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「みょうじくん、いきなりごめんなぁ」
「いや、俺は部活引退したし毎日時間あるから大丈夫、」


佐倉さんと俺は学校近くのファストフード店で向かい合って座っている。
正直、学校の帰りに女子と2人きりでどこかに行くなんてことは、自転車競技しかしてきていない俺には今まで一度も経験したことがなくて少し緊張していた。

何話す?とか、どう答えたら良いんだろう、なんて考える。

茶川達や侑達とワイワイ話しながら帰りに遊ぶのとはまたちょっと違う。

これから話す内容は佐倉さんの恋愛相談だ。
ドリンクとサイドメニューの軽食を前に口を開いた。

「それで佐倉さんはその、侑のこと、いつから…」

俺の目をみて恥ずかしそうに俯いた。

「1年生の時、美術部の荷物運んでる時になぁ、重たくて落としそうになってて、周り誰もおらんかったんやけど宮くんが手伝ってくれて…」

「侑が?割と優しいとこあるんだな」

「ふふ、見た目に寄らんよなぁ。私も最初、背も大きいし髪の色も派手やし、びっくりして断ったんやけど『重いんやろ?どこまで運んだらええん』って普通に持ってくれて…」

嬉しそうにはにかむ姿に人を好きになるってこういうことかと目の当たりにする。

紛れもなく、佐倉さんは侑のことが好きだ。

それを知るとなぜか胸のうちがチクチクと痛んだ。痛む理由が分からない。

「ずっと片想いやねんけど、最近は諦めた方がええかなって思ったりもするんよね…」

「諦める…」

「いっその事、彼女とかおってくれた方が吹っ切れたかも、とか思ったり…!あははっ。男子からしたら、友達とかおったら彼女とか要らんって思う?」

「うーん…どうだろ。確かに友達と遊んでると楽しいし、充実してたらそこまで…。あ、でも恋愛したくないとかそういうのはないと思うけど!」

皆、それなりに恋したいとかそういう思いはあるんじゃないかと思うんだけど。少なくとも、俺はある。

「まぁでも、あいつバレーバカだからなぁ。バレー最優先って奴だし…」
「…そこもかっこええんよなぁ」

はぁと、ため息を吐く佐倉さんに侑の全部が好きなのか、と単純にただただすごいと思った。

俺なんかいつも侑の文句言ってるのに…その分、俺も文句を言われまくっているが。

「侑のこと、好きなんだね…」
「みょうじくんはほんま宮くんと仲ええよね」

「まぁ、寮が一緒ってのもあるかも」
「宮くん見てると笑ってる時、いつもみょうじくん隣におるし。正直…」

言い淀む佐倉さんに首を傾げた。

「宮くんが彼女作らんのって、みょうじくんがおるからかなって…」

思わずドリンクのジュースを吹き出しそうになった。

「ごほっ、」
「だ、大丈夫?」
「う、うん。器官に入っただけ…」

佐倉さんの言葉の真意が分からなくてドキドキする。

「仲良いし、彼女要らんのかなぁって…」
「べ、別に俺たち変な意味で…っ!」
「あっ、いや分かっとるよ!分かっとるけど、あんまりにも仲良えから、あはは」

佐倉さんが手を振って笑う。

「まあ、有り得んよねぇっ。そんなこと!さすがに男同士はねぇ…あはは」

自分で否定したくせに、その言葉に少しチクリとする胸の痛み。さっきからチクチク痛むこの痛みは何なんだ。

有り得ない。そう、俺達がそんな関係になることは有り得ないはずなんだ。
だから侑が俺のこと好きとか、そういうのも傍から見ればおかしいんだ。

佐倉さんに合わせて得意の愛想笑いでへらへらと笑い、もやもやする感情に蓋をする。

「びっくりした〜、いきなりそんなこと言うから」
「ごめん、長いこと片思いしてると何か色々疑心暗鬼になってきたりして…」

悩ましい表情の佐倉さんに手を振って大丈夫と答える。

「行動する勇気もないのに考え事ぱっかりしてしてまうし…」

「俺もそれはよく分かる。自分から行くのって中々難しいよね」
「よなぁ」
「でも佐倉さん、侑に話しかけたり、バレンタインもあげたりしてて、行動してるじゃん。すごいと思うよ」
「そんなん…女子は皆しとるもん」

納得いかないような顔をしている。

「佐倉さん、周りの女子と比べても全然負けてないよ!?」

佐倉さんがちらりと俺を見上げた。

「…みょうじくんは彼女とか…おるん?」
「うぇっ、彼女?!いないいない、」
「好きな人とかは…?」
「好きな人も…いないな…ほら、俺こんなだし、色々見込めないっていうか」

自分を指差してはははと笑うと佐倉さんは首を振った。

「そんなことないよ、みょうじくん優しいし、褒めてくれるし、話しやすいし、普通に好きになる人おるよ」

「ええっ?!初めて言われた…俺には彼女とか絶対できない、なんて言われることの方が多いし…実際寮とかでもいわれてるし…」

「え〜!優しいってだけでもポイント高いよ?」
「まじか…」
「ふふ、男子寮楽しそうやなあ、遊んだりするん?」
「あー、休みの時にユニバ行ったりとか、カラオケとか、ラウワンとか…」
「楽しそうっ、ええなぁ。羨ましい」

男子に生まれたかったなんて言う佐倉さんに笑いながらジュースに口に含んだ。
会話が弾んできて、内容も赤裸々な話になってくる。

「目が合っただけで浮かれてしまうとか、ほんま重症やねんな…」
「でもそれ分かる」
「ほんま?」
「中学の時に、うわ、俺のこと見てるかなって思ってたらその後ろのイケメンの先輩見てただけだったりして撃沈したことある」
「なにそれっ、もう笑わせんといて〜」

クスクスと笑う佐倉さんに俺も笑顔になる。

「みょうじくんって面白いなぁ」
「関西に引っ越してきてノリ良くなった気はする。周りに揉まれて…」
「ふふふ、」

佐倉さんは侑のことが好きなのに、俺の言葉で笑顔になる姿に胸のあたりがとくとくと温かくなる。

今日はどうも思考がおかしい。

佐倉さんの片想いの気持ちを聞くとちくりと痛んだり。
侑と俺がそんな関係有り得ないよね、と否定されるともやもやしたり。
笑う佐倉さんを見ると胸の当たりが温かくなったり。

感情が揺さぶられて、渦にでも巻き込まれたみたいだ。


ドリンクと軽食がなくなった頃、席を立ち、店を出た。

「みょうじくん、今日はありがとう。ちょっとスッキリしたわ」
「それなら良かった。また、いつでも」
「バイバイ」
「じゃ、」

スカートを翻して帰っていく佐倉さんの背中を見つめる。

侑に恋する佐倉さん。
スカートから伸びる白い脚、小さな背中、細い首、風に靡くさらさらな髪。

俺とは違う。
自転車で落車して傷もある腕、短い髪、骨張った体。

比べて違うのは当たり前のことなのに。何考えているんだろう、と思考を強制終了させて男子寮への帰り道を歩いた。


***


男子寮に帰ってきて、晩御飯を食べようと食堂に入ると治達がテーブルを囲んでいた。

今日の献立のチキン南蛮とごはん、味噌汁、おかずをトレーに乗せて隣が空いている治の横に座る。 侑とは斜め向かいだ。

「おつかれー」
「おふはれぇ」
治が頬張りながら返事する。

「おつ」
短めに返してきた角名とは違い、侑はジト目で見てきた。

「おうおう、俺らが練習しとる間、お楽しみやったんやなぁ?」

「……」

侑の顔を見る。同性として羨ましい顔の良さ。
女子が惚れるのも分かる。

佐倉さんは侑が好きだ。恋をしている。目が合ったら嬉しいし、話せたらもっと嬉しい、と。そんな気持ちを聞いてしまった今では、何だか複雑だ。

侑は多分、俺のことが好きで、俺は…。

目が合って嬉しいと思うこともないし、話せたらって毎日話してるし…。今も煽るようなこと言ってくる侑に反発心さえ生まれているし…。

佐倉さんの言う『好き』とは違う。

考え込んでいると侑が訝しげに見てきた。

「…なんや返事せえや」
「……うん…」
「楽しかったか聞いてんねや」
「…楽しかったかと言えば楽しかった…」

侑の箸がチキン南蛮を直撃した。皿に強く当たる音が響く。

侑の周りの温度が下がった気がして、目の前に座る角名が机の下で俺の足を蹴ってきた。

おい、蹴るなと視線を送るも、角名はすました顔で味噌汁を飲んでいる。

「つか、今日はただ相談にのってただけだからな」
「相談って何の相談や」
「好きな人がいるっていうから、その相談。俺は『第三者』として、聞いて意見しただけ!どーせ俺には甘酸っぱい恋も、片想いも、何もないですよ!非モテで悪かったな!」

これで満足か、と侑を見ると 恋愛相談?なまえに?なまえが一番恋愛相談いるんちゃうん?誰かこいつに告白の仕方教えたれや、とブツブツ言っている。

「ツムぅ、良かったな」
「は?何がや?別に俺は何とも思てへんし」

俺の返事に満足したのか、さっきまでの雰囲気の悪さは何処吹く風で消えていた。

「そんなん3時間前にはよ言えや。俺の3時間返せっ」
ジャイアンの理不尽な主張に白目を剥きそうになる。

「まさか今日の練習…」
恐れたことになってないよな、と角名に視線を送る。

「今日は我慢してた。たまに毒吐いてたけど」
「…気分で人に当たるの良くないと思いマース」

斜め向かいから侑を批判すると「誰のせいや!」と怪獣が火を吹くが如く怒ってプンプンしていた。

そんな侑が面白くて笑う。
俺の言葉でコロコロ変わる侑が面白くないわけがない。

笑う俺に、侑がむっとして黙り込んだ。侑の視線を感じながら、チキン南蛮を咀嚼する。

こんな熱い視線を送られて気づかない程、ばかじゃない。

多分、今侑を見たら目が合うはず。ちらりと目だけ侑に向けるとバチッと交差した。

ほらな。
お互いに咄嗟に目を逸らす。


佐倉さんの甘酸っぱい『好き』を知りながら、侑のぶつけてくるような『好き』を知る俺はどうしたら良いんだろうか。

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