昼休み、今日は茶川と昼ごはんを食べるため、1組の教室に向かった。
朝練の時に同じ自転車部の三分を誘ったが、三分はクラスの奴と食堂で食べる約束をしていたらしく、結果2人で食べることになった。
茶川の前の席が休みで、席を借りて昼飯のお弁当をリュックから出す。
「4時間目なぁ、腹減りすぎてやばかったわ。腹めっちゃ鳴ったし、朝練終わった時点でもうすでに腹空いとったしな」
そう言うと茶川は持ってきた弁当をもぐもぐと頬張る。
「分かるわー。今日無駄にキツかった。すっげえ前で引かされた。皆全然前に出んやん!なんだよあれ!」
「ふはっ、出んやんって何や」
噴き出す茶川に頬を膨らます。
「おい、笑うなよ。こんなに関西弁に溢れてる日常で移らないわけないだろ。英語圏に住んでたら自然と英語が話せるようになったってのと一緒のレベルで俺の脳みそは関西圏に対応しようとしてんだわ」
「ネイティブスピーカーっ」
「笑うなし」
「まぁまぁ。今日はみょうじの引きが強すぎて垂れかけたわ。風避けとはいえ、ガンガン速度上げてくからこっちはついて行くのに精一杯やねん」
「いや、あれは後ろから柴さんの圧がすごかっただろ。俺変わってくださいってサイン出しても全然聞き入れてもらえなかったからな?見ただろ?俺何回もサイン出してたよな、気づいた?!気づいてくれてたか?!」
「見た見た!すまん、あれはわろたわ、俺もう走りながら笑いすぎてん、三分と2人で後ろで爆笑しとったわ!」
「いやお前ら、助けに来いよ〜〜」
「まじで柴さんみょうじの合図ガン無視で爆笑やったわ」
ゲラゲラ笑う茶川に俺も肩を揺らす。
「で、俺が疲れてきたら柴さん「もう終わりか?早いで」ってやっと変わってくれたやつ辛辣すぎるだろ…俺の心折れかけたわ…」
「いやぁアレはやっぱみょうじを柴さんのアシストとして置きたいからちゃう?実際1,2年で柴さんに付いていけてんのみょうじくらいやし…」
「いやいや、柴さんのアシストとかまだ俺じゃ力不足だろ」
茶川と朝練の話題で盛り上がっていると茶川の目線が俺から外れて俺の後ろを見た。
その視線を辿るように見ると、少し離れたところにバレー部の宮兄弟の治と侑、角名が席を囲んでいた。
やいのやいのとあちらも賑やかそうだ。双子がお互いの腕を掴み合いながら攻防戦を繰り広げている。
大方、おかずを食べられたとかそんな感じだろう。たまに食堂でも同じような光景を見るからな。
「せや、みょうじ、バレー部の宮兄弟と仲良えよなあ」
「そうか?侑と席が前後なんだよな。あと寮同じだし」
「ああ、寮生やったなあ」
「賑やか、っつうかうるさいぞ。寮でもあんな感じ」
話しながら弁当のおかずを頬張る。
寮生は昼ごはんに弁当が出る。定期的に学食の日もあるが基本は弁当があるため、食べ足りない奴は弁当に追加して購買でパンを買ったりしている。
かく言う俺も今日は朝練で結構動いたためパンを一つ買ってきていた。
弁当を半分食べたところで味変と称して、パンの袋を開ける。
焼きそばパン。たまに食べるのが美味いんだよなあ。
昼休みの教室は賑やかだ。誰かが席を立つ音とか、走る音とか、笑い声とか。そんな音をBGMに焼きそばパンを頬張るため、口を開けた。
「あ…」
目の前の茶川が俺の上を見て声を上げた。
なに見てるんだと思いながら焼きそばパンを口に持ってくる。
はず、だった。
俺の口は焼きそばパンを頬張るために開けて、準備万端だったのに俺の腕は動かなかった。
なぜか。Why。
それはがっしりと誰かに掴まれていたからだ。
俺の腕を掴んだのは誰だ。掴んだ腕を辿る。金髪頭が見えた。
あ??
あろう事か、その金髪頭は俺の手にある焼きそばパンにものすごく大きな一口で齧り付いた。
あ???
「ぅんまっ!やっぱ焼きそばパンも美味いなあ!」
あ????
こ、こいつ…俺の焼きそばパン食べた…?
もぐもぐと咀嚼しているのはさっきまで治と弁当を取り合っていた侑だった。
「ああああ??!!」
可笑しい、俺の目が可笑しいのか?さっきまであった焼きそばパンの半分がなくなっている。焼きそばパンの上半身はどこにいった?
「お、俺の…焼きそばパン…?!何で食べた?!」
「コロッケパンの仕返しや。やられたらやり返す、倍返しや!」
ドヤ顔で言う侑に俺は睨みを効かせた。
「俺は一口だっただろ!今の一口とは言わねえぞ3口分くらいあるわ!」
「いや、これが俺の一口やねん」
こいつ〜〜!焼きそばパンの半身を失って俺は項垂れた。
「ごっそさん♪」
治と角名の元へ帰って行った侑を恨めしく見る。
「ツム、なまえで遊びすぎや。完全に楽しんどるやろ」
「やられたらやり返す、倍返しや!」
「どこまで食い意地張ってんだよ」
2人に言われても何の気にもなしにケロッとしている侑。
「ジャイアンめ…」
残された半身だけの焼きそばパンを食べると美味かったから余計に悔しくなった。
「うああー、美味い…。俺の焼きそばパン…」
「やっぱ仲良えなあ。宮兄弟って取っ付き難いイメージあるんやけど、みょうじすごいなあ」
苦笑いする茶川に俺は首を降った。
「仲良いっていうか、絡まれてるだけだからな」
そう、俺はジャイアン宮侑に絡まれて振り回されているだけなのだ。
俺は平穏な学校生活が送りたいだけなのに。
「つか多分俺は同じ組じゃなかったら、話しかけてなかったわ」
「何で?」
「だって、見た目的に治安悪くね?デカいし…見た目チャラいし…圧というか…下手に話しかけたら火傷しそうな感じがな…」
「ほんまやな」
「ま、でも実際話してみたらイメージと違った所もあって面白い奴だった」
宮侑という奴はあんな見た目だけど、芯が強い人間なんだと知った。強すぎてたまに不安になる時もあるが…。
バレーのDVDを半強制的に見せられた時、目をキラキラさせて侑は膨大なバレー知識を語った。
画面の中のトップ選手を指して、これ以上になると言った言葉は本心なんだろう。嘘偽りなく真っ直ぐで強くて、その言葉を聞いて、とんでもない奴に出会ったと思った。
「すごい奴なんだか…ただのジャイアンなんだか…」
半分になった焼きそばパンを眺める俺に、茶川は同情の目で俺を見た。
***
午後から美術の授業があり、移動して美術室に入る。
美術室の席は各自自由なため、適当に座ると隣にデカい奴がドカッと音を立てて座った。
「……」
「なあなあ、美術用の鉛筆忘れてん。貸してやぁ」
隣を見ると金髪頭。
「……」
「なあなあー」
「……」
「シカトすんなや」
肩を手を置かれて人差し指で頬を刺された。
手のひらが大きいのが肩越しに伝わってくる。つか、手重い。
「…俺は焼きそばパンの恨みを忘れない」
「ちっさっ!なまえそんなちっさい男やったんか?!」
「食べた奴には分からんだろうな!この悔しさ!」
「めちゃ美味かったで」
「爆ぜろ」
「宮くん、みょうじくん、静かに」
先生に注意されて侑を睨む。舌を出して笑うこいつに絶対に鉛筆なぞ貸さないと誓う。
「銀に頼めよ」
前の席に座っている銀に言え、と侑に言う。
「なあー銀ー、鉛筆貸してやー」
「え、無理やろ。俺も今から使うねん」
「断られた」
ほら、今の流れ聞いた?せやから貸して?
みたいな目で見てくんのやめろ。そりゃ断るだろ!俺だって今から使うわ!
「では隣同士の人とペアになってデッサンを描きましょう」という先生の声に俺は絶望した。
仕方ないので、侑とペアになってスケッチブックを広げる。ペンケースを開いて、美術用の鉛筆を探す。
あれ…ない…。
「あれ、いっつも入れてるのにな…」
中をよく見ても、ない。おかしいなとふと侑の手元を見ると、シャッシャッと何か書いてる。
え、お前鉛筆忘れたんじゃ…。え、ちょっとまてよそれ俺のじゃね?
「おい、おいおいおい。侑くんそれ俺のじゃね?」
「お?ん。もうちょっとで終わるから待ってな」
「いやいやいや、ナチュラルに人のもの使ってません?」
「2人で一本の鉛筆使うんやから、お互い待たないかんやろ。待ってや。半分こ、やで」
「何で俺が諭されてんの?おかしいおかしい」
こいつ、いつの間に俺のペンケースから取ったんだ!あれか、俺が先生の話聞きながら美術の教科書読んでる時か!何かガサゴソしてるな、とは思ったわ!
「ん、終わったで」
当たり前のように次お前な、と差し出された鉛筆。
「……クソジャイアン」
「んー、何か言うた?」
俺の顔を覗き込みながら首を傾ける侑。
うっわ、こいつ聞こえてて分かったうえでこの圧!
「つか、残り時間5分しかねえじゃん!時間取りすぎなんだよ!」
宮侑、いつにも増してジャイアニズムが止まらなかった。
どうにかして、何かこらしめる方法はないだろうかと寮への帰り道、考えた。
結果、北さんに出会ったらチクってやろうという結論に至った。
食堂で晩御飯の生姜焼きを食べてる時に、ちょうどバレー部の北さんと尾白先輩が入ってきた。
「みょうじくん、珍しいなあ」
「ッス、お疲れ様です。あっ!北さん!ちょっと聞いてくださいよ〜」
「どしたんや?」
「侑なんですけど、アイツ今日美術の時間に俺の鉛筆を「あー!!なまえやん!」」
「げっ」
タイミング悪いことに侑と治も入ってきた。
「なになに、何の話してるん!」
「侑の話やで。美術の時間にみょうじくんの鉛筆を…の続きは?」
「俺の鉛筆をかっt「あー!なまえちょっと話、しよか!」
「ぐっ!」
侑の腕が俺の首にかかる。まて、絞め技すんな!
腕を叩くも侑のがっしりとした腕は俺の首から離れない。
「侑、みょうじくん話の途中や。また何かしたんか侑」
「ちゃいますよ。なまえが今日美術の時、鉛筆失くしてん、俺が探してあげて見つこうたんです。なーなまえ」
絞められながら耳元で「北さんに言うたらどうなるか分かっとるよなぁ…」とぼそっと呟かれる。目が笑ってない。
キツくて涙目になりながら、侑を睨む。
「なーなまえー♪」
くそくそジャイアンめ…!解放されたくてこくこくと頷けば腕が緩んだ。
「ほう、侑もちゃんと優しいところがあるんやな。安心したわ」
北さん!違います!断じて違います!俺は心の中で必死に否定した。
「侑が人に優しくしたとか、明日槍でも降るんちゃうか」
尾白先輩の関心したような言葉に俺は必死で否定した。
「あーぁ、出たわツムの猫かぶり」
治だけは分かってくれていた。さすが双子、良からぬことを考える片割れのことを理解している。
悔しすぎて俺の生姜焼きはしょっぱかったと思う。
今日は災難な日だった。
俺はあんなジャイアンに屈しない人間になるぞ、と心に決めて眠りについた。