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自信に満ち溢れた顔で立つ1年女子は、俺の聞き間違えでなければ「侑先輩の彼女になる女なんで」と言い切った。

おいおい、ヤバい子が出てきたぞ…。

あまり近づかない方が良さそうな雰囲気を感じ取り、自販機前から退散しようと画策する。

アハハ…なるほど、頑張って、じゃあ。と愛想笑いしながら後退りして、静かにフェードアウトする。

くるっと踵を返して渡り廊下を歩く。
自販機から離れたにも関わらず、背中に視線を感じるし、なんなら歩幅の小さな足音さえ聞こえる。

「……、」
いや、まさか、そんな。

立ち止まってゆっくり振り向くと、園江さんが腕組みをして足を止めた。

「まだ何か用でも…?」
「だから、連絡先交換しましょ?」

首を傾げて不思議そうに見つめてくるその姿に少し身を引いた。

「し、しないよ…」
「携帯、出してくださいよ」
「…今持ってない」
「嘘。さっき自販機の前で出してるところ見ました」
「うっ…」

後輩女子につっこまれてタジタジになる。
何で俺とそんなに連絡先を交換したいのかが分からない。

「侑と交換したいなら直接言えばいいんじゃ…」
「…今すぐ、交換したいわけじゃないんです」

俺から目を逸らして少し俯いた。

「ちゃんと、私を認識してもらってから…」
「え?」
「…私、侑先輩と同じ中学なんです」
「へ、そうなの?」
「はい」
「じゃあ侑、その、君のこと知ってるんじゃ…」

園江さんは首を振った。

「…中学の時に一回、侑先輩にフラれてるんです」
「えっ」

ムッとしたような顔で呟く園江さんは可愛いと思うし、侑にフラれたとはいえ他の男子からかなりモテそうな気もする。

「まぁ、いくらでも他の…、「他の人?そんな選択肢ないです」あっ、はい…」

「先輩にフラれた時、好きなタイプ聞いたら『派手な子』って言われて、」

派手な子。まさに今の園江さんは明るい髪色に短いスカート、メイクもしていて目立つし派手だと言える。

ていうか、侑何言ってんだよアイツ。まぁ目立ちたがり屋のアイツが言いそうなことでもある。

「侑先輩に告白したのは卒業の時だったんです。同じ学年でもないし、よく知ってもらってなかったし、あの時の私はまだまだ子供っぽかったし…」

確かに中1の女子から告白されてもYESとは言い難いかもしれない…、成功率は高くないだろうな…。なんて考える自分にどんだけ上から目線なんだとセルフツッコミを入れた。
俺は異性から告白されたことすらないというのに。

「でも、先輩の好みに近づけるように努力しましたし、可愛くなるために色々頑張りましたもん」
「はぁ…」
「なのに稲高に入って、すぐ話しかけたけど全然覚えてなくて…」

少ししょんぼりとした顔に上目遣いで見られて、うっ、と喉に詰まる。侑、覚えてないとか酷いだろ。
いや、でも俺のことも1年の時は同じ男子寮にいても存在すら認識していなかったからバレー以外のことには記憶力皆無なのも頷ける。

「私、可愛いじゃないですか?」
「えっ、」

可愛いと言う言葉が返ってくることが当然とでも言うように首を傾げる姿にどこか既視感を覚える。

「可愛いですよね?」
「あっ、、はい…」
「だから、今度こそいけるとおもうんです。侑先輩の彼女」
「な、るほど…」

「だから、侑先輩のこと色々聞きたいんです」

ズイ、と一歩近づいてきた。俺は一歩下がる。

「侑のことで話すことはあんまりないって言うか…」
「私が見る限り、みょうじ先輩っていつも一緒に居ますし、寮も同じですよね?」
「う、あ」
「恋に破れた後輩の手助け、優しい先輩ならしてくれますよね?」

ああ、わかった。既視感の原因。この子、侑と少し似ているところがあるんだ。
グイグイ来るところとか、自信家なところとか…。

「教えてくれないと教室までついて行きますよ?」

本当についてきそうで頬を引き攣らせた。

「それは…ちょっと…」
「じゃあ交換しましょっ」

ニコッと携帯を突き出す園江さんに、へらりと曖昧に笑い返したが、その愛想笑いは効かなかった。

「みょうじ先輩、早く。携帯、出してください」
「……うぅ」

渋々ポケットから携帯を取り出した。手助けって何なんだ?
侑の連絡先目当ての女子と繋がるのは許さないと言う侑の言葉を思い出す。
侑の連絡先は教えなくて良いなら、これは別に怒られる話でもないのか…?

慣れた手つきで操作され、あっという間に友達登録が完了した。

「ありがとうございまーすっ。スタンプ送っときますね、色々教えてください♪」

ふふふ、と満足げな笑いを見せる園江さんのコミュ力の高さに感心する。

「君…すごいね…お兄さんとかいる?」
「います!3つ上に!」
「ああ、なるほど…」

だからなのか。年上の男子に対しても気軽に話しかけられるのは兄妹の存在がいるからなのか…。

返信はあんまり期待しないでくれると嬉しい、と予防線を張ったところでやっと解放された俺は教室に戻った。

侑は席にいない。治のところか、どこかでふざけて人の輪の中心にでもいるんだろう。いつものことだ。

席につき、安堵と疲労が入り交じったため息を吐くと隣の角名がちろりと見てきた。

「さっき…すごい子がいた」
「なにそれ」

俺の言葉に興味を持ったのか角名が面白そうに笑う。

「自販機のところに行ったらさ、ギャルっぽい後輩女子に話しかけられて連絡先交換しよう、って」

「なまえの連絡先?どんだけ物好きなの」
「おい、なんかムカつくな。もちろん俺なわけないじゃん」
「うん、だよね。知ってる」
「おい。…結局、侑目当てだったんだけどさ」
「あーね。……いや、まさかそのまま交換したわけじゃないよね?」
「…なんていうか成り行きで…」
「はぁ?」

「いや、かなりこう…押しが強くて…断りきれず…」
「それ侑が聞いたらキレるっしょ」

「それが侑の連絡先を知りたいわけじゃないらしい。ただ侑のこと、聞きたいって」
「…変わんないし。てか、それ尚更キレるわ」

「…侑の連絡先教えるわけじゃないならセーフじゃないか?」
「アウトだろどう考えても」
「…じゃあ倫太郎、黙っといてな。この話は内緒ってことで」

「…はぁ、この間の治みたいなことになりそう…。変なこと話すなよ」
「さっきまで興味津々だったじゃん」
「聞かされた俺被害者だよね」

「しかもその子、すごいのが『私、侑先輩の彼女になる女なんで』って…」
「はぁ?で、なまえは何て?」
「…なるほど、頑張れ…って」
「……アホなの?絶対それ侑に言うなよ」

面倒くさそうに眉を寄せる角名に目で抗議した。

「いや、確かに可愛い子だし、自信あるのは頷けるし…。侑達と同中なんだって」
「ふーん」

2人で話していると侑が席に戻ってきた。2人して口を噤む。
侑はドカッと俺達の方へ横向きに座り、携帯を取り出してスクロールしている。

角名は眠たいのか机に突っ伏して顔を伏せた。
目の前で携帯の画面を見下ろす、その横顔に話しかける。

「なぁ、一年の園江さんって知ってる?」

侑が俺の声に顔を上げて視線を寄越す。

「知らん。男子?」
「女子」
「知らん」

知らん、って、おい…。仮にも昔お前に告白したと言う可愛い子だぞ…?

「そう…」
「何?なんかあったん」
「いや、何でもない」
「は?なん?」

俺の返答が引っかかったのか目を細める侑に慌てて首を振った。

「いやぁ、なんかすごい派手な女子だったから、知ってるかなあって」

自分の記憶を辿っているのか上を見ながらしばらくして、やっぱり知らないという答えが返ってきた。

酷いな…告白したのに忘れられてるのは辛い…。心の中で園江さんに少し同情した。

「あ、せやなまえ、春高の応援メンバーの校内募集もう出した?」

「出したけど、倍率高いし通るかどうか…。基本吹奏楽、チアとかの席メインだし一般生徒はちょっとしか選ばれないじゃん」

侑達の春高、現地で見たいんだけどなぁと頬杖をついて呟くと侑がニヤリと笑った。

「昨日家から電話かかってきてん。校内選考、落ちたらオカンが連れてく言うとる」
「まじ?いや、でも、それは悪いし…」

「『なまえくん一人くらい、おってもおらんでも変わらんて!連れてくから遠慮せんと言うて!遠慮したらおばちゃん怒るで!てなまえくんに言うとき!』て」

侑の絶妙に上手いお母さんの真似に噴き出しそうになる。

「ほんでなぁ、電話でずっとマシンガントークやねん。野菜の安売りが激戦やったっちゅう話始まって、途中からふうん、しか言うてへんかったら『あんた今ちゃんと聞いとった?今、スーパーの入口でカゴを持った話したで?ちゃんとついてきとるか?』て。まだスーパーの入口おんのかい!はよ野菜売り場まで行ってくれ!て」

侑の話にお母さんのトークが簡単に想像できる。面白くて眉を下げて笑っていると侑も俺を見て口元を緩めた。

「サムが風呂から戻ってきたら、3人で話すからスピーカーにしろ、言うし。ほんならオトンまで入ってくるし、まぁじでカオスやったわ。電話の向こうが賑やかすぎんねん」

侑をげっそりさせるお母さんもすごいし、宮家、面白すぎるだろ。クスクスと笑う。

「お母さん、面白いし、優しいよなぁ。春高の校内選考も3年が優先されるだろうし、期待して待ってみるわ」

「落ちたら俺んちと一緒に来ればええやん」
「行きたいけどさぁ」

転勤族として浅い付き合いしかしていない俺には、遠慮しろ、あんまり他人様の世話になるな、という考えが染み付いていて少し気を遣う。

「ちゅうか、来て」

侑の真っ直ぐな目にドキッとして目を伏せる。

「俺らが烏野倒すの、見といて」

不敵に笑う侑に、こんな強気なこと自信持って言えるところ、すごいよなぁと心の内で微笑ましくなった。

そしてそれを言えるだけの努力もちゃんとしているから、素直にこの親友がかっこいいと思える。

「絶対勝てよ。北さん達の分まで」
「ったり前やん」

春高や宮家の話をしていると1年女子の話題は遠ざかっていた。

かなり強気な子に絡まれ、成り行きで連絡先も交換してしまったけどそんなに影響はないだろう。

俺はいつも通り、何も聞かなかったことにして日常を過ごせば良い。

そう考えて増えた連絡先の存在を頭の片隅に押しやった。

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