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(宮 侑)

他人から何を言われようと、どうでもいいし、自分には関係ないと思っていたのに。

放課後、職員室に呼び出しがあり、体育館に戻る途中、教室で佐倉サンと話しているなまえを見つけた。

佐倉サン、遊ばんといて、て牽制しとんのに懲りんなあ。
なまえが誑かされていたら、と思うとスルーするわけにはいかないと思い顔を覗かせた。
押しに弱いし、チョロいなまえならすぐに勘違いする可能性もある。

ある種のパトロールの気持ちで「なんしてん」となまえを見下ろすと、俺に言いにくそうにまごついた。

ほう、何の話しとったんかなあなまえクンは。

問い詰めてやろうとした時、佐倉サンがなまえを遮って笑って見上げてきた。

「みょうじくんの好きなタイプの話しててん。みょうじくん、小柄な子ぉが好きって」

……は?

佐倉サンの目を見る。
強調された小柄な子、という単語。
まるで お前じゃないと、言われているように聞こえて真っ黒な感情が背中を這い上がってきた。

佐倉サンの笑顔が俺の神経をさらに逆撫でした。
小柄とは正反対のお前には到底敵わないだろ、とでも言いたげなその目。

無条件にその条件をクリアしている佐倉サン。
拳を握りしめた。

…俺、佐倉サンに遊ばんといてって言うたよな?
釘刺したよな?
仲ええんよ、ってちゃんと見せたよな??
なまえを誑かしたらあかんねんで、て示したよな?
それなんに、その話をなまえにして何がしたいん?

なあ、「…楽しい?」

佐倉サンの顔色がサッと変わった。
もう戻るわ、と告げて体育館に向かう。

治によく言われていることを思い出した。『お前の何とも思ってない言葉も相手には毒やねん、刃やねん。もっとオブラートに包め!』

そうは言われても、今のは俺悪くないし。
相手が女子やろうが、なんやろうが関係あらへんやろ。
俺に喧嘩売っとる時点で同罪や。

なまえが小柄な子ぉが好きやからって何やねん。知っとるわ、んなこと。

アイツの好きなタイプからかけ離れてんのは百も承知。
せやから落としたろう、て押してんのに。

小柄な子ぉがタイプねぇ…。
はぁ、腹立つ。
どうにもならんことを、言うなっちゅうの。
なまえにも佐倉サンにもモヤモヤとする。


体育館に戻る前に、渡り廊下のところで女バレのキャプテンが声をかけてきた。

「あ、ミャーツム〜」
「なん?」
「明日、男バレもオフなんやろ」
「うん」
「△○と遊ぶんやけど、一緒に行かん?」

一年の時からお互いバレーボール部のレギュラーとして上を目指していたため、仲は悪くはない。

明日、なまえと遊ぶつもりだったが、今のムシャクシャした気分ではなまえへの当て付けに女バレメンバーと遊んでやろうかと考えた。

押してダメなら引いてみろって言うやんか。

「ええよ」と返事をして、遊ぶ約束を取り付けた。体育館に戻ってボールを触りながら片割れの横に行く。

「サム、明日女バレメンツと放課後遊ぶで」
「…はぁ?何かあったんか?」
「別に」
「なまえは?」
「知らん」
「……絶対何かあったやろ」

面倒くさそうな顔をする兄弟を置いてサーブ練に加わった。

練習が始まれば、モヤモヤした気持ちもムシャクシャした気持ちも全部遮断されて球を打って、上げることだけに集中できる。

ひたすらボールを追いかけて、汗を流した。



***

部活が終わって男子寮に帰ったあと、なまえの部屋でゲームをしていると明日のことについて声をかけられた。

なまえが当然のように明日の話をしてくる。

そらそうや。
俺が全部予定空けとけって言うたし。

そんななまえに向かって、女バレメンバーと遊ぶから無理と伝えた。

どんな反応をするだろう、と思って。
傷ついた顔でもすればいいのに。俺の事で心痛めばいいのに。

そう思ってなまえを見たら、特に何も思ってなさそうな顔をしていた。
ふうん、じゃあ…いいや、なんて答えが返ってくる。

何なん。俺が誰と遊んでも何とも思わんってか。ムカつく。ムカつく。ムカつく。

全然脈ナシやんけ、クソが。とコントローラーのボタンを強く押した。

22時半になまえの部屋を出て自室に帰る。
治がスウェット姿で漫画を読んでいた。

「腹立つ…」
「あ?」
「好きなタイプが何やねん、アホちゃうかっ。好きになったら、もうそれは好きなんや。タイプもクソもあるかっっ」

吐き捨てるように心の中のモヤモヤを治にぶつけた。

「いきなり何言うてん」

怪訝な顔で見てくる兄弟に「寝る!」と告げて枕に顔を埋めた。

「自己完結すなや…はぁ、照明きるで」
「ん!」

怒ったような返事になったがそれを治は気にすることもない。

暗くなった視界の中で佐倉サンの言葉がぶり返した。
「小柄な子ぉが好き、って」
自分とは正反対、性別さえも違う。周りから見ればそれが普通なんだろう。なまえの隣に来るのは女子。

なまえにもし彼女が出来たら。小柄な女子を選んだら。その女子がなまえの隣にいたら。
想像しただけで嫌や、という感情でいっぱいになる。
おかしいか?俺がアイツの隣におったらおかしいんか?

モヤモヤした気持ちのまま夢の中に落ちていった。


***

治に叩き起されて目覚めは最悪だった。
それでもボールには触りたくて登校し、真っ先に体育館に向かって軽く体を動かした。

教室に入りなまえに朝の挨拶をした後、女バレキャプテンが声をかけてきた。
話が終わってなまえを見ると、下を向いて携帯をいじっている。

ちっとは反応しろや…。

何の反応もないなまえにモヤモヤしているとなまえが角名と放課後の話をし始めて「は?」と思わず声が出た。

なまえは角名と遊びに行くらしい。
なんそれ。
角名と仲良くお出かけかいな。

それからもモヤモヤはずっと続いた。
こっちから話しかけんと話さんし。何やねん。引いたら引いた分だけ遠ざかっとるやん。

授業中のグループワークでも普通に話すのにどこか距離がある。そのまま放課後になって席を立つ時になまえを見ても、目が合うことはなかった。

なんやこの空気。自分が作ったとはいえ、あまりに平然としているなまえに腹が立った。

知らん。もう知らんし。
投げやりな気持ちで治、女バレメンツと一緒に遊びに出た。

頭の片隅では角名となまえの行方が気になりつつ、普通に楽しむことはできた。

「え、ミャーツムこれ好きなん?」
「前これ買って食ったけど、美味かったで」
「え〜、すごい色やん、これっ」

女子2人が笑いながらポップカラーのカップケーキを指差す。カップケーキ専門店のメニュー表の前できゃっきゃと騒ぐ女子を見て、こういうの好きよなあ。とぼんやりと考える。

ああ、この間なまえに水色のカップケーキ無理やり口に入れたら泣きそうな顔しよったな…。
あの時の顔、おもろかったな…、口に入れたら案外美味しかったようで「あ?美味いじゃん!」とか言って食べとったの、アホ丸出しやったな。

「ツム」
「んあ?」
「先行くで」

歩き始めていた3人に気づいて後に続く。
買い食いしながら歩いていると制服姿の高校生を多く見かける。

治と一緒にいると視線を感じることは多い。他校の生徒の視線を感じながら、ふと目を周りに走らせた時。

車道を挟んで反対側の歩道に角名となまえの姿を見つけた。向こうも気づいてるようでなまえと目が合った。

体格差のある角名となまえの姿を見て胸がザワつく。角名がなまえに何か話しかけた後、なまえの肩に腕を回して歩き始めた。

は?

角名となまえを視線で追う。角名が一瞬、俺の方を見てふっ、と笑った。それはコート上でもよく見る相手を煽るようなあの笑み。

…はぁ?!どういうつもりや?何の顔や。あれ。え、もしかして角名も…なまえのこと…。

「ツム?お前さっきからなに腑抜けとんや」
「……いや、それはさすがにないやろ…アイツやで」
「何ブツブツ言うとんや、行くで」

あかん、ほんまに角名がなまえのこと好きなら絶対阻止せんとあかんやろ。
男でも女でも俺の邪魔する奴は潰したるて、決めたんや。


その後は気持ち半分はどこかに行っているような気分で過ごした。男子寮に帰ってきて早々に角名の姿を探す。

廊下に居た後輩に声をかけた。
「なぁ角名見た?」
「いや、見てないっす」

どこにおんねや…部屋行ってもおらんかったし…。

考えられる可能性は一つ。なまえの部屋に向かってドアを叩いた。

ドアを開けて俺を見上げたなまえに今日やっとまともに目を合わせた気がする。

「どした…?」
「角名おるか?」
「いるけど…」

部屋を覗くと角名がコントローラー手にしてゲームをしていた。
「角名、ちょお来い」
「無理。今いいとこ」
「あかん、待てん!」

部屋に入り込んで角名を引っ張り出す。動こうとしない図体のでかい体は重たい。

「ちょ、何」
「はよ!来い!」

部屋の外に連れ出して廊下の陰に入る。

「……角名。俺はお前のためを思って今から話すで」
「…なに」

何が始まるんだと面倒くさそうに顔を顰める角名の肩を掴んだ。鬱陶しそうに目を細める。

「あんな、俺はオススメせんわ。やめた方がええと思う。どこがええん?特別整っとるわけでもないし、影も薄いし、ふっつうの奴やん?変な笑い方するし、アホやし、たまに殺人鬼みたいな顔しとるし、ホンマにおすすめせんわ。お前にはもっとええ奴がおるって」

やめとけ、という意志をこめて角名を見ると俺の顔を数秒見た後「はぁ?何の話」と首を傾げた。

「何って、角名、なまえのこと…好きなんちゃうん」

「……はぁぁ?なにそれ。んなわけないじゃん。どこをどう見たらそうなるわけ」
「だって、おま今日肩組んで歩いとったやんけ」
「それ言うなら侑の方が毎日してんじゃん。アホらし」

ゲームの続きがしたいとなまえの部屋に帰っていく角名の背中を見る。

「なんや…ちゃうんかいっ。はぁぁ、焦って損した」

どいつもこいつも分かりにくいねんっ!
くそっ、何で俺がこないに走り回らなあかんのや!

目指すべき姿は、惚れさせて『好き』と言わせる、そんな男になるはずなのに。
これが惚れた弱みというやつなのか。

俺ばっかり…納得いかへんわ!
角名の後を追ってなまえの部屋に入り込んだ。

「俺もする!」
「はぁ?俺が買ったんだぞ。このゲーム」
「なまえがゲーセン勝負で負けたからね」

ニヤリと笑う角名になまえが悔しそうに顔を顰めた。

なまえの部屋で3人でゲームをした後、角名は風呂に入るために出ていった。

2人きりになった部屋でなまえが「侑ももう戻れよ。俺課題したいし、」と暗に帰れと言ってきた。

「…やればええやん?」

俺帰る必要ある?別に邪魔せんし。

「っ、何だよ避けたと思ったらズカズカ入ってきたり…。自分勝手すぎるんだよっ。今日だって予定空けとけとか言って自分は女子と遊んで…」

押してダメなら引いてみろ作戦も失敗に終わった俺は吹っ切れていた。

「はん、俺が誰と遊んでも何とも思わんくせに。どーせ、女子と遊べてええなー、とか思とったんやろ」

「親友なら侑クンと遊べんで寂しいなあ、くらい思えや」と本音を吐いた。

「…思ったし」

「…は?何て?」

僅かに聞こえた小さな声に耳を疑った。聞き間違いか?今『思った』て言うたよな?

「もう、まじで、戻れ!!」

キレ気味のなまえが呆けた俺の腕を引っ張ってきた。
いや、ここまで来て帰るわけないやん。
テコでも動かない俺になまえはもう嫌だ、と呟いている。

「何?もう一回言うて?」
「帰れ」
「無理」
「俺も無理」
「無理が無理やねん」
「ぁぁあっ!治ぅ!回収してくれ!こいつを!」

上を見上げるなまえの腕を掴む。なまえが肩を揺らした。
「何て、言うた??」

「…言ったら帰るか?」
「うん」
「…ホントだな。じゃあドアの前に立て。1回しか言わん」

取引か…なかなかやりよるな。条件を飲むために言われたとおりドアの前に立った。

「で、俺と一緒に遊べんで寂しかったんやろ?」
「…その自信はどっから来るんだよ、腹立つぅ」
「ほら、はよ言うて」
「……」
「はよぉ」

見下ろすなまえは口をもごもごと動かしている。目がそわそわと動いて思わず笑いそうになった。
ああ、やっぱ距離取るとか性にあわんな。押してナンボやろ。

早く言えと見下ろして圧をかけているとなまえが口を開いた。

「…お前の隣が、俺じゃなくて…ズキズキした…」
「は…」

ニヤケていた顔から表情が抜け落ちるのが自分でも分かった。
俯いたままのなまえにトン、と胸を押されて部屋の外に押し出される。
すぐさま勢いよくドアを閉められ、鍵をかける音が聞こえた。

……え???え??なんこれ…夢??
今の…。

頭の中で繰り返して、なまえの部屋の前で口を押さえた。

「それは…あかんやろ…」

顔が熱い。今日は眠れそうにない。

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