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稲荷崎祭当日。

朝早くから準備している生徒も多い。
校内に展示されている美術部や書道部、手芸部等の文化部の作品を見ていると三分が寄ってきた。

「みょうじ〜。何しとん」
「おー、おはよ。始まる前に色々見とこうかなあって。ぶらっと回ってる。三分は準備?」
「最終チェック〜。もう終わったけどな」
「茶川は?」
「別棟の3階が持ち場やねん。今行っとるわ」
「めっちゃ端じゃん」
「せやろ、人少ないしゆっくりできるわ〜て言いよったわ」
「ふはっ、サボる気満々な」
「なぁ、後夜祭の後の打ち上げまでに食べ物残っとるやろか…残ってますようにって祈ってんのやけど…」

三分が言っているのは後夜祭のステージパフォーマンスと片付けが終わった後に各クラスで行われる打ち上げのことだ。
そこで売れ残りの食品を各組にお裾分けして食べたり、打ち上げと称したお菓子パーティがある。

「残ってなくても菓子パやるんだろ?」
「そやけど、食べたいやん。俺3組のお稲荷さん狙ってん」
「俺も〜あれは絶対食べたい。北さんちのお米だし」

「バレー部の主将やんな。夏休み、バレー部と遊びに行ったんやっけ?」「そうそう、」そんな会話をしながら三分と2人で教室に向かう。

教室内は準備で慌ただしく、チュロスの包装担当が足りないと声を上げていた。実行委員の女子に声をかける。

「手伝おうか?俺と角名、手空いてるし」

勝手に名前を出された角名が視界の端で余計なことを言うなという視線を送ってきたが無視した。

実行委員は俺と角名を一瞥して唸った。

「…何か2人とも雑そうやし、ええわ!売り子に専念しといて!もうすぐ終わるし!」

「えっ、雑…?!」

ショックを受けながら角名の元に戻ると「どんまい」と笑ってきた。

「手伝いを申し出たのに心に傷を負うとは…。え、俺って雑じゃないよな?ちゃんとしてる方だと思うけど…」
「いいじゃん、手伝い回避できたし」

サボり癖を発揮してくる角名に呆れる。
侑は、というとステージの最終打ち合わせで治と一緒に体育館に行っていた。

「今日の侑と治のコント楽しみだな。侑、さっき『笑いで窒息死させたる』とか物騒な意気込み言ってたぞ」

「先輩達も来るらしいし張り切ってんじゃない?」

「お、赤木先輩と大耳先輩、北さんだっけ?」

「うん、尾白さんは練習あって来れないからツッコミ不在で大丈夫やろかって赤木さんが言ってたらしい」

「ははっ、まぁあの二人なら大丈夫だろうな」

俺たちも売り子兼清掃係として準備しながら高校最後の文化祭の始まりを迎えた。


***

例年通り、稲荷崎祭の来場者は多く、始まると早々に校舎の中は賑わってきた。

生徒の家族や他校の生徒、稲高に入学を検討している受験生、地域の人々、色んな人が来ていた。
その中には卒業生もいるわけで…。

「秋田部長っっ!」

チュロスの看板を持って歩いていると、私服姿の秋田部長と自転車部の先輩達を見かけて駆け寄った。

「おう、みょうじ久しぶりやなぁ」
「っす!あっ、チュロス寄っていってくださいね〜。三分と茶川には会いました?」
「会うた会うた、俺と同じ大学目指してんねやろ?入ったら覚悟しとけ言うたわ」

しごいたるで、なんて笑いながら言うその姿はいつも通りの秋田部長で口元が緩む。
日焼けした肌は秋田部長も大学の自転車部で毎日走り込んでいる証拠だ。

「ふふ、茶川、どんな顔してました?」
「笑いながら顔が固くなっとったで。元部長がそんな弱腰やあかんやろ!って喝入れといた」

悪い顔をする秋田部長と笑い合う。

「みょうじは東京やろ?走りやすい道、開拓してかなあかんなぁ」

「そうですね、とりあえずは新生活慣れること優先で、慣れたら社会人チームにでも練習参加出来たら、とか思ってます」

「アマでもプロ並の強い人ぎょうさんおるからなぁ。まぁ関東なら柴とも近くなるなぁ」

「そうなんですよ、この間柴さんにも話して…」

先輩達と軽く立ち話をした後、昼前になりステージのコントバトルが始まる時間が近づいてきた。

販売ブースに戻るとステージの盛り上げ隊として手の空いてる人はステージに行って良いと言われ、角名と一緒に体育館に向かう。

「角名!久しぶりやなぁ!」
「赤木さん、大耳さん、っす」

体育館に向かう途中で角名に声を掛けてきたのはバレー部の卒業生だった。

「お疲れ様ですっ」
角名の隣で先輩達に向かって頭を下げる。

「お、みょうじも一緒か。相変わらず侑に絡まれとるんか〜?」
「相変わらずって!まぁアイツのジャイアニズムはますますひどくなってますが… 」

赤木先輩とは少ししか話したことはないが、話しやすい先輩であることには違いない。

『相変わらず絡まれてるか』なんて俺は先輩たちから見てどんな印象を持たれているんだと気になってしまう。


「嫌な時はちゃんと嫌って言うんやで」

スっと落ち着きのある声が後ろから聞こえて振り向くと北さんと銀が立っていた。

「北さん!」
「まぁ…侑には口で言わんと分からん、てみょうじくんが一番知っとるやろうけどな」

北さの口角が数ミリ上がった気がしたのは俺だけか。

「信介、遅いで。始まるわ」
赤木先輩の言葉に北さんが瞬きをした。

「堪忍な、先生に挨拶してきた。ほんでさっき銀と合流したんよ」

「北さん、後で治の店主姿、見ていってくださいね!あいつめっちゃキメてましたから!」
「ふ、想像できるな」

北さんと銀の会話に俺も微笑みながら皆で体育館に向かう。

角名は大耳先輩とブロックがどうとか、スパイクがどうとかバレーの話をしていた。尊敬している先輩だからか角名の頭に見えない耳がついてピョコピョコと動いている気さえする。
嬉しさが滲み出ている表情に角名も後輩面をして可愛いところあるじゃないか、と思った。


「いやぁ今日はこれがいっちゃん楽しみやわ。普通にウケるんやろうけど、アイツらがスベったらもっとおもろいよな」

「赤木さん、それはなかなかのドSっすよ」

銀が顔を青くしている。北さんは楽しみやなあ、と真顔で言っているが心の内は双子に期待しているのだろう。

「侑も治もてっぺんとるって張り切ってましたよ、野球部には負けられんって」

「あ〜野球部ってあのバッテリーやろ?去年も目立っとったよなぁ。まぁ、目立つって言うても、うちの双子に比べたら負けるけどな」

そう話す赤木先輩に皆頷く。稲荷崎において双子の強烈な個性に勝る人はいないのだ。

体育館の中にはすでにたくさんの観客が入っていた。薄暗い照明にステージがライトで照らされている。

『え〜、それではお待ちかねの!稲荷崎祭コントバトルを開催します!!勝者には食堂のランチチケットを贈ります!では、参加コンビの紹介をしていきまーす!!』

文化祭実行委員のアナウンスで歓声が沸き起こる。1年から3年の自信ある挑戦者達が紹介されていく中ですでに笑いが生まれている。

『次は3年生の紹介です!まずは宮ンズこと、宮兄弟!おかんと息子に扮して盛り上げるそうです!ばっちり!見た目からもう出来上がってますね!』

「出来上がってないやろ!あんなガタイのええおかん、どこにおんのや!ガンダムやん!」

銀のツッコミに俺と角名が噴き出した。確かにステージ上にいる侑はウィッグを着けて婦人服を着ているものの、体格の良さは隠せていない。

「おおっさすが銀、今日はアラン不在やし、アランの代わりにツッコミ頼むで!」

赤木先輩が親指を立てて、銀の肩を叩いた。

「てか、あの格好だけですでにウケるんだけど」

角名の言葉に「侑のおかん姿、衝撃やな」「あのスカートの長さはまじでおかんやろ。あのロングスカートと白の靴下はおかんやわ」「あいつ、すでにおかんモード入ってない?」と口々に話す。

北さんと大耳先輩は孫を見守るような雰囲気で「侑も治も3年か、早いなぁ」なんて言ってステージに目を向けている。年齢は一つだけしか違わないはずなのにまるで熟年夫婦のようで俺はこっそりツボって肩を震わせた。



始まったコントバトルはどのコンビも面白かったが侑&治ペアには腹がよじれる程、笑った。会場のウケも上々だ。

まるで宮家のお母さんを思い出すようで、笑いを堪えようとすればするほどに笑えてくるから仕方がない。さすがあのお母さんあっての双子だ。

他の参加者も間の取り方とツッコミが上手いなぁとお笑いレベルの高さに関心する。

「野球部のバッテリーも上手いな〜、面白い」

「いや、でもアイツらはネタが野球ネタやんか。治らは親子ネタやし、共感できる層が多い分、有利やろ」

突如、お笑いの分析を語る銀に角名と笑った。

「分析、えぐっ。確かに俺、野球のルール曖昧だから、よく分かんないとこもあったわ」
「なまえさ、スポーツのルールわかって無さすぎじゃない?」
「正直なところ、自転車以外あんまりわかってない」

バレーについては侑にいつも叩き込まれてるからまだマシな方だけどな、と返す。

コントバトルが終わって体育館入口に投票箱が設置された。もちろん親友の勝利を祈って双子コンビに投票した俺達の所に、双子が走ってきた。

「北さん!赤さんっ!」
「大耳さん!どうやったっすか?!」

手応えがあったのか笑顔の双子に先輩達が声をかける。

「侑、治。お疲れさん、面白かったで」
「おかん、やったなぁ」

北さんと大耳先輩の言葉に侑達が嬉しそうな顔をする。

「銀のツッコミも冴えとったしおもろかったわ!あっ、3年メンツで撮ったるで。5人ともそこ並びや、」

赤木先輩が角名に携帯貸して、と手を出す。角名が「あざす」と携帯を手渡した。

侑と治を中心に3人で囲む。背の高い4人に俺は埋もれてしまうため、侑の背中に飛び乗った。

「ぐっ、おま、急に乗んなっ」
「はいはい、あちゅむくんカメラ目線〜」

体育祭の時にやられたお返しで、飛び乗った俺は侑の首に腕を回して、両頬をむにりと挟んでやる。

「ほな、撮るで〜」
赤木さんのかけ声にカメラのレンズに5人で顔を向ける。笑顔を作ろうとした瞬間、治がぼやいた。

「せや、さっき△○先生、カツラ取れとったわ」
「ぶはっ!!」
「っっ!」
「ふっ、」

思いもよらぬ突然の報告に角名と銀、俺は噴き出した。堪えられない笑いと同時にカメラの音が鳴る。

「なー、もう!笑わすなって!」

「ふ、ええ顔しとるな」
北さんと大耳先輩が赤木先輩の手元を覗き込んだ。

絶対にくしゃくしゃな顔になってる。
唐突に笑わせてくるなんて卑怯だ、と画面を見せてもらうと案の定、俺と角名、銀は破顔しているし侑は俺の手によって頬を挟まれてイケメン度が3割減だし、治だけキリッとしている。

「なんだよこの写真っ、治だけきめてんのずるいぞ!」
「なまえはきめたところで、でしょ」

何が言いたいんだ角名、俺だってマトモな顔すれば普通なんだぞ?とニヤニヤと笑う角名の背中を叩いた。

「うっわウケるわっ!なまえの顔、くっしゃくしゃやん」
「うるさい、侑お前の顔も潰れてんぞ。色々と半減してるからな」

俺のくしゃ顔を見て目を細めて笑う侑に頬を膨らませる。

俺の扱いひどくね?と小言を言いながらも、最高に楽しそうな笑顔で写る5人の姿に内心嬉しくなる。
過去の俺には縁もなかった『友達との写真』。

角名がグループトークのアルバムに写真を追加した。

また一つ、思い出のシーンが増えた。

「ちょ、なんやこれ!お前らのグループトークのアルバム、ヤバいわ。なんやこのみょうじのスカート姿は!」
「?!ちょ、赤木先輩、それは見ちゃいけないやつです!」

角名の携帯を覗き込む先輩達を阻止して俺の携帯の画面を突き出す。

「見るならコレ見てください!角名のスカート姿っ」
「っっ!!」
大耳先輩が口を押さえて笑いを堪えている。

「なまえ…」
後ろで静かにキレている角名が俺の肩に手を置いた。
「イタイイタイイタイッッ!!」

そんな俺と角名を見て笑う皆に、友達って最高だなと目を細めて口元を緩めた。

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「俺らのグループもあるで。ほら、」
「うわあ北さんと大耳さんの会話、老夫婦やん」
「『美味しい甘味処見つけたわ』『ええなぁ』『来週行こか?』『せやな、行こか』…こんなんもう婆ちゃんと爺ちゃ「ツム、北さんに聞こえるやろがっ」」
「っ!何も言うてないですよ?!俺はこの和やかな雰囲気がええなぁ、て思うてるだけです!」
「くっくっ、ツムぅ、アランくんのツッコミ見てみ『茶葉の匂いがこっちまで香ってくるわ! ぷんぷんする!』て!あかんおもろ!」
「やっぱアランくんのツッコミ、キレあるわぁ。銀、目指すんはここやで」
「俺?!」
「銀はアランくんの意志を継いだんや、バレーでも、笑いでも!」
「意志を継ぐ者…NA○UTOかよ。かっけえな銀」
「えっ、おぉ…まあアランくんは尊敬するエースやし…」
「アランくんの意志を継ぐ者として精進せな、な!銀!」
「お、おう…!!」

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