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風呂上がり、男子寮のレクルームで角名と一緒にテレビを見ていた。

机の上に課題を広げてはいるものの、テレビを見たり、携帯を見たりと進捗は進んでいない。

何を話すわけでもなく、時たま雑談しながらお互いにしたいことをしているとレクルームの開放された扉の先、廊下の方から足音が聞こえてきた。

ドスドスと踏み鳴らすような足音に反応して顔を上げる。

「…侑が来た」

俺の呟きから数秒後にレクルームに顔を覗かせた寮生。

「おったぁ!」

予想通り、侑だった。
角名がレクルームに入ってきた侑を見て、少し眉を潜めて俺を見てきた。

「ヤバ…。何で侑って分かったん」
「え?足音」
「は?」
「だから、足音。アイツの足音ドタドタしてるじゃん」

歩き方で分かる、というと角名が理解不能というようにドン引きしたような顔をした。

「…え…引くわ…」
「はぁぁ??」

いきなり人のことを引いた目で見てくる角名に、解せぬと視線をぶつける。

「何?なんの話??」

侑が俺の隣に座り、肩を寄せてくる。

「今、入ってくる前になまえが『侑が来た』って」
「はっ?!何でわかったんや!」
「足音で分かったんだって」
「足音ぉ?」

「そんなおかしいか?侑と治と角名なら聞き分けがつくぞ」
「えっ、俺の足音も分かんの」
「いや、普通に生活してたらわかるだろ」

毎日同じ屋根の下で生活していれば歩き方とか特徴も何となく分かってくるものじゃないか?親しい奴限定だが。

「足音で分かる、てやばないか?!ウケるわっ」

面白いものを見つけたようにキャッキャと笑う侑を横目に見ていると、また足音が聞こえてきた。

「…あ、治も来た」

呟いた後、治がレクルームに入ってきた。

「うおぉっ!ほんまや!何なんなまえ!やばい」
ゲラゲラ笑う侑に治が何わろてんねん、とツッコむ。

「なまえがなぁ、足音で俺らのこと分かるんやって」
「足音で?」
「歩き方がわかりやすいんだよ。侑はドタドタしてるし、治はゆっくりめで、角名は静かな感じ」
「完全に分析してんのウケるやろっ、ちょおサム、試したろ。なまえ、こっち見んなよ」

侑が治を引っ張って部屋の後ろへ向かった。遊び始めた双子に付き合ってやる。

「どっちが歩いたか当ててや〜」
「いつも通り普通に歩けよ、いつも通りッ!わわざと変えるのはナシなっ」

いくで、と声がかかり後方で歩く音が聞こえた。ゆっくり歩いているが少し強めの歩き方。これは多分、「侑」

答えると後ろで侑が「何でやっ、何で分かんのやっ」とはしゃいでいる。

角名もこっちに来い、と召喚され三人が背後で歩き始めた。
振り向けば、きっとシュールな光景なのだろう、笑いを堪えて肩を震わせた。

「今の誰やと思う〜?」
「今のは、治」
「ヤバいヤバいっ!当たっとる!怖いわっ!怖すぎやろっ!次は難しいで!」
「…分かりにくいけど、多分角名」
「オッホホ、なまえ気持ちわるっ」
「おいっ、気持ち悪いとはなんだよっ」

振り向くと角名が口に手を当ててぷくぷく、と笑っている。

「ステルスゲームのしすぎじゃない?」
「あかん、男子寮でステルス対戦始まるで」
「おおっサムそれ面白そうやな!角で待ち構えとったりな、背後も気をつけとかなっ」

足音で敵を察知する、というのはステルスゲーの基本中の基本だ。
話しているとゲームをしたくなって部屋に戻ることにした。

「ゲームしよっかな〜、俺、部屋戻るわ」

角名と治はもう少しレクルームに残るらしい。
勉強道具を片付けて部屋に戻ろうとする俺に、侑が当たり前のように後ろについてきた。

「俺もする〜」

頭の後ろで両手を組んでついてくる姿に一瞬考えたが、何も言わずに自分の部屋に向かった。
部屋のドアを開けて入ると、続いて侑も入ってくる。

我が物顔で床に座り込む侑を横目に床に置いている据え置きのゲーム機を起動させようと膝をつき、ゲーム機に手を伸ばした。

瞬間、脇腹を触られて、体がビクつく。
「うっ!」

いきなり脇腹という急所を触ってきた侑に、何をするんだと睨むと「はよして〜」と意地悪そうな笑いを浮かべてゲームの起動を催促してくる。

ちょっかい出してくるな、と視線で訴えてコントローラーを手に取った。

「ゲームオーバーになるまでは代わらないからな、」

先手は俺から、とゲームを始めるも右隣に座る侑との距離が近い。ぴたりという言葉が的確なほど、腕が触れる距離だ。

こいつ、自分から避けるとか遠慮するとかないからなぁ。近いからと言って自分から座る位置をずらすとかそんなことはしない奴だ。

いつも折れるのは俺の方ばかり。諦め半分で少し隣にずれてやる。
敵を倒すことに集中していると、いつの間にかまた侑がピタリと横に来ていた。

「………」

距離が近すぎるんですけど。
横目でじっと、見るも侑は気にせずゲーム画面を見ている。
俺の気にしすぎか?

少し気になりながらも、キャラクターを操作していると、右肩にずっしりと重たくなった。

横にいる侑がのしかかってきている。わざとだ。早くゲームの交代をさせたいのだろう。

「重たっ、邪魔すんな」

ケラケラと笑う侑を横に踏ん張り、負けてたまるかとキャラクターを操作する。

「つうか、近いっ!」

一時中断して、侑から距離を取ろうと横に動くとニヤニヤしながら「なに?なまえクン、意識しとん?」なんて抜かしてきやがった。

「はぁっ?してないしっ」

意識、とかいきなり何を言い出すんだと少し顔が熱くなる。
そんなことを言われると何も言えなくなる。意識してるわけじゃないし、悔しいが言い返さずゲームを再開した。
ムキになったら負けだ、と悶々としていると、あろうことか侑の手が胡座をかいて座っている俺の太ももに触れてきた。

他人の手の感触に、ビクッと揺れる体。

乗せてきただけ、という表現が正しいが侑の大きな手のひらは俺の太ももの大部分を覆っている。

ゲームなんて到底集中できなくて操作するキャラクターは敵にやられて負けてしまった。

「お、ま…っ」
「次、俺〜」

ニヤニヤと楽しそうに笑う侑を恨めしげに睨む。
コントローラーを取ろうとする侑に、流石にそれはないだろ、と抵抗して離さないでいると侑の手が俺の手の甲をつつつ、となぞった。

「っ、」

背中がぞわり、として腕が揺れる。

この間の休みに映画を観た日から二人きりになると、どうも距離が近いし、触れてくることが多くなった。
周りに人がいる時は今までと同じ距離感なのに(それでも近かったが。)、2人になると触り方が、なんだか、その…。


「侑クン…セクシャルハラスメントって言葉知ってマス…?」

口元をヒクつかせながら言ってやる。暗にその触り方はよろしくないだろ、と。
返ってきた言葉は、

「知らーん♪」

ケロリと笑う侑に知らん、じゃねえんだよっと叩きたくなる。

「何がセクハラなん?教えて?」

まるで、いたずらっ子のように挑発する目で上目遣いで覗き込んでくる侑に頭の中で、危険信号が点滅し始める。

これ?

そんなことを言って俺の腕を触ってきた。

図体の大きい侑にマウントを取られると最後だ。絞め技でさえ力尽くでかけてくるコイツがエスカレートしたらどうなるか、なんて想像するのも怖い。

クマと一緒だ。伸し掛かられたら終わり。
コイツと二人きりはヤバい。

…だからレクルームから部屋に戻る時に一瞬、どうしようかと考え込んだのにっ。

危険すぎる。今すぐ逃げなければ。
侑の手から逃れ、勢いよく立ち上った俺を侑が見上げてきた。

「俺は角名の部屋に行くっ」
「俺も行こー♪」
「来るなっ、お前は来るなっ」

部屋から飛び出て、角名の部屋の前でドアを叩く。

「角名っ、角名っ!」
「なに、うるさい」

開いたドアに逃げるように入り込む。

「ちょ、」
「角名ぁ、遊びに来たで〜」

二人で部屋に押しかける形になり、角名は嫌そうな顔で目を細めた。

「はぁとりあえず安心っ…。漫画読みたい。角名、見せて」
「ゲームしよや、ゲーム」
「いや、帰れよ」

角名が自由に過ごし始める俺達に、呆れたようにため息を吐いた。


***

ゲームをする侑と角名の会話をBGMに漫画を読んでいると段々と眠くなってきた。
ベッドを背に目を閉じるとあっという間にうとうとしてくる。

このまま眠りたい。意識が落ちそうになっている狭間で角名の声が遠くに聞こえる。

「ちょっと何で寝てんの。なまえ、起きろって」

「は?侑まで…、おい、起きろ。ここで寝るなよ」

角名の焦りの混じった声が子守唄に聞こえる。

「もしもし?治?ちょっと回収しに来て。侑が寝落ちした。は?疲れたとかじゃないから。今すぐ来て。何で3人で同じ部屋で寝ないといけないんだよ。今すぐ来て、って。いや、もう寝るとかじゃないんだって、来いよ」

「おい、なまえ起きろ」

「ん…」

無理、この微睡みの中、目を開けるなんて絶対無理。頑張って目を開けようと瞼に力を入れてみる。ぼやぁと視界の3分の1が開いた気がしたが一瞬で閉じた。

また頑張って開けようとしても、睡魔が強すぎて開かない。

「ブッ、目がやば…白目っ」

ふっ、フフフッ、と角名の珍しい笑い声が耳に入る。携帯のカメラ音も聞こえてきたが夢なのか現実なのか区別がつかなくなってきた。

とにかく柔らかいベッドの上で寝たい。それだけだ。

覚醒しない頭で目を閉じたままベッドによじ登り、待望の柔らかいマットレスの上でうつ伏せになる。

「このっ、お、き、ろっ」

ごめん、眠い。無理。
角名の声を手段するように気持ちよく意識を手放した。


***

翌朝、目が覚めると自分のベッドの上だった。
爆睡して目覚めはすっきりしている。
ただ、昨日角名の部屋で寝てから記憶がない。

食堂でご飯を食べている角名を見かけて、声をかけるとキレ気味に「よく眠れたようで」と言われた。

「はっ?!なまえ、角名の部屋で寝たんか?!」

同じテーブルで食べる侑が目を見開いた。隣では治が朝から美味しそうに咀嚼している。

「昨日はめちゃくちゃ眠かった…。角名のベッドに上がったら、もう即行落ちた」

「はぁぁっ?!」
「うるさい。侑も寝落ちしたくせに。治に回収されなかったら部屋の外に出してたから」

角名がじろりと侑を見た。

「ぶはっ、侑、お前治に回収されてんのウケる」
「うっさい」
「こいつ全然起きひんし、米俵式で連れてかえったわ。重たいねん」
治がはた迷惑と言いたそうな顔で言う。

角名の隣に朝食を乗せたトレーを置いて俺も席に座った。

「俺、自分で部屋に戻ったんかな。記憶がないんだよなぁ。夢遊病?」
「んなわけないじゃん。誰が運んだと思ってんの」
面倒臭そうに言う姿に角名が自室まで運んでくれたのだと気づく。

おお、角名が運んでくれるなんて。

「倫くんアリガトッ。ちゃんと布団かけてくれるところスキッ!惚れるっ!」

ふざけて角名にウインクすると「今、鳥肌立った」と言われて泣いた。

「おまっ、今っ、好き、て!」
「侑ぅ、朝からうるさいな。テンション低い時と高い時の差が激しすぎんだよ」

眠気に負けてる時はひたすら黙ってるのに。
目の前に座る侑が机の下で足を蹴ってきた。

蹴るな、と目を合わせると信じられないという顔で「言えるやんけっ、」とぶつくさ言っているが無視しておいた。

「今度寝たら廊下に出すから」
「許して倫くん〜」


こうして賑やかな一日が始まった。

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