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日常の中に突如現れた一年女子の存在。
エンカウントした翌日の昼休み、再度捕まってしまった。

「みょうじ先輩っ」
「うっ…」

廊下を歩いていただけなのにこうも遭遇するのは何故なんだ?

「ちょっとお話しましょうよ」
「っ、」

逃げようとしていたら、袖を握られていた。
女子の手が俺の袖口を握っている…。何か塗っているのかキラキラ輝いた爪先。

その光景に感動すら覚えてしまいそうになりながら「わ、わかったから…」とやんわりと距離を取ろうとしたが無理だった。

グイグイと引っ張られて廊下の隅に連れて行かれた。

これは一体どういう状況なんだろうか。一年女子と2人で仲良くお話する俺は傍から見たら…。

「あの、園江さん。侑のこと好き?なんだよね…。俺と一緒にいると、周りから勘違いされるんじゃ…」

俺の言葉に園江さんは不思議そうに首を傾げた。

「みょうじ先輩と私が?有り得ないですよぉ〜!」

本気か?と言われたみたいで急激に己の自意識過剰さを思い知らされて壁に頭を打ち付けたくなった。
辛い、辛すぎる。そんな勘違いすらされないようなレベルの人間だというのは分かってはいるが、こうも真っ向から否定されると辛いものがある。

「ハイ、スミマセン…」
「ていうか先輩、既読無視なんてひどいじゃないですかっ」
「あー、昨日はちょっと寝落ちして」

そういえば昨日トークで侑のことについて色々質問が来ていたな、と思い出した。

「寝落ち?」
「双子の部屋でゲームしてて、そのまま…」
「えっ侑先輩の部屋で?!え〜っどんな感じなんですかっ部屋の中!」

「どんな感じって、普通に…」
普通に生活感満載だけど…。

「いいなあ。同い年で友達同士だとそこまで近くにいれるんだ」

『友達』だから、という言葉がまるで恋愛対象ではない存在だからこそと強調されているようで少しチクリとした。もちろん普通はそういう考えなんだろうけども。

友達のままでいようとしているのに、恋愛対象外という線引きに少しだけ傷付いている俺は自分勝手な人間だ。

「侑先輩、中学の時は治先輩と常に一緒だったし、そこまで仲良い同級生って見た事なかったけど…」

園江さんが俺をじっと見てきた。

「正直、不思議です。みょうじ先輩って侑先輩と一緒にいるようなタイプじゃないなって思ってたんで」

「い、言うねえ」
否定はできない。自分も本来、侑達とは違う部類だと思う。大人しくてクラスの陽キャと接するようなグループには属していない。

「何で仲良くなったんですか?私も仲良くなるきっかけが欲しいです」
「何で…、」

侑と一番最初に話した時のことを思い返してみる。確か…部活中に、柴さんに負けて悔しかった俺が苛立ちのままに睨んでしまって…。
そこから治きっかけで絡まれるようになって…。

「いやぁ、一番最初は最悪な印象だったかも」
「全然、参考にならないです」

むぅ、と頬をふくらませる園江さんに苦笑いで返した。

「侑先輩って彼女とかいないんですよね?」
「俺が知る限りは…いないね」
「仲良い女子とかいるんですか?」
「…女バレのキャプテンとか仲良さそうに話してるのは見るかなぁ」

俺の言葉に園江さんの顔がますます不服そうな表情になっていく。

「同じ学年ってだけで…ずるい…」

悔しそうな顔をする園江さんに何かフォローしなければ、と罪悪感から慌てて手を振った。

「でも園江さんは同じ中学だし。色々共通の話とか出来そうだと思うけど」

「稲荷崎に入ってから侑先輩、ますますカッコよくなってるし、人気だし、もっと存在が遠くなった気がします…」
「まぁ、あの双子賑やかだしなぁ…」

輪の中心にいることが多い双子達に確かに距離を感じてしまうこともあると思う。

「今度、昼休みにみょうじ先輩のところに遊びに行っていいですか?」
「え、教室に?」
「はい。侑先輩と話すために」
「あー、うん、まぁ…」

いいのか?何か侑に知られたら何だか面倒なことになりそうな気もするけど…だからと言って断る理由も見当たらない…。

「俺、昼休み自転車部の友達と一緒に食べてるから教室いないこともあるし…。来る前にメッセージ送ってくれたら…心の準備もあるし…」

準備というか、覚悟というか…。

「わぁっ、先輩ありがとうございますっ!」

花が咲いたように笑う園江さんが眩しすぎて、破壊力を感じた。

年相応のあどけない笑みに2つ下の後輩というだけで微笑ましくなる。

園江さんって、明るい髪色も良いけど落ち着いた色の方もまた違う雰囲気で似合いそうな気がするけどなぁと個人的な感想を思いながらその場から撤退した。



***


清掃時間、某掃除場所にて。


「っていうことがあって…」

俺の目の前には箒を握る佐倉さん。そして俺も箒を握っている。

校舎外の落ち葉を集めながら、事の発端を話した。

「はぁぁぁ??え、ちょお待って。宮くんの彼女になります宣言した一年の子とみょうじくんは連絡先交換した、と。でもそれを宮くんは知らん、ってこと?理解が追いつかへんよ?」

佐倉さんの勢いに押され、ちょっと断れなくて…と小さく呟く。

「いやいや、まず一年女子と連絡先交換するなら、私ともしとこ!」

後で携帯持っていくから!という佐倉さんにうん、と頷く。女子の中ではよく話す方だし、佐倉さんとなら連絡先を交換することに特に何の躊躇いもない。

「はぁぁ、みょうじくん押しに弱すぎやんね…」
「うっ」

少しだけ自覚している手前、否定しづらい。

「ていうか、その宮くんの彼女になる宣言の自信はどっから来んの?!」

プリプリしている佐倉さんに気圧される。
「あ、これはフラれた奴の負け惜しみとちゃうから!私はもう、吹っ切れたし!」

「うん、分かってる。俺は佐倉さんのそういう強いところ、すごくかっこいいって思う」
「……そういうのええからっ!」

少し顔を赤らめた佐倉さんがバシッと俺の肩を叩いてきた。最近佐倉さんの強さが増している気がする。


「みょうじくんはそれでええのん?」
「え?」
「宮くんとその一年女子が仲良くなるの。ええの?」
「…良いも悪いも…俺は別に何も言う立場じゃ…」
「そうじゃなくてみょうじくんの気持ちは?!嫌とか!」

嫌?そりゃ本音を言えば複雑だし、嫌だよ。可愛い園江さんなら本当に侑の彼女になってしまうかもしれない。想像しただけでキリキリと胸が痛むが、そんなこと言えるわけない。

だって俺は親友だから。

「別に…」

思った以上に口から出たのは弱々しい声で誤魔化すように咳払いをした。
佐倉さんの目が俺をじっと見つめた。

「私はやだ!…負けたらあかんよ!」
「えっ?負けるってどういう…勝負なんてしてな「おーい、掃除終わり!片付け〜!」」

他の生徒の声によりかき消された言葉は口の中で消えていった。

じゃあ後で教室行くから、という佐倉さんと分かれて教室に戻った。



***


男子寮に帰り晩御飯を食べ終わった後は、いつもの如く侑が部屋に来ていた。

携帯で最新の流行りものを調べているようで、俺のベッドに寝っ転がった状態で携帯を両手で上に掲げて鼻歌を歌いながら眺めている。

流行りものに疎い俺は、そういうものに興味関心を持つところがイケメンと非モテの違いだろうか?と冷静に分析した。

平凡な俺は流行に乗ったところで、毛が生えた程度か…と諦めモードでテレビゲームをする。

床に置いてある携帯からポロン、と軽快な通知音が聞こえてゲームの中断ボタンを押した。

携帯を手に取ると一年女子の園江さんからメッセージが来ていた。

《侑先輩が今聴いてる曲とか知りたいです!》

音楽かぁ。今流行ってるものなら一通り聞いてると思う。

《流行りものとか好きだし、今人気なものは大体聴いてると思うよ》

侑のことを色々聞いてくる園江さんの姿を思い出して侑に話しかけた。

「…なぁ、派手な子がタイプなんだ?」
「はぁ?なにが?」
「好きなタイプ」
「、!いだっっ」

唐突な俺の言葉に侑が手から携帯を落とした。顔の上で見ていた携帯は侑の顔に直撃した。

その姿が滑稽で少し噴き出す。

「なんや、いきなり」

侑が起き上がって床に座る俺をベッドの上から見下ろしてきた。おでこが赤くなっているのが面白い。

「風の噂で侑の好きなタイプは派手な子って聞いた」
「は?どこ情報やねん」

「女子がだいぶ前に侑に好きなタイプ聞いたら『派手な子』って言われたって」
「はぁ?俺が?いつの話やねん」

心当たりがないというような不思議そうな顔。

「え、まさかお前自分が言ったこと忘れてんの?」
「…言ったような、言うてないような…覚えてへん」
「うわぁ…サイテー…」
「何で最低なんやっ」

そんな適当な感じで答えていたとは…。お前の言葉一つであんなに外見変えてる子がいるっていうのに!

「自分の言ったことに責任持てよなぁ」

「…前はそやったけど、今はちゃうし。タイプと好きになるのは違う、て言うやん」

「どうだか」

派手でバチバチにきめてる女子がタイプ、と言われれば頷けるし、実際そういうの好きそうだよな、と思ったりもする。

自分とは正反対なタイプ。そもそも性別も違うし比べることすらおかしいが、あまりにもかけ離れすぎていて内心面白くはなかった。

そんな俺の横顔を見た侑は口を開いた。

「……今のタイプは、髪短くて、日焼けしとって、笑い方おかしくて、上っ面だけはよくて、愛想笑いばっかでモテへんフッツーの「ああああああ、もうこの話終わり!!」」

雲行きが怪しくなってきたため咄嗟に侑の言葉を遮る。

「自分から振ってきたんやろ、話聞けや」
「終わり!終わり!ゲームに集中するから黙ってろ!」
「聞け、て」
「聞かない。絶対に聞かない」

ベッドから下りてきた侑から逃げるようにコントローラーを持って床をゴロゴロと移動する。

「来るなっ、」
「聞け」
「来るなーっ!」

床の上で体を丸めて防御の姿勢を取っていると侑が俺の体を無理やり反転させた。

「うぐぅ、」
「で?好きなタイプ知りたいんやろ?聞けや」

俺の体の横でヤンキー座りでしゃがみこむ侑を見上げる。
にっこり笑う侑の顔が怖くて、コントローラーで顔を隠していると、また携帯からポロン、と音が鳴った。

チャンス、と逃げるように携帯を手に取る。
画面を見ると園江さんからの追加メッセージだった。

「今、やり取りしてるから、もう話は終わり」

ポロン、ポロン、と連投で鳴る音に侑を無視して返信する。

「誰?」

気になったのか侑の質問にヒヤリとした。ここで園江さんと言うとマズイ気がする。

「一年の後輩。…色々教えてほしいって言われてて!相談乗ってるんだよ、学校のこととか…」

あたかも男子の後輩であるような雰囲気で話す。俺も先輩だし、やっぱ話しやすい人柄だし?と得意げに言うと「ふーん」という回答が返ってきた。

それ以上は深く追求されず、返信をする俺を横目に侑はベッドの上に戻った。

何とか切り抜けた俺はそっと胸を撫で下ろし、中断していたゲームを再開した。


***


それから数日、頻繁に園江さんとメッセージの往来があった。

それは食堂で晩御飯を食べている時もやって来る。

侑の隣、角名の目の前でご飯を食べている時、机の上に置いていた携帯が短く震えた。

他愛ない話をしながら食べていたため、一人会話から抜けて携帯を手に取った。
園江さんからのメッセージを読んでいると侑が顔を向けてきた。

「またぁ?どんだけ相談してんねん、そいつ」
「なに?相談て」

侑の言葉に、角名の隣、俺の斜め向かいに座っている治が反応する。

「なんや後輩の相談に乗っとんやて。一年の」

侑の言葉に、味噌汁を飲んでいる角名がいきなり咳き込んだ。とてつもなく面倒くさそうな顔をして見てくる。
しかも、机の下で俺の脛を蹴ってきた。
俺も目を細めて角名を見る。

(まさか後輩の一年ってあの女子じゃないよね?)
(察しろよ…!そのまさかに決まってるだろ!)

目と目で会話する。

「何の相談やねん」

侑が白米をパクパク口に運びながら横目で見てきた。

「それは…守秘義務というものがあって…言えないデス…」
「ずっとやん。部屋でも、食べとる時も、何なん?彼女か?彼女ばりやん!」

「え?女子なん?」
治がきょとんとした顔で聞いてきた。ここで『ハイ、そうです』なんて言うと大変なことに…。

「……まさかそんなぁ…いでっ!」

咄嗟に出た否定に近い言葉。同時に角名からまた脛を蹴られた。

俺が女子と連絡先交換できると思うか〜?とゴニョゴニョ言うと「できるわけないよなぁ、なまえやもん!」と横から侑がケラケラ笑いながら言う。

(ああ、やばい。相手は女子なのに女子じゃないみたいな嘘に近いこと言っちゃった…)

どうしようという顔をして角名を見た。
完全にスンとした表情で俺をちらりと見てくる。

(終わったね。これで本当のことバレたら終わり。)
そんな目だ。


「ま、まぁ一年って多感な時期だし、色々あるんだよ、恋愛とか友達とか色々と」

俺が良き先輩としてアドバイスしてあげないとな〜、アハハ。
なんて得意の作り笑顔を貼り付ける。

完全に自分で自分の首を締めてしまった。


***


そして恐れていた日は唐突にやって来た。

昼休み、携帯に入ってきたメッセージ。

《みょうじ先輩、今から行きますっ!》

可愛い絵文字付きだ。

俺は3-5組の自席にいる。侑は目の前で片耳だけイヤホンを付けて、たまに俺に話しかけてくる。

角名は携帯をいじっていた。

完全に役者は揃っている。
やばい、後は園江さんが来れば舞台の出来上がりだ。

角名が欠伸をして長い腕を伸ばした。腰を上げかけたため、咄嗟に角名の腕を掴む。

「い、行くな」
「はぁ?」
「ここにいろ、いや、いてくれ頼む」
「なに?自販機行きたいんだけど」

涼しげな目で見下ろす角名に頼むっ、と懇願するような顔で見上げていた時だった。

「みょうじせんぱーいっ」

廊下側の窓が開いて、明るい髪色を揺らした女子が笑顔で覗き込んできた。

俺を見下ろす角名の視線、携帯を見ていた侑の視線が一気に彼女に移る。

ああ…ついにきてしまった…。
全てが公になる日が…。

俺よ、どうか、ご無事で。

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