマが滲んでいる。

俺はその人を目で追った。

店内を入ってすぐ目の前にある冷蔵ケースから栄養ドリンクを1本掴んでゆっくりとした足取りで奥に入っていく。

おにぎりとサラダ、栄養補助ゼリーと栄養ドリンクを持ってその人はレジに来た。

「ありがとうございます。」

レジの上に置かれた商品のバーコードを読ませているとその人が静かな声を発した。

「あの、ホットコーヒーのブラックを一つ追加で…」

「ありがとうございます。コーヒー追加で合計788円です」

ちらりとその人を見上げると目を伏せて財布からお金を取り出していた。

俺はすぐにカップをコーヒーマシンに用意して、商品を袋に詰める。


「千円お預かりいたします。212円のお返しです。」

212円のおつりを買えそうとレシートと一緒に手を出すとその人の大きな薄い手が差し出された。

お金をその手に乗せる数秒、その人の手に触れた。

ぱっと手を離してコーヒーマシンからホットコーヒーが入ったカップを取り出した。

蓋をはめて、待っているその人に差し出す。

「お待たせ致しました。」

その人の目をもう一度見るとクマだらけの目がちらりと俺を見た。

「ありがとうございます。」

優しそうな声を残してその人はコンビニから出ていった。

週に数回、13時を過ぎた頃にやってくるあの人はいつもホットコーヒーを買っていく。

疲れた雰囲気でいつも来るあの人の名前を俺は知らない。

どこの誰かも分からないけど、整った顔と落ち着いた雰囲気に来る度に目で追ってしまう。

多分、近くの会社のサラリーマンなんだろう。


この気持ちを俺は知っている。
人を好きになる前のあの感じ。
少しだけその人のことが気になるあの感じ。

でも人生に期待することをやめた俺にはいらないものだ。

俺はあの人のこと何にも知らない。
名前も歳も、どこの会社の人なのかも、結婚してるのかも彼女いるのかも知らない。

それであの人も俺を知らない。
毎日昼にいるただのコンビニ店員という認識だろう。

人生に期待なんてしない。
期待するから失望するんだ。

俺の毎日は静かで何の色もない。


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