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稲荷崎祭まで残すところあと数日。

3年生は特に高校最後の文化祭を良いものにしようと皆一生懸命だった。

居残りでギリギリまで準備することも多く、俺も出来ることは手伝っていたため、帰るのも遅くなっていた。

やっと男子寮に帰ってきて、練習が終わったバレー部と同じタイミングで食堂の晩御飯を前にしている。

「もう明後日か〜早いよな」
「後でステージの衣装着てみんとな。ツム、お前借りたスカート履けるんか?破んなよ」
「は?まじで?スカート?ちょ角名、後で部屋見に行こ」
「侑の女装とかウケる」

侑と治は食べるのが早くて、今日の晩御飯である牛丼のお皿は綺麗になっていた。

角名と俺はゆっくり食べながら4人で雑談をしていた。味噌汁を飲んでいると侑がいきなり口元に手を当てて咳払いをした。

「…ブンッ、ツク、ブッ、ボッ、ボッ、ブン、ブン、ツクツク」

いきなり何をはじめたのかと侑を見る。
体でリズムを取りながら空気を噴き出して音を出している。それを見た治が同じように無表情でブンブン言い始めた。

無表情の双子がいきなり隣でボイパを始めるものだから油断していた俺は盛大に噴き出した。

「ぶはっっっ!!!」

思わず飲んでいた味噌汁が口の端から零れる。

「ゴホッ!いや、ちょ、ひぃっ、うぇっ、気道に、ごほっ!くくくっ、ひひひっ、ひぃっ、」

苦しいのに笑いが堪えられなくて辛い。震える体に呼吸がままならない。
侑と治は体を揺らしてブンツク言っている。角名はというと顔を背けて肩を震わせていた。

「おまえらっ、、ハモんな…っ!それ、昨日のっ、アカペラ番組見たから、だろっ、ひぃーっ笑い死ぬっ!」

昨日の夜、4人でレクルームのテレビでアカペラの勝負番組を見たばかりだった。
喉どうなってんだよ、すげえ〜って言いながら見終えたのに、翌日にこんなことしてくるもんだから、完全に影響されているのが分かる。

「どや?出来とるやろ?」
「ブンッ、ブンッ、」
「治、やめれっ、腹痛いっ!何お前ら、練習したんかっ?」
「昨日からずっとやってんねん」
「ブンツクッ」
「くくくっ、治それで返事すんなって」

机に突っ伏して肩を震わせる。部屋の中でボイパの練習する双子を想像したらじわじわとくる。笑いすぎて辛い。

「まじで!笑わすな!食べてる途中は卑怯だろ!」
「噴いたなまえが悪いやん。俺らのせいにされてもなぁ」

侑と治がケロッとした顔で頷きあっている。双子の事だから絶対味噌汁飲んでる途中で狙ってやってきた可能性がある。

ああ、もう本当に…!

残っている味噌汁のお椀に口を当てた。

「………〜〜っ、ふっ…」

お椀を持つ手が震える。

「あかん、なまえツボっとんぞ」
「「ブンツクッ、ブンブン、ボッ」」
「やめ、やめろよっ味噌汁飲めないだろ…っ角名!とめろっ」
「ふっ、くくっ、無理っ…まじキツイ」

ダメだ、角名も俺も笑いすぎて肩の震えが止まらねぇ…っ!

食堂でご飯を食べている2年や1年の視線が痛い。
(先輩ら、何であんなに笑てんねん…)そんな声が聞こえてくる気がする。

「だはぁぁっ!!ほんまにやめっ!」
「俺ら何も悪くないやん、なぁサム」
「そやで、なまえ幸せなやっちゃなぁ。こんなんで爆笑できるとか羨ましいわぁ」
「うるせ…お前らが笑わしてくるんだろ…っ」

一頻り笑い終わった後はかなり体力を使った気分になった。深呼吸するとまだ肺が震えそうな感覚に双子にしてやられた、とまた噴き出しそうになる。




「はぁーー、笑い疲れた…」

双子の部屋に集まった俺達は稲荷崎祭で使う舞台衣装を囲んだ。

「サム、このスカート誰に借りたん?」
「3組の〇〇さん」
「ちょお、なまえ履いてみ」
「何で俺なんだよ」
「俺ら文化祭で着るし。一番小さいのなまえやん。ビジュアル的に一番まともやろ」

タッパのある俺らよりマシやん。そう言って渡されたのは稲荷崎の制服スカート。男子でも着れるように大きいサイズを借りたらしい。

渋々その場でスカートをはいてハーフパンツを脱ぐ。

「うっわなんかスースーするっ、これは危険!」
「何やねん危険て!笑かすっ!」

侑が腹を抱えて笑う。角名も高みの見物、とニヤニヤしている。

「上のTシャツも制服に着替えんと完成せんやろ」
「制服のシャツ今ないし」
「俺のシャツ着ればええやん。ほれ」

侑のワイシャツを投げられてキャッチする。はぁ、とため息をはいてTシャツを脱いだ。

「おい、恥ずかしげもなく上脱ぐなや。全然あかん。やり直し!」
「はぁ?!恥ずかしいもクソもあるか!」

部室でも着替えるし、男子寮で共同生活をしていれば、着替えるのに恥ずかしいという感覚も薄れてもおかしくはない。
侑のワイシャツを羽織ってボタンをプチプチと閉めていく。

「ほら完成」

出来上がったのはサイズの大きい侑のワイシャツを着て袖口からは手が出てないスカート姿の俺。

「うーん、微妙やな」
「全然可愛くない」
「目が腐りそうや」
「お前ら…着せといて言いたい放題…!特に最後!侑、お前っ」

床に座る3人が並んで俺を見上げてそれぞれ感想を言ってきた。角名は携帯を構えている。

「スカートはインやろ」
「くっそ、注文が多いな!」

治の指摘にワイシャツの裾をスカート中にグイグイと入れ込んだ。

「スカートもっと短く!」
侑があと10cmなんて言ってきた。

「は?!これぐらいだろっ」
「いや、女子はもっと短いで」
「その短さは陽キャ女子達の長さな!真面目な女子はこれぐらい…」
「ええやん、自転車部のジャージもっと短いやん」

ほら、日焼けの跡のとこまで上がるやろ、と侑の手が俺のスカートを捲ってきた。指先が太ももに触れる。

「ぎゃあああっっ!変態!変態!」
必死でスカートを押さえて抵抗する俺に侑が「どこが変態なんやっ!」と憤慨する。

「ぶっ、ウケる、何でスカート履いたら照れるんだよ」
「…おい、それ言うなら角名もスカート履けよ?バレー部の丈まで上げろよ?」

お前らの丈は俺らのサイクルジャージよりも短いだろ?ショートもええとこのショートだろ?!

もう1着制服のスカートを手に取って角名に突きつける。

「はぁ?何で俺。絶対やだ」
「じゃあジャンケン。3人の中で負けた奴がこれ履く」

双子がニヤリとした。
「やだ」
「あ、出さなかったら強制だからな、じゃーんけーん、」

俺の掛け声で三人が手を出した。角名は嫌そうな顔で手を出している。ニヤリと笑いそうになりながら…「ポン!」

「「うぇーい!」」
「さいっあく…」
「はーい、倫くんどうぞ!」

満面の笑みでスカートを角名に渡す。深いため息を履いてスカートを受け取る角名に3人で悪い顔をする。

スカートに履き替えた角名が俺達の方を振り向いた。

「ぶっ!!!倫ちゃん!!」
面白くて携帯のカメラでパシャパシャ撮ってやる。虚無顔の角名にスカートはシュール過ぎて3人で爆笑した。

「角名ぁ、バレー部の丈そんなもんじゃないだろ」
角名のスカートに手をかけると腕をものすごい力で握られた。

「いだだだだっ!!おい!怪力!!」
「触るなアホ」

「ちょっとバレー部のウェア貸して、どれくらいの丈か確認するから、って、ちょ、お前らまで何でスカート履いてんだよっ」

ふと双子を見るとなぜか2人もスカートを履いている。制服ではなくて私服のスカートだ。何着か借りているらしく治はスリットがはいったロングスカート、侑はフリフリのスカートだ。

「破壊的に似合ってねえ…っ、お前ら人のこと言えないからな!」

「なあ、俺割と美脚やない?」
侑が自分の脚を見せつけてくる。

「いらん!見せるな!」
「なあ、絶対領域ってここらへん?」
「ツムちゃうで、もっと上やろ」
「なまえも、もっと上げろや」

ニヤニヤする侑の目が怖い。
必死でスカートの裾を押さえる俺とケラケラ笑いながら捲ってくる侑の手との攻防戦が始まる。

カオスすぎる室内はそこから試着のオンパレードになった。
最終的にはバレー部のユニフォームまで着せられた俺は慣れないショート丈に非常に恥ずかしい思いをした。

「自転車部のピッチピチの方が恥ずいやろ」
「いや、この丈の方がはずいわ!」
「日焼けがくっきりしとんなぁ」
「ぎゃあっ、触んなっ」

全然バレー出来なさそう(笑) という角名の感想に出来なさそうじゃなくて出来ないんですぅ、と返してやる。


相変わらずアホなことをしている男子寮の一室は賑やかだった。

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