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今日はいつもと違った。

13時半頃、あの人がやってきた。

いつも疲れている様子だったけど、いつも以上にひどく疲れているような雰囲気でコンビニに入ってきた。

肩を落として歩く姿に何かあったんだろうかと思ったけど、何も事情を知らない俺にはただただ目で追うことしかできない。

少ない食事量に一本の栄養ドリンク。

お疲れですね大丈夫ですか、なんて言える仲でもない。

レジに出された商品を受け取っているといつもの注文が入った。

「ホットコーヒー…ブラックを1つ…」

随分と沈んだ声だった。

何があったのかも分からないけどあまりにも疲れた様子のこの人につい口を開いてしまった。

「つ、疲れた時は…カフェラテとか…おすすめです…」

「…え…」

目の下がクマだらけの大きな目が少し見開かれていた。
その目を見て俺はハッとしてすぐに頭を下げた。

「す、すみません。お疲れのようで…あの、甘いものが…、いや、あの、か、勝手にすみません…。」

自分が発した言葉に気が動転して言葉にならない。

「すみません、ホットコーヒーブラックですよね、すぐに準備します」

レジに背を向けてカップを取り出しコーシーマシンにセットする。

「…カフェラテで…」

「え…?」

「カフェラテで…お願いします」

一瞬その人が笑ったように見えた。少しだけ口角が持ち上がったように見えて俺は瞬きした。

「カ、カフェラテで…良いんですか…?」

「はい」

「あ、ありがとうございます…」

俺が根拠もなしに言ってしまったカフェラテで本当によかったんだろうかと不安になりながらカフェラテを注いだ。

会計を済ませてカフェラテをそっと差し出す。

「…お待たせいたしました…」

「ありがとうございます…」

俺の手からカフェラテを受け取って、コンビニを出ていった。その後ろ姿はコンビニに入ってきた時よりは少しだけ背中が真っ直ぐになっていたように見えた。

俺はその後、ネットでカフェラテについて調べた。特に疲れているからカフェラテが良いなんていう情報は見つからなくて嘘をついてしまったとかなり後悔した。

どうしよう…騙されたとか苦情が来たら…。それよりもあの人の疲れが取れたかどうかだ…。

俺の嘘っぱちな情報で疲れが取れなかったら申し訳ない。


「みょうじさん、品出し手伝ってくださーい」

同じバイトの女性に声をかけられた。

「あ、はい。すぐ行きます。」


次来た時はあの人に謝ろう。

馬鹿なことしてしまったな、と携帯を握りしめてため息を吐いた。





***


あのカフェラテの日から2日後。


「いらっしゃいませ」

お昼のピークが過ぎた頃、あの人はやってきた。

カフェラテのこともあって俺は顔を跳ねあげた。

あの人は俺と目が合うとぺこりと俺に向かって頭を軽く動かした。驚いて俺はぎこちなくへこりと頭を傾けた。

ちゃんと謝らないといけない。
店内を回って買うものをレジに持ってきたその人を目の前にした時、首からかかっているものに目がいった。

赤色のストラップについているのは社員証らしきものだった。会社名と名前が書いてあった。

観音坂…、独歩…さん…。

それに釘付けになっていると頭の上から声が降ってきた。

「あの…」

「……っ、す、すみません。ありがとうございます、お預かりいたします。」

声をかけられてその名前から目を逸らし商品を手に取った。ピッ、ピッ、とバーコードを読む音が鳴る音の中で俺は息を吸った。

「あの…先日は…すみませんでした…」

「…先日…?」

「カ、カフェラテのことです…。適当なこと言ってしまって…」

恐る恐る観音坂さんの目を見た。

「あ…。いえ、お礼が言いたかったんです…。あのカフェラテ美味しくて、ちょっと疲労が取れた気がして…ありがとうございました。」

笑った。
あの人が笑った。

いつも疲れている表情しか見たことなかったのに、あの人が口端を柔らかく上げて笑っていた。

「お、お礼なんて…とんでもないです…」

すぐに目を逸らして商品を袋に詰めた。これ以上見ていたら良くないと思った。

「あの…今日もカフェラテで…」

「…は、はい。ありがとうございます。」

カップをコーヒーマシンにセットしてカフェラテを選んだ。

淹れたてのカフェラテを差し出すとまたゆるりと笑った。

「ありがとうございます。」

「あ、ありがとうございました…」

カフェラテを片手にコンビニを出ていく背中をずっと目で追った。

観音坂、独歩さん……。

あの人の名前。初めて知ったその名前を心の中で呟いてみた。

人生に期待なんてしない。
だから観音坂さんのことを少し知ったからって俺とあの人の関係が変わるわけでもなんでもないけど。



少しだけ、人生に期待したくなった昼下がりだった。


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